【第23話】朝イチの採血

ほぼ毎日、朝6時頃になると、僕の病室を訪ねてくる若者たちがいます。それは、研修医の皆さん。朝イチの採血検査で、僕の血液をとりに来るのです。

その中に、I(アイ)先生という方がいます。彼は、九州男児で高校野球経験者。「ケガなどで、プレーできないスポーツ選手のサポートがしたい」と、2浪して医学部へ合格したそうです。そんな彼とは、野球という共通点もあり、よく話をするようになりました。

ある日、I先生が「何回も刺してしまって痛かったですよね、本当に申し訳ないです」と、まるで自分が痛かったかのような顔をして謝ってくれたことがありました。

彼が、そこに血管があると思って、針を刺した僕の腕に血管がなくて、3回の失敗後、4回目でようやく採血できたのです。

本当に申し訳なさそうに謝るI先生。

しかし、これには、大きな理由が……。

実は、僕の身体に流れる血管は採血が難しいらしく、ベテラン看護師さんたちでさえも、1回で採血できる方はなかなかいません。看護師さんたち曰く、「血管が逃げる」とのこと笑。それを知らない彼は、すべてを自分の技術不足として、何よりも僕のことを気遣ってくれているのです。

今朝、「I先生、今日は、左腕5回、右腕5回までは刺していいよ笑」とおちょくると、「いえ、一発でいきます!」と宣言して、見事に1回目で採血できた彼。本当に安堵した顔で、また次の病室へ向かいました。

もちろん、一発で仕留める先生や看護師もいるし、彼の経験不足もあると思います。

しかし、いつも、彼の思いやりある言葉を聞くたびに、「こういう人が、良いお医者さんになっていくんだろうなぁ」と、僕は、少し元気がもらえるのです。

(針を刺されることが楽しみな朝は、なかなかない。おれがどの目線で言うのかは分からないけど、I先生、キミは良い医者になる)

2023.11.27

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