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関係的自己論と「子ども理解」

 今回は社会の生きづらさと「子ども理解」の関連について、ハーマンの「関係的自己論」を用いた議論を簡単にまとめた

表面に現れる子どもの行動とその背景

 田中は現代の子どもの攻撃性の問題を例示して、そういった子どもの問題行動の根源を社会の変化、特に新自由主義に基づく自己責任論の蔓延による子どもや社会の生きづらさが生んでいると指摘し、根本的解決に向けて表面上での理解にとどまらず、欲求の複雑な表出であると主張する。

 そういった社会問題をハーマンの「関係的自己」理論を用いて分析することによって、攻撃性という表面上の行為の奥に潜んだ子どもの思いや願いを汲み取り、援助に繋げられるように試みている。

 ハーマンの「関係的自己理論」とは、心的外傷を負った人はどうにもできなかった自分への無力感と、誰にも助けてもらえなかったという孤立無援感が溜まり、少しでも自分を受け止めてくれそうに見える他者に依存しやすい反面、他者が当事者の期待に完全に合った理解や対応は不可能であり、当事者はそのような他者に対して裏切られたと失望し、攻撃的になる。一方で、持続的に適切で粘り強い援助を受けることにより、「傷ついた自己」(damaged self)を修復し、「関係的自己」(relational self)を構築することができ、心的外傷からの回復・成長が可能であることを示している。

考察

 これは田中の臨床教育学の議論にでてきているので、教育学の議論にのまま持って来ることができるかどうかについては慎重に検討すべきである。また、医療的な側面でも語られており、「心的外傷」をもつ子どもをケアする視点を普段の保育の場面で必ずしも持ち合わせていなくてはならないとなると、保育者の業務上の責任が増えすぐてしまうのではないかという危惧を感じる。そのような視点ももちながら、実践することができるに越したことはないのはもちろんだが、保育者も万能ではないので全ての要求を受け入れてはならない。

参考文献
・田中孝彦 2009 「子ども理解ー臨床教育学の試み」 岩波書店

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