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そして子どもは渡された

そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ著)を読みました。


感動する面も多々あったのですが、設定に気になるところもあり、読後感はもやもやしたものでした。いろんな意味で考えさせられる本です。
感想として、いいところ3、悪いところ7の割合です。

いいと思ったところから記載します。
この著作を気に入った方は悪いところを見ると気を悪くされると思うので、いいところだけ読んでください。以下 ネタバレです。





《いいと思ったところ》
子供がいたら、「明日は 一人でいる時よりも 2倍の楽しみがある」という言葉は、子供を持つ母としては、腑に落ちるものでした。
独身時代は自分のことばかり考えていればよかったけれど、子供ができると、子供を最優先にせざるをえないようになります。それはかなりしんどいことですが、反面、自分よりも優先できるものがあるということはとても幸せなことだと思います。子どもといると独身時代には感じなかったような幸福感、生きていて良かった、私はこのために生まれてきたのか、と心から思える瞬間に出会えます。
そのような言葉を最後の父親である森宮さんが語っていて、そこはとても身近に感じました。


《悪いところ》





まず 設定が現実離れしています。
実の父親がブラジルへ海外赴任する際、娘を手放して継母(りかさん)が親権を持つことになるのですが、そもそも娘を手放すこと自体がおかしな話。仕事を取るなら娘をブラジルに一緒に連れて行くだろうし、娘を優先するなら転職すればよかっただけだと思う(きょうび海外赴任を断ったからと言って左遷はまだしも、首を切られるなんてブラック企業にもほどがある)。そこで娘を他人に預けて海外に行く選択肢はないわ…。
私が亡くなった産みの母親なら化けて出るね。
実の父と一緒に育ててくれた祖父母は主人公にも忘れられ、フェードアウト。

そして継母のりかさんはそれ以上にありえない。女は愛嬌、と自らを可愛く見せることに余念のない若い女性が、血の繋がらない娘を 最優先して、ピアノを弾かせるためだけに金持ちの年上の男と結婚し、自分が不治の病になって、『母親をもう一度亡くす』という思いを娘にさせたくないからと離婚、そしてまた娘のために高学歴の同級生(まだ若く、すぐに死ぬ可能性が低い)と結婚。
結婚相手をただの駒としかみてないですよね。それで自分より子どもを優先している、と言えてこの本の登場人物全員がそれで納得しているのが、何だか怖い。

実の父とりかさんが離婚し、りかさんが娘を引き取って育てているものの、彼女は金遣いが荒いため、養育費と自らの給料を合わせても足りず、「今月は何百円かしか残っていない」。
そしてカバンの中を漁って50円玉が見つかって喜んでいる2人の生活…それが楽しいと言える 2人のメンタルも信じられない。
令和の日本の話ですよね?

実の父親はりかさんが金を管理できないって知ってて娘を預けたんだろうか、と思うとますます無責任さに腹が立ってきます。

極めつけは離婚した後、実の父親が娘に送っていた手紙を、「これを読んだら父親に会いたくなるかもしれない」と、りかさんの勝手な判断で娘に渡さず手紙を隠匿して連絡を取らせなかったこと。
…これって許されることなの?
娘を自分の所有物にしてますよね、それで娘を『バトン』に例えているのなら、なんてブラックユーモアなんだろう。

父親は、娘から音沙汰がないことに何の反応もせず、ただひたすら手紙を送りつけているだけ。娘も娘で、父親の手紙が隠匿されていたことが判明した後でも、もう過去の話だからと手紙を読まない。
そして最後、娘の結婚式で実の父親と、りかさん、年上の金持ち父さん、東大出の若い父親、みんな揃ってご対面なのだが、良かったね、幸せだね。と大団円。終わりよければ全てよし。

本屋大賞をとって、本の帯に『中高生に進める本』とあったが、主人公の娘の立場で読むなら、血の繋がらない親でも愛情さえあれば幸せに暮らすことができますよ、というメッセージにはなるのでしょう。でも、りかさんや無責任な実の父親のようにだけはならないでほしいと切に願います。
特にりかさんはひどい。

子どもを育てることのありがたみは丁寧に描いてるのだから、もうちょっと現実的な設定で話して欲しかったですね。

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