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『成功しなきゃ、おかしい』—従業員100人規模になる手前のBtoB/SaaSマーケがやるべきこと

買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その18冊目。

本書は、『ザ・モデル』を読んではみたものの、なんだか自分の会社にはフィットしなくて…と悩む、100人未満のBtoB/SaaS企業のマーケターや経営者に特におすすめできる本です。

『リーン・スタートアップ』と『ザ・モデル』の間をつなぐ

MVP(Minimum viable product)もうまくハマり、従業員も数十人規模になって、そろそろ「スタートアップ」からも卒業か…そんなフェーズのBtoB/SaaSマーケターや経営者が読む本といえば、今なら『ザ・モデル』あたりでしょうか。

しかし、『ザ・モデル』が理想とするあの美しいまでの分業を実現し、きっちり回しきろうとすると、それなりの従業員規模が必要であることに気づきます。

何をどういう順番で整備し、そこに至る途中のカオスな時期を乗り切ればいいのか?スタートアップを脱して完成形としてのザ・モデルへ移行する過程の事業開発や組織開発に関するガイド情報は、まだまだ不足しています。不足している情報を具体的に挙げると、たとえばこういうものです。

・予測可能なリードジェネレーション→パイプライン構築法
・マーケ/カスタマーサクセス/営業それぞれの立ち上げ順序
・適切な価格とプランの設定
・取引規模(額)のさらなるスケール
・経営者がいなくても回る自律的な組織づくり

30人の会社を100人超の規模にしようとする頃には必ずぶち当たるこれらの悩みに、セールスフォースのARR(Annual Recurring Revenue)を20倍にしたアーロン・ロスと、電子契約エコサインをAdobeへ売却に成功しVCへと転じたジェイソン・レムキンの二人が答えてくれます。

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マーケティングチームの適正人数

BtoB SaaSのマーケティング部門って、いったい何人必要なの?

この質問にストレートに答えてくれる本は、私の知る限り見たことがありません。同業他社の知人に聞いてみても、口を濁されたり、逆に「なんでその事業規模でマーケがそんなに大勢いるの?」とびっくりするような回答が返ってきたり。

この疑問にも、ズバリ数字で答えてくれていました。

初期段階の企業(売上200万ドル未満)が軽いショックを受けるのが、1000万ドル以上を目指すうえで必要な人員の多さだ。
営業なら、ARRが1000万ドルの時点で、40名ほど必要になるはず(翌年の成長率100%を維持するため)
カスタマーサクセス部門におそらく20名ほど必要になる。
マーケティング部門は外部スタッフによって変わってくるけど、4〜8名程度。
①マーケティング部長
②外部マーケティング(イベント開催など)
③コンテンツマーケティング
④プロダクトマーケティング
⑤マーケティング有望リード(MQL)を管理する、リードを絞り込む担当者(2、3名)
この段階でのサポートチームは、電話対応も含めて24時間無休としたい。それには少なくとも5名、できれば6名欲しい。
つまり、ARR1000万ドル規模のSaaS企業であれば、人員の大部分が、プロダクトづくりではなく、営業、マーケティング、サポートに携わるわけだ。

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私が今所属している組織や見聞きしているBtoB/SaaS企業で「ビジネスサイドのあそことあそこ、足りないなあ」と感じている実感値ともぴったり重なります。

先輩として断言する

このような、BtoB/SaaS企業が抱えがちな悩みの解消法を、論理・実証はさておき、著者らの経験に基づいて言い切りでぶった切っていくのが本書の特徴。だからお口に合わない方も少なからずいらっしゃると思います。

たとえば、ボトムマーケットからアップマーケットを目指す局面で、「プロダクトを磨けば、営業なんて置かなくても売れる」と考えるBtoB/SaaSに対しては、こう警鐘を鳴らします。

SaaS やオンラインアプリに関する間違った思い込みはいろいろある。プロダクトが素晴らしく、使い方も簡単ですぐ活用できるなら黙っていても売れるから、 営業なんて不要、というのもそうだ。こうした思い込みの一切を、当ベンチャーキャピタルは打ち砕いてきたつもりだ。
試してから購入、無償版からプレミアム版、というビジネスモデルが SaaS でもてはやされている様子を見れば、そう思い込んでしまうのもムリはない。実際には、ユーザーを首尾よく獲得し、もっと規模の大きい企業や政府機関の他の部門にも展開しようとしてようやく、それが事実とは程遠いことに気づき、肝を冷やすスタートアップが多い。
ただし、稼げるのはそういうところだ。
社員が数百人、数千人規模の大企業を狙い、売り込めるようにならなければいけない。これは新たなスキルになる。大企業に取引してもらうのは、法案を可決させるぐらい大変なのだ。(P364)

最初はワンプロダクト、ワンメッセージ、セルフコンバージョンで勝負できても、ARR1000万ドルを超えるころには、スキルをもった営業が必ずいる。世の中そんなに甘くないよと。

こうした言い方をされても頭ごなしな印象までにはいたらないのは、学者やコンサルのそれと違い、著者らが実体験をベースにアドバイスしてくれていることが伝わるからこそ。

図表少なめにもかかわらず540ページを超えるというボリュームに圧倒されると思いますが、独特の気風の良さに乗せられて、あっという間に読み進めることができます。


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