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「書くことで生かされている」すべての人へ

「書くことで生かされている」すべての人へ

【Feeling】
五感で感じるということは、生きるということ。今日も世界を感じよう。

昭和の本? もっと昔? そんな雰囲気を醸しだしている装丁の本。それがただ出版社から出版されて、本屋さんの棚に置かれてある本だったら、ただ、素敵な表紙だな、で終わっていたかもしれないけれども、これは著者自身が本のつくり方を学び、自分自身で製本した、手作りの本だと聞くと、そのセンスの良さがこの装丁に凝縮しているのではないか、と感じられる。

今の時代に、手作りで本をつくる、ということはもちろんのこと、このような装丁を選ぶ。なんだかその非凡さ、美意識を感じずにはいられない。
そして、この本は、著者自身の自分史である。自分のことを、自分で書き、そして、自分で本にする。言葉にしてしまうと何の変哲もないことのように聞こえてしまうかもしれないけれども、でも、実際にそれを手に取って、触れて、読めるというのは、自分が書いた本ではないのに、なぜだかとても感慨深い気持ちになる。

僕も小説を書いたり、エッセイを書いたりする「書く人」である。何のために書くのか? と聞かれれば、書きたいから書く、いや、書かざるを得ないから書くというのが、本当のところからもしれない。それは言葉では表現は難しく、いつもいつもワクワクして、楽しいから、という感情から書くのではなく、悲しい時も、苦しい時も、書いているからだ。
そもそも、人は何のために書くのだろうか? 書けば書くほど、わからなくなってくることがある。僕は一体何のために書いているのだろうか? と。

書くことに意味はあるのか? ましてや自分の感じたこと、自分が想像したことを書くなんて。
でも、書かざるを得ないのだ。どうしてだろうか?

著者は本の中で僕にこう答える。
「言葉をみつける。文章にする、自分の状況を客体化してみる。これは生活の中から生まれた知恵です。必然の中から生まれ、生活の側にあるものです。」
と。

僕はそういった見方をしたことはなかったので、僕が行っている行為が、生活の中から生まれた知恵であり、生活そのものなんだとはじめて気がついた。じゃあ、書くことは生活をすることであり、そして、著者が言うように、僕たちは「書くことで生かされてきた」のだと。

僕は本を読んで素敵な言葉をみつけたら。それをメモして保管している。それはある時から僕にとっては、手では触ることのできないけれども、宝物だと思うようになった。まるで、言葉探しは、宝探しのようなものなのだ、と。
歴史上の偉人の言葉もあれば、有名人でも何でもない、身近な人の言葉もそう。自分の心が動いた言葉。時には短く、時には長く。そんな言葉たちに出会えることが何よりの楽しみなのだ。それは子どもの頃、海できれいな貝殻を探したり、きれいな石を探して楽しんでいた時のような気持ちにさせてくれる。自分にとっての美しいもの。宝物を探す時のあの気持ちに。

どうして僕がそんなものを集めようとしているのか、言葉の蒐集を始めたのか、自分でも何となくしかわかっていなかったけれども、この本を読んだときに、「僕は言葉によって生かされている。言葉は僕のエネルギーなんだ。生きるよすがなんだ」と言語化することができた。

そして、その人に響く言葉は、その人によって違う。そんなことは当たり前で、でも、万人に届くような言葉がいい言葉なんだ、と思ってしまう時がある。でも、この本を読んでいると、そうではないんだよ。あなたにとっての素敵な言葉をみつけたらいい。そう、やさしく呼びかけてくれているような気がしてくる。
言葉はいつも僕たちに寄り添ってくれているのだ。そんなことを思い出させてくれた本。

「書くことで生かされている」すべての人へ。
日記でも、ブログでも、つぶやきでもいい、「なぜいま、自分は書いているのか?」
書くことの意味を知りたい時、ぜひこの本を読んでみてほしい。

『肌に触れる、言葉のけわい』 松永夏紀

(レンタルオンリー。上記サイトから予約が可能です)

追伸
著者である松永夏紀さんは、「用の美」というサイトを立ち上げ、「役に立ち情緒的なもの・ことを」というコンセプトで、日本を中心にクラフトやお宿、雑貨店、建築の情報を発信しています。
「用の美」という言葉は、民藝運動の父と言われる、柳宗悦(やなぎむねよし)が残した言葉です。本書の中にも、柳宗悦(やなぎむねよし)の言葉があり、その影響を受けていることが分かりますし、また、まさにこの本が「用の美」そのものであり、ひとつひとつの言葉たちもそうなのではないか、と感じました。
ぜひこちらのサイトもあわせてみていただくと、より著者の考え方、著者の言葉に触れることができるのではないかと思います。


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