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お店には、作り手の世界を見る目が色濃く反映される

先日京都に出張に行った際、とても格好良いお店に出会った。

そのお店は2ヶ月前にオープンしたばかりというミュージックバーで、インスタには鍵がかかっていて、Google Mapsの位置情報は無い。

僕はというと、京都に行く度に立ち寄る知り合いのお店の店主に教えてもらい、存在を知った。

教えられたビル名を頼りに、おそらくこれだなと言う扉を開けると、重厚感があり、それでいてロッジのような温もりがある空間が広がっていた。

「紹介ですか?」という言葉を受けて経緯を説明すると、快くカウンターへ案内してくれた。

居心地の良い店内。壁には大きなスピーカーがあり、その周りをレコードが埋め尽くしている。天井まで木材が貼られていて、細部までこれでもかと作り込まれていた。レンジフードは銅をバーナーで炙って模様を出したそう。
壁にはアーティストやフォトグラファーの作品が飾られ、その一つ一つに目を奪われる。

「本物」だけで構成された、作り手のこだわりが詰まった店内に思わず打ちのめされた。

店舗を作っている者なら、この仕立てにどのくらいお金がかかるかは想像できる。なかなか個人店でこれほどやり切る人はいない、というか予算的にもできない。感嘆しながら店内をじっくり見回していると、店主の方が色々と教えてくれた。

彼は学生時代からイギリスに渡り、10年生活した後、日本に戻り音楽関係の仕事を経てこのお店を始めたそうだ。長く根を張った音楽業界には繋がりがたくさんあり、レジェンドミュージシャン達との交流も深い。

レコードやCDを販売する仕事をしてきたが、ストリーミングが全盛となった現代のリスナー事情を受けて、デジタルじゃなく、リアルな場で音楽を聴く場所を作った。お酒は勉強中とのことだ。

飲食業をバックグラウンドとしていない彼の考え方にも深く共感した。
新しいお店は日々増えるが、内装はコンクリート打ちっぱなしのミニマルな空間が目に付く。同じようなお店ばかり増えていく中、やるならやり切らないと一過性で終わってしまう。そう決めて、大胆にお金をかけて作り込んだそう。
専門分野である音響にも相当拘っているとのことで、会話の背景に耳に入る音楽から、機材に詳しくない僕でも十分それが伺い知れた。

そうして生み出されたお店には、彼の人生経験と哲学が詰まっている。
このお店は今の自分には出来ないし、真似しても本物にはならない。

すごいお店と人を前にして、思わず最近の自分について振り返る背筋が伸びる時間になった。

こういうレジェンダリーな人を目の前にすると少し縮こまってしまうのだが、たまにはそんな経験も良い。内心ビビりまくっている僕と裏腹に、店主の方からは終始フレンドリーに接してもらえ、良い時間を過ごすことができた。

お店には、作り手の世界を見る目が色濃く反映される

振り返ると、過去に自分が感動を覚えるお店は、作り手やオーナーの人生経験や哲学が色濃く反映されたお店だったなと気づく。

「良いお店」の定義は人それぞれだ。料理が美味しい、店員のサービスが良い、コスパが良い、等、人によって一番刺さるポイントは異なる。

僕にとっては、自分の経験や価値観を超える物事へ直面したときに感動スイッチが入る。「どんな生き方してきたら、こんな空間が作れるんだろう。」と思わず好奇心を覚えるお店だ。

「すげーーー」
「やられたーーー」
「自分には出来ない」

そんな言葉が矢継ぎ早に漏れるお店に出会うことが稀にある。

お店作りは本当に深い。その人が生きてきた中で経験してきたこと、感じてきたことがアウトプットに直結する。

だから、良いお店に出会った時は、そのお店の店主に深い興味を持つ。一気に引き込まれてファンになる。僕にとっては、料理やドリンクの美味しさよりも、食や内装、スタッフやお客さん、全ての要素を包括した場としての空気感にやられる。

例えば、Paddlers Coffeeに初めて訪れたときにそれを感じた。
あの場所は、ただ飲食業界で修行しても作れないだろう。作り手の思想が深く反映された空間で、真似出来ない。

お店だけじゃなくて、ブランドでも同じことが言えそうだ。
共感するブランドを見つけたら、作り手の考えに興味を持って記事を読み漁ったり、SNSをフォローして動向を追う。そんな経験を持つ人は多いのではないかと思う。

自分の世界を広げるために

そんなことを考えていると、長く続くお店やブランドは、そこに行き着くまで、始めるまでの過程で何を経験したかが大事なのだと気づいた。

飲食業をやっていると、独立をゴールとする若い人々へ出会うことが多い。
僕の会社の社員もほとんどのメンバーが独立を目指している。

だけど、独立はゴールではなくて、始まりだ。
お店を開き、世の中へ自分の価値観、考えを絶えず提案していく。

そしてそれが支持され、共感されて初めて、ビジネスとしてお店を続けていくことができる。

だからこそ僕は、独立をしてお店を始める前に、人として人間力を高めることが重要だと考えている。その先長く続けることを考えると、独立は早ければ良いということでもない。

人間力は、多種多様な出来事を経験し、自分や他者の感情に向き合うことで養われる。

経験というと幅が広すぎるが、世界を旅したり、異なる価値観の人々と働くことが手っ取り早い。
僕自身、20代を過ごした会社員時代、世界中の人々と働く経験に恵まれて、自分の価値観を一気にアップデートすることが出来た。頻繁に海外に行く機会も作ってもらえた前職には感謝してもしきれない。
(この経験があるからこそ、僕自身もなるべく会社内で地方や海外へ研修に行く機会を作っている。)

一緒に会社をやっている役員の歩も同様で、世界中を一人旅したり、ケニアで働いたりと、異なる環境での経験が豊富だ。「異なる国で暮らした経験」というのは僕達の原点の一つとなっている。

こんな事を言って、「社員が一斉に海外に出ていく!」となると経営的に困るのが正直なところだが、一個人としては自分の世界を広げるために強くおすすめしている。

移住のハードルが高ければ旅行でも良い。国外が難しいならば、日本国内でも良い。

毎日違う道から出勤してみたり、毎日違う飲み物を飲むという小さな経験でも良いかもしれない。

とにかく、日常を離れる機会、自分が快適な空間から離れる機会を意図的に作ることが大切だ。

そうして世界の歴史や文化背景、異なる土地の風土、様々な人の考え方を知った上で、自身のバックグラウンドや人生経験から、「今の時代背景の中で、この瞬間この場所で、自分が何を面白いと思うかを提案すること」がお店作り・ブランド作りなのだと思う。

これは終わりのない旅だ。
こんなことを偉そうに書いている僕も、まだまだ自分をアップデートし続けている。

今回の京都の件のように、何歳になっても自分の価値観を超える出来事に遭遇するし、そうありたい。

その度に、お店を通して新しくなった自分の考えを世の中へ伝えていく。

それができなくなったり、世の中から受け入れられなくなった時が、この仕事の辞め時なのだろう。

お店には、作り手の世界を見る目が色濃く反映される。
自分の目を養っていくために、挑戦を続けていきたい。


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