サッカー数字コラム「44」松木玖生を走らせる【es】祝・Mr.Children30周年
サッカーについて、数字から連想した内容のコラム書きます。
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【前座の豆知識】
サッカーで44というと1944年に開催されるはずだった「第24回全日本総合蹴球選手権大会」が中止になっている。世界的にも戦争の影が落とされていて、イタリアで開催された「カンピオナート・アルタ・イタリア 1944」では、参加できるチームの地域が限られていた。スペインではリーグ戦が行われ、リーガ・エスパニョーラ1943-1944ではバレンシアCFが優勝した。
選手の誕生でいうと、オールドサッカーのヒーロー、釜本邦茂が1944年に生まれている。
近年で44と言えば、FC東京の大物ルーキー・松木玖生が背番号44を着けている。
【コラム】
青森山田で多くの選手を見てきた黒田剛監督は、愛弟子・柴崎岳より上位に今年のJリーグ大物ルーキーを評した。
遡ること一年前の夏。まだ実家にいた頃、2021年東京オリンピックのサッカーを観ていて、母が呟いた。
「堂安ってなんか頼もしいね。図太いっていうか。それに比べて久保建英は線が細そうだね」
僕は母にこう言った。
「久保の方が期待されているんだよ。それに体幹だって……」
「いやいや、そういうことじゃなくて。精神的に肝が据わってる感じがしたの。タクは柴崎岳と宇佐美貴史を『同世代』って応援してるけど、あの二人も繊細な感じがするなぁ」
何となくだけどね、そう言って笑った母の言葉が意外に的を得ている気がして、僕は少し落ち込んでしまった。
その年の冬、『サッカーマガジン』の特集で、冒頭の黒田監督の言葉を読み母の話を思い出し、こう思った。
もしかしたら、サッカー選手とは「心の体幹」が図太いかどうかが問われるものかもしれない、と。
釜本邦茂、木村和司、カズ、中田英寿、本田圭佑、香川真司、大迫勇也……。歴代の日本代表エースと呼び得る系譜の中で、更にまた細分化が出来る。
釜本邦茂、中田英寿、本田圭佑、やや霞むが大迫勇也も。
この四人には
「派手なテクニックはないが、体幹が強くパワフルで、実践で活躍出来て試合から消えず、大切な試合で決定的な仕事をする」
という共通点がある。
四人ともフルタイムで試合を観てそう感じた(釜本はYouTubeで試合を探したところ、メキシコ五輪3位決定戦が観られた)。その「大切な試合で決定的な……」が出来る所以は、身体能力というより、精神力である。釜本の得点力、中田の存在感、本田の点やアシストに絡む勝負根性、大迫のボールキープには意志を感じる。そして、そのヒントはどうやらあのモンスターバンドから学べる気がするのだ。
今年はあの人気バンドでサッカー選手にもファンの多いMr.Children(以下、ミスチル)が5月10日に30周年を迎えた。
今回の主役、松木玖生のJ初ゴール、5月3日のちょうど一週間後である。
ミスチルの代表曲をひとつ決めるのは、日本史上最高のサッカー選手を決めることより難しいかもしれない。しかし、ミスチルが売れるバンドとして絶頂を迎えながら、その人気ゆえに葛藤で混沌とした頃に出された曲に『【es】〜Theme of es〜』(エス テーマ・オブ・エス)という名作がある。
ヒリヒリするような感性の強い歌詞が印象的だ。そして、ここで言う「es」とは心理学者・フロイトの提唱した言葉で「無意識」または「本能」のことを指す。
そして松木玖生には、歴代日本代表の顔たちと同じ「本能」すなわち「es」を強く感じるのだ。
最初は「注目されているから」という、ミーハーかつ不純な動機で見始めた松木に夢中になり、今ではDAZN(無料お試し期間)でなるべくFC東京の試合は観るようにしている。
正直、技術的にも身体的にも松木に並外れたレベルで特筆すべきものはないように思える。勿論、FC東京でルーキーながらスタメンを張っている訳だから、完成度の高い選手なのは間違いない。
でも、釜本のゴールを奪う動きも、中田のフルスイングのキックのフォームも、やや硬い動きでありながら実はしなやかだ。本田のボール捌きと、大迫のポストプレーに至っては、柔軟性は申し分ない。そして、映像を観る限り若い頃からスケールが大きい。若い頃の大迫は、鹿島アントラーズの試合をスタジアムで観たことがある。やはり別格だった。
しかし、今の松木に即A代表入り出来る凄みはあるか。国内組限定ならまだしも、海外組と競うにはもう一声欲しい気もする。肩にハンガーを入れているんじゃないかというくらい硬い動きと、その割には当たり負けすることもあるフィジカル。カラダや技に天賦の才はない。加えて、近年指摘されるサッカー選手の過剰なアスリート化にも通ずる所がある。
しかし、松木には「es」(本能)の疼きを感じる。例えば松木は守備の際、常に全力でスライディングタックルをする。いつでも全力。これは身体と精神が資本のサッカー選手にとって当たり前のようでいてなかなか出来ないことだ。彼は守備ならず止める、運ぶ、蹴る全てに全身全霊だから、試合で使えるテクニックなど自分のキャパシティを広げ、どんどん実力を伸ばしていく。
そんな松木には、背番号44→4+4=8番の役割を極めて欲しい。8番の役割とは、中盤のど真ん中で名脇役になること。
釜本、大迫は90分見た限りポストプレーもこなす点取り屋という「天職」に就いた。
しかし、ラストパスと中盤の王様の座にこだわった中田英、本田は本来8番の役割=中盤の汗かき屋の資質の持ち主だ。
松木はインタビューなどを読む限り、「王様・司令塔願望」は無さそうだ。ぜひとも、いつか日本代表の背番号8を背負って欲しい。それがカタールW杯でも早過ぎることは無いはずだ。
背番号8の魅力についてはこちら。
最後に、ミスチルの歌詞を引用しながらにわかの自分なりに松木玖生の大活躍を願う言葉を書きたい。
松木がサッカー界におけるミスチルのような存在になることを祈って。音楽界のエースは長らくミスチルという意見に異論がある人は少ないはずだ。
モンスターバンドと呼ばれ、そして今でも話題作を作り続ける伝説だ。同じく怪物、すなわちモンスターと称される松木の未来に幸あれ。
そんなことを考えていたら、見損ねたJリーグの2試合で松木は先週に強烈なフリーキックをポストに、今日はペナルティエリアから放ったシュートをバーに当てていた。
僕のおせっかいな心配が杞憂で、無責任な期待が現実になる。そんな気がしてきた。
松木玖生、頑張れ。Mr.Children、節目の時を迎えておめでとう。そしてこれからも音で楽しませてください。
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