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『NTT法』改正に見る「特別な資産」の行方①

2023年10月19日と21日、CNET JAPANから「NTT法に関する議論」というテーマの記事が2本公開された。

これは、前身が国営企業だったNTTが民間の通信事業者と公平に競争するために設けられた『NTT法(『日本電信電話株式会社等に関する法律』)』という法律の廃止について、民間の通信大手3社が反対をしているものである。

NTT用の廃止が議論されることになった背景は、国の防衛費の増大に伴う財源の確保。将来的には我々国民にも増税することで確保しようとしているが、現時点では、国の所有する資産を売却して何とか確保できないかということで槍玉上げられたのが、国が所有しているNTT株の売却。

しかし、この売却にはNTTの民営化に際して制定された『NTT法』を改正する必要がある。NTTは電電公社時代(国営企業)だった時代に、国の財源を使って電信柱や局舎などの通信に必要な資産を設置することができた。つまりNTTは、他の通信大手と比べて民営化後のアドバンテージがあるのである。

他の民間通信大手は自前の電柱や局舎を一から作り上げる手間が必要なのにも関わらず、NTTは民営化と同時に通信事業をやる土台がすでに整っている。その不公平なアドバンテージを是正するために存在しているのが、今回話題にされている『NTT法』と言う法律なのである。

さて、記事の内容についてはリンクから見てもらうとして、ここでは、「『NTT法』廃止の議論についての問題点」について話していこうと思う。

疑問①:「特別な資産」は本当に必要なのか?

記事を見てもらえれば分かるが、今回の議論に関して民間3大手社が再三問題に上げていたのが、「特別な資産」の運用をどうするのか?ということ。

改めて言うが、「特別な資産」とはNTTが国営企業時代の時に政府の財源によって設置した電柱や局舎などの設備のことである。
NTTは他の通信大手と違い、民営化のタイミングでこれらの資産をすでに持っていたので、通信ビジネスを始めやすかった。ところがそれをそのまま許すと、0から始める民間事業者と不公平な競争を生んでしまうので、『NTT法』という法律を制定して特別な資産の運用について不公平が生まれないようなルールを作った。

そもそもの疑問だが、この「特別な資産」というのは一体何に使われているのだろう?

例えば電信柱。これはおもに通信に使う電線を張るために建てられた柱だ。これがあることによって、現在の日本の主流なブロードバンドである「光通信」が実現できている。
さあ、ここで大きなポイントになる「光通信」だ。

「光通信」とは、光ファイバーというケーブルを使ってブロードバンドサービスを提供する通信のことである。この光ファイバーは地下に敷かれており、そこから流れる通信が電信柱に張られる電線を伝って私たちの家庭や職場がインターネットに接続できるようになっている。そして、この光ファイバーケーブルの一部も、NTTが持つ「特別な資産」に該当する。

ここで気になるのは、光ファイバーを使った「光通信」なるものが今後も必要とされるかどうか、だ。

「特別な資産」をどう扱うかが今回の議論ににおいて重要だとしたら、その資産というのは当然、「今後も需要がある資産」ということだろう。需要がない資産をわざわざ議題に上げる必要はないからだ。

ところが、この「特別な資産」が今後も需要のがあるとは必ずしも言えない状況になっているとしたらどうだろう?

現在アメリカでは、民間宇宙企業スペースXが手掛ける「スターリンク」という通信サービスが普及している。これは「衛星ブロードバンド」と呼ばれる通信方法で、簡単にいうと、「人工衛星を基地局に見立てて通信を行う」というものだ。

この通信方法の最大の利点は何かというと、山間部などの通信がつながりにくい地域であってもインターネットに接続できること。

これまでの基地局というのは基本的に地上に設置されることがほとんどだった。その基地局を通じて各エリアに電波を届けることでインターネットに接続できたり、通話が行えたりしていたのだ。

ところが、地上に基地局を設置しているのはいくつか問題がある。

まず、災害に弱いということ。地震や津波に襲われた時、地上に設置された基地局はその影響を受けてしまう。故障するだけでも厄介だが、最悪なのは、基地局に流れる電気が漏れて、漏電や爆発を起こしてしまうこと。こううなると人命に関わてしまい、基地局周辺に人を近づけることができず、交通規制がかけられてしまうこともありうる。災害時に交通規制が多ければ多いほど、避難はより困難になるだろう。

もう一つは、山間部に電波を届けられないことだ。山の間は傾斜が大きいため、基地局を設置するのにとても苦労する。仮に設置するできたとしても、それは、山を切り開いて平地を確保することになるので環境への影響や災害対策の上でのリスクが高い。住民からの反対もあるだろう。なので、山間部に基地局を設置するのは難しく、それゆえに電波を届けられない。

山で遭難した時は電話やインターネットに繋いで連絡を取りたい。ところが、周辺に基地局がないことで電波が届かず、連絡はできない。位置情報も把握できない。これもまた人命につながる問題である。

この問題について解決を図っているのが「衛星ブロードバンド」だ。
人工衛星が知己局として機能しているので、電波は地上からではなく宇宙空間から発されている。なので、山間部であろうと問題なく電波に繋がることができるのだ。
スペースXはこの「スターリンク」という衛星ブロードバンドを全世界に展開し、世界中のあらゆる地域をインターネットに接続させるという目的の元、今も衛星の打ち上げを行なっている。

何が言いたいかというと、今後の通信方法の主流は、光通信ではなく衛星ブロードバンドに移っていく可能性が極めて高いということだ。

これはすなわち、今議論されている「NTTの持つ特別な資産」については、資産そのものの価値がどんどん小さくなっていくとことを意味する。
だとしたら、「特別な資産」を守ることよりも、衛星ブロードバンドに必要なゲートウェイの構築をどうするかや、自前の人工衛星を増やすために国内の宇宙開発企業と協力する方向に議題を持っていく方がいいのではないか?
という話だ。

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