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熱狂はどこから生まれるのか

私の癖は、観るもの全てを自分や自分が身を置く世界と比べてしまうことだ。烏滸がましいとは思いつつも、つい良い点と悪い点を探してしまう。

Mリーグはそんな私が最近よく見ているものの一つである。個人戦の知能ゲームである麻雀をチーム戦で戦うという他ではあまり見ないスタイル。最小4人で完結してしまう競技の世界を4人×8チームの32人に広げることで、それぞれのチームが多くのファンを獲得することに成功した。我々は推しを応援するだけではなく、チーム全体をもついつい応援したくなってしまう。カードゲーム界が参考にするべきようにも思えるこの画期的なスタイルは、麻雀素人の私を確実に熱狂へと誘った。

チームにはそれぞれのユニフォームがあり
スポーツのように応援しやすい

ご縁があり、先日Mリーグファイナルの最終戦のパブリックビューイングを観に行ってきた。Mリーグでは最初のレギュラーシーズンで8チームから6チーム、次のセミファイナルでは6チームから4チームと勝ち上がりのチーム数が決められており、最後のファイナルで4チームの中から優勝チームが決まる。

パブリックビューイングはサッカーのW杯くらいしか経験がない私だったが、Mリーグのそれはめちゃくちゃ面白く感じた。麻雀を昔から知っている人からすれば、つい最近まではここまで盛り上がることができるゲームではなかったらしい。私も麻雀に初めて触ったのは小学校に入る頃だったが、他人の試合を観てみようと思えるようになったのは今年に入ってからである。しかし、素晴らしいタレントたちが集まって成されているチーム制であることや、優秀な実況解説たちのおかげで、Mリーグの競技シーンは素人が観ても面白いと感じて熱中することができるものとなっている。

https://twitter.com/taku_pcg/status/1646508959334031361?s=46&t=Lt4l-_VZJwHo-wNJAb-wZg



今回のファイナルは、終始渋谷ABEMASがそれまでに獲得していた大量のリードを守って優勝する結果となった。首位のABEMASをなんとか超えてやろうと他3チームが計16戦のファイナルを戦い抜き、それでも差が縮まることはなかった。素人目線ではあるが、その経緯を見ているだけでも十分に盛り上がることができた。しかし、もしも4チームの間に得点差がなく、どのチームにも優勝の目がある状況下ならどうだっただろう。去年以前にはそのようなシーズンはあっただろうが、ハッキリ言って今シーズンの100倍は面白かったのではなかろうか。試合の面白さを知った今では心からそう思えるし、そんなシーズンをこの目で見たいと思うほどにMリーグというものに私はハマってしまった。そんな中、一番私にとって印象的だったのは見事優勝した渋谷ABEMASの多井選手の最後のコメントだった。

表彰式で優勝シャーレを受け取り、他3選手のコメントを聞いた後にマイクを受け取った彼は、一言一言私たちに語りかけるようにゆっくり話し始めた。最初の方に、麻雀をしていて今が一番嬉しいと言っていた。彼は現在51歳の選手。麻雀プロになってもう少しで30年になる、そんなプレイヤーからこのような言葉が聞けるとは思っていなかった。この言葉から私が分かることは、麻雀の世界はより良い進化をし続けているということだ。どんなゲームでも、そのゲームにとってのピークがいつ来るかは誰にもわからない。世間に一番注目してもらえる時期がいつで、その瞬間に誰が活躍しているのかは神のみぞ知る。少なくとも多井さんの麻雀人生の中でのピークはMリーグに来ていて、そこで優勝したいという目標ができたこと、そこで活躍し続けて悲願の優勝を達成したことは、彼にとってこの上ない幸せだっただろう。

一方でこれで終わりでは無いことも示唆していた。ファイナルの最終戦で彼が試合に臨んだことは、彼が渋谷ABEMASの中で最も強い選手であることを意味している。そんな彼は再度またこのチームで優勝すること、次にファイナルを迎えたときにラストを任せられる選手を育て上げるという2つをこれからの目標として掲げていた。彼の目にはすでにやるべき事が明確に見えており、優勝翌日からその目標に向かってまた一年を走り始めるのだろうと感じた。

そして私が最も驚いたのは彼の口から「全選手を応援してください」という言葉が出てきたこと。先ほどまで優勝争いをしていて死力を尽くした選手から出てくる言葉とは私には思えなかった。この言葉から私は、麻雀界は応援しているファンなしでは成り立たないと彼が思っていること、そして彼が麻雀界を代表したコメントをすることに遜色がない人物であるということを読み取ることができた。会場にいた誰もが、多井さんが麻雀界を背負っている一人であることを知っているだろう。だから彼が選手の代表としてコメントすることに全く違和感はなかったはずだ。もし自分があの立場になった時、全選手を代表して頭を下げることができるだろうか。確かな実績と力を持ち、信頼がある人だけにしか、その世界の選手を代表することは許されないと思ってしまう自分がいる。重みのある言葉に説得力を乗せるためには、まずはその世界にとっての何者かにならなくてはならないと。


最初はMリーグを、ポケモンカード界を盛り上げるための1つのツールとして勉強しようとしていた。しかし不思議なことに、一度その世界を知ってしまうと自然と贔屓の選手ができ、毎日のようにliveで試合を追い、気付けばシーズン最終日には表彰式の会場にいた。もうMリーグを知らなかった自分には戻れない。熱狂のタネはあらゆるところに落ちていて、それをキャッチしてしまった結果がこのnoteなのかもしれない。そうやって気付いた訳だが、Mリーグの熱狂はそのものがぽつんとどこかにある訳ではなく、たくさん散らばっている熱狂を我々が拾い上げることで生まれ、他の人に広げたり共感することでそれが爆発していくのだろう。

今まで自分が知っていると思っていた、あるいは思い込んでいたことも視点を変え、観ることに意識を向けると突然それが別のものに見えることがある。Mリーグを通して「観る」感覚を養った結果、今年初めて日本で行われるポケモンの世界大会、WCS2023が私の目にどのように映るのか少しだけ楽しみになった。

イタガキタクト


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