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東大の学園祭で本気で石窯ピザの出店をした話

この記事はdesigning plus nine Advent Calendar 2018 6日目の記事です。

はじめまして、くろちゃん(@takurooper)です。東京大学工学部の3年生。Advent Calendarの執筆先であるデザインサークルをはじめとして、6つのサークルに所属しています。趣味はピザ窯作りです。今回は私がピザを愛しすぎたが故に、東大ピザ部を結成し、東大の秋の学園祭駒場祭に本格石窯ピザの屋台を出店してしまったこと。そして本気でデザインやマーケティングに取り組んだ結果、分かったことについてお話しします。

ピザと出会った高専時代

私がピザに出会ったのは、約4年前。突然父が「家に石窯作ったら楽しそうじゃない?」と言い出したことがきっかけです。最初は家族全員乗り気ではなかったものの、父が耐火レンガを積み立て石窯を作る姿を見るうちに、不思議と引き込まれていきました。そう、Pizzaの魔法にかかってしまったのです。

実家の石窯です

今では、実家の石窯は2度のリニューアルを終えました。薪置き場と屋根も増設しました。1ヶ月に1度はピザパーティーをしています。ドミノピザの宅配を頼んでピザパって言っちゃうのは甘いよ。本物のピザパは庭の石窯で焼き上げた自家製ピザでなくちゃね。自家栽培のバジルを載せちゃったりしてね。

自宅にピザ窯を設置したところから、なぜ東大にピザ窯を持ち込むことになったのか。それは、編入前に在学していた高専での学校活動が大きく関係しています。高専2年生の頃から豊田高専ドミタウンという学校行事に専念するようになりました。

「高専ってなに?」「編入学ってなに?」
という疑問をお持ちの方は、主に東大編入体験について語っている私のはてなブログをご覧ください。


ドミタウンを一言で表すのは非常に難しいのですが、まとめると「多世代参加型都市農山村交流」です。平たく言うと、田舎にピザ窯を作って、子どもたちと一緒に、世界で一つだけのオリジナルピッツァを作る活動でした。楽しそうでしょ?めっちゃ楽しかった。

お前のVALUEはなんだと問われた東大入学後

「サークルとかしてキラキラ大学生になりたい!」

編入直後の今年4月、僕の心はキラキラしていました。新歓活動に精を出す中、東大生・慶應生・早大生のトップ学生など、超エリート達で構成されるNPO法人、Bizjapanに興味を持ちました。この団体は「グローバル」「アントレプレナーシップ」そして「プラットフォーム」を3つの軸とし、国内国外問わず、様々なプロジェクトを内部で走らせています。決してピザ部ではありません。

毎年定員を超える応募者が殺到するため、サークルに入るためにも面接に合格しなければいけません。そこで問われるのは面白さ(広義)だと考えました。他の応募者とどれだけ自分を対比させられるか、多様性を生み出せるのか。しっかりエントリーシートに書きましたよ。

<スキル>
ピザ ★★★★★

案の定、入部後から「ピザ5の人」として話題になっていました。

意識高いサークルなので入部後、やれ「プロフェッショナルになれ」だのやれ「社会にインパクトを与えよ」だの先輩が口酸っぱく言ってくるんですね。すぐに「君のやりたいことはなんだ?」と問われても困りますよね。やりたいことはたくさんあるのだけれど、プロジェクトとして発足させた時に続けられる自信がない。自信を持って周りをリードしなければならない。皆にとって明瞭な課題を見つけ共有できなければならない。

ここで思い出すのはやはりピザ。高専でピザを3年間作り続け、家に帰ってもピザを焼き、イタリアンのピッツェリアでバイトをして修行し、ピザ漬けの毎日を過ごしていた。ソリューションはピザでした。ピザでは東大生に負けない。

ピザを幸せを共有するプラットフォームにする。

こんなVISIONの元、プロジェクトPizzjapanが始まりました。

東大ピザ部のMOTTOは「東大で一番美味しいピザ屋さん」

プロジェクトPizzjapanの中期目標として「駒場祭出店」をずっと掲げていました。出店しようと思った理由は3つあります。

1つ目に、ピザがファストフードとして捉えられていることに意義を唱えました。イタリアのピッツァはフォークとナイフを使って一人一枚食べるもの。デリバリーに引っ張られて安い食事の印象が強い日本のピザ事情を、東大から変えていきたいと思っています。

2つ目に、駒場祭に出店されている食べ物のクオリティの低さ。大抵のものが冷凍食材を揚げたり焼いただけのものになっています。味付けも感覚でやっていそうです。私たちは、幾度のピザパーティー兼試作会を経てレシピを改良してきました。

3つ目に、野外の出店にワクワク感がないこと。どの店舗も同じような装飾と同じような機材で、違うのは売り子がどこの女子大生ってことくらい。それは食を舐めていませんか。私たちは石窯を導入し、美味しさはもちろんのこと、プロフェッショナルな食体験を提供するという戦略を取りました。

ここまですれば、私たちのポジションは揺るぎないものになったと思います。東大で一番美味しいピザ屋さんであるという自負があるからこそ、「東大ピザ部」の称号をつけ、出店に至りました。あ、実はピザ部ではないんですよ(何回も言ってる)。

チームマネジメントに不可欠な3つの法則

実質、私の「ピザ愛」というエゴでBizjapanの人を借り、ピザを売るという駒場祭ジャックをしているわけですから人がついてこないという心配はしていました。実際にも期間中、連絡が取れなくなってしまう子やシフトに入ってくれる子が少ないといった事態が発生しました。それでもうまく運んだのはシフトでないにも関わらず助けてくれた子がいたからに他なりません。ありがとう…

できるだけ協力したくなるようなチームに育てていかないといけないわけですが、成功するチームには、少なくとも3つの法則があることがわかりました。

法則1:安心感
これはチームとしての安心感と、リーダーの安心感の2つに分かれます。前者は一緒にいて居心地がいいかや作業が順調にチームワークで進んでいるかということ。後者はリーダーの言っていることが論理的で一貫しているということです。この法則はメンバーの信頼の土台を作るところなので、前提として大切にするよう心がけました。例えば、運営メンバー間ではSlackを使っていつつ、当日のシフトメンバーとはLINEグループでコミュニケーションを図りました。これによってSlackは議論の場、LINEは決定事項伝達の場として分けることができ、認識の齟齬を阻止することができました。

法則2:プロフェッショナリズム
自分でも買いたいと思うからこそ、他人に売りたくなります。自分たちの仕事に誇りを持っているからこそ、自信を持ってアピールすることができます。商品はもちろんのこと、看板やメニュー表のデザイン、Twitter広報などにも本気を出しました。具体的内容については後述します。

法則3:強烈なVISION
全員とVISIONを共有できている状態を作り上げることがめちゃめちゃ大事でした。「そもそもなんのためにこんな頑張ってるんだっけ?」というそもそも論が出てきた時点で、Game Overだと思ったほうがいいかもしれません。

私たちBizjapanは本格石窯ピザによって、プロフェッショナルな食体験を提供します。

こんなVISIONを言語化していました。リーダー自らが強烈なパッションを持ち、道を切り開いていく背中を見せることで、メンバーもついてきやすくなるものだと信じています。

ノンデザイナーを信頼し、デザインを共創する

駒場祭にあたって私たちが製作した製作物を一挙公開します。

①ロゴマーク

②Bizjapanパーカー

③メニュー表

④立て看板

⑤横看板(ダンボールパネル)

⑥デコレーションピザボックス

⑦インスタストーリーの広報画像

⑧チェキのガーランド


ここまで、8作品。全て学生の手で作り上げました。捨てるのが惜しくなって困るくらい、クオリティには満足しています!

私はデザインサークルに所属していることもあり、デザイナーとしての自覚がありますが、他のメンバーはそうではありません。しかし、リーダーの立場として、クリエイティブよりもマネジメントの仕事を優先せざるを得ない事情もあります。作るものがいっぱいあるのに、デザイナーの数が手が圧倒的に足りません。ノンデザイナーを多数巻き込んでデザインを共創していく必要があります。
※この文章中でノンデザイナーとはAdobe系のソフトウェアを使用したデザイン制作の経験がない人を指します

ノンデザイナーを信頼し、デザインを共創する。そのために必要なことは、適切なデザインディレクションでした。

デザインディレクションの手法と学び

デザインディレクションを進めるにあたり、デザインガイドラインを作成しました。そして、「東大ピザ部 DESIGN meeting」を開催するなどしてデザインの思想を浸透させていきました。ここでDESIGNと大文字を使っているのには意味があり、グラフィックよりもデザイン思想の方を伝えたいという意図があります。

しかしながら、ノンデザイナーとデザインのコミュニケーションをするために作った東大ピザ部 DESIGN Guidelineは失敗したと個人的に思っています。

上のスライドは、東大ピザ部 DESIGN Guidelineの目次です。ガイドラインを初めて作ったので見よう見まねですが、大抵はこのような構成になっているかと思います。しかし、実際の制作物に反映されたのは「ペルソナ」と「デザインテーマ」の2つだけでした。

ノンデザイナーにとって、配色をカラーコードで指定しても製作ツールが限られているため(今回の場合はチョークやペンキ)、指定は意味ありませんでした。フォントはそもそもPCに入っていないため、私がイラストレーターで作らなければならなく、仕事が重なって大変な時には「明朝体ならなんでもいいよ」と言ってしまっていました。これじゃあ機能しない。ロゴの使用規定についても定めましたが、自己満足に終わりました。

ここで、駒場祭後にとったアンケートの結果をお見せします。(まだ募集しているので、ご来場いただいた方など、ぜひお答えいただけると助かります🙇‍♀️)

以上の結果は、直接声で「あのデザイン綺麗だった」と言っていただいたものとある程度の相関がある気がしています。また、印象度数が同じ制作物には同程度の影響力があったと考えるとすれば、面白い考察ができます。なぜなら、これら8つの制作物は3つの異なる制作手法を取っていたからです。得票数7を満点として、平均点を算出しました。

①デザイナーが全行程作ったもの
- ロゴマーク
- Bizjapanパーカー
5.5点

②デザイン案はノンデザイナーが作り、デザイナーがツールを使用し仕上げを担当したもの
- メニュー表
- Instagramストーリーの広報用画像
3.5点

③ノンデザイナーに全てを任せたもの
- 立て看板
- 横看板
- デコレーションピザボックス
- チェキのガーランド
4.25点

「③ノンデザイナーに全てを任せたもの」でこれだけ高い数値を出せたことに、非常に大きな意味があります。このような結果が出せた要因として、検証しているうちに気づいたことは以下の三点です。

⑴ペルソナやターゲットを明確にすること
ペルソナと言う言葉はもはやデザイナーのものだけではありません。マーケティングを勉強する学生の多くも理解しています。その上で、どんな客層をターゲットとしてどんな印象を与えたいかを明確にしておくとコミュニケーションがうまくいきます。私たちの場合は「同伴する女子にちょっとかっこいいところを見せたい東大男子」を想定し、女子大生ウケするデザインやマーケティングを心がけました。

⑵良質な素材を確保すること
ロゴマーク、写真、動画などの素材になります。気づいた頃には素材が足りなく苦労しました。今回の場合では、メニュー表のデザイン案を渡された時にピザの上からの画像がなく、素材探しに苦労しました。素材のあるものや使えるスキルから発想していくのではなく、完成形から発想していくノンデザイナーの考え方に合わせるためにも素材の確保は重要であり、早期から対策をしておくことが求められます。

⑶ユーザーファースト
ノンデザイナーと言っても、ツールの使用方法を知らないだけで、デザインに触れたことがないわけではありません。いいデザインを引き出すために必要なことは、ちょっとしたコツを教えること、そのコツがユーザーファーストというデザイナーの思考法だったのではないかと思っています。その結果が黒板型の立て看板などに現れました。これ、立地が悪かったのかアンケートの評価はいまいちですが個人的にめちゃめちゃ好きです。他の立て看板よりもあえて一回り小さく作り、「隠れ家的レストラン」を演出しています。可愛くないですか?

デザイン集団でなくてもいいデザインはできるんです。必要なのは信頼すること、それだけ。

良質なコンテンツでTwitterマーケティングを制する

どれだけ質が高くても、認知されなくては買ってもらえない

マーケティングの基本概念です。ほんとそれ。だからTwitter(@bizjapankomasai)での広報活動をめっちゃ頑張りました。以下の結果をマークすることができました。

フォロワー:40人→397人
総いいね:254
総RT:59

Twitterの運用方針も工夫は色々ありましたが、配信コンテンツのクオリティの高さが光りました。

サークルのすごい動画作成が得意な子(@gentle_fruit)に依頼して制作してもらいました。「この動画見て凄かったから来ました!」と言うお客様もいたほどの効果がありました。

サークルのイケメン・美女を撮影し、パーカーコンセプトとして発表しました。ちょっとシュールだけどイケてる、その微妙なラインがやっぱりウケますよね。彼のことを「ピザの王子様」と勝手に呼んでいます。

Googleマップを使用した店舗位置の共有は微妙だった

石窯を使うと言うことで、私たちの店舗は端っこに追いやられました。メインステージからも遠く、銀杏並木にも面していない。だから、場所を明らかにすることは必ず解決すべき課題でした。

普通、このような地図を自分たちで用意しますよね。それでも、矢内原通りってどこ?てなるものだと思うんです。内部生だって知らないですよそんなところ。

秘策はGoogleマップの活用でした。そう、[東大ピザ部]と検索すると出てくるよう登録しちゃいました。

12月6日時点

これ、画期的アイデアだと思いTwitterでもめっちゃ広報したのですが結果として微妙になってしまいました。

まず、使っている人が少ない。さらに知らなかったという人もいました。シフトに入ってくれた留学生のメンバーからも「地図で教えて」と言われてしまう。そうだった、日本語読めないよね…

結論、従来の地図で十分だったのかなと思っています。本来のGoogleマップの使い方でもないし、あまりいいアイデアではありませんでした。

当日の様子

そんなこんなで始まった駒場祭。めちゃくちゃ気合い入ってました。3日間駆け抜けました!!写真付きで説明していきます。

テントの様子。なんとなく色味に統一感が出てますね。「シックで大人なイメージ」でブランディングができていたと思います。

「ホールで購入してくださったお客様」「いい笑顔をしていたお客様」「撮りたいと言ってくださったお客様」などを対象としてチェキを撮り、飾らせていただきました。これが売り上げにつながることはなかったと思いますが、売り上げよりも大切にしていた駒場祭の思い出づくりに貢献できたのではないかと思っています。駒場祭2018のテーマ「はい、チーズ」にぴったりだしね。

燃料には備長炭を使用しています。本当は薪がいいのですが、煙が出ると周りに迷惑であることやコストの問題から炭を選択しました。窯が温まるまでに時間がかかること以外は炭でも何も問題はありませんでした。

花型、火の番人。ピザピール(スコップのこと)を持って集客する姿は迫力満点。

一枚一枚、丁寧に焼き上げていきます。

物珍しそうに石窯を見に来てくださるお客様もいます。すぐ立ち去ってしまうのではなくて、こういうところからコミュニケーションが生まれるのが石窯ピザのいいところ。

本格石窯ピザの完成です!!

予想の3倍を超えた売上

初日でわかりました、これは相当売れると。3日間で300食販売することを目標としていたところ、初日で150食近く売れました。熱くないですか。

同時に、私たちのオペレーションの不手際で逃している販売機会も目につきました。だから初日終了後に長時間の反省会をしました。出店で一番大変なのは1日目終了後です。これは間違いない。その日の夜は追加の食材や雑品の買い出し、仕込み、待機券の制作…大変な夜でした。

しかし、そこで踏ん張ったおかげで2日目、3日目の販売は流れがわかって来て、楽になりました。出店のマネジメントで大変なのは圧倒的に初日です。3日間続けた結果、焼いたピザの総数は149枚(447食)。完売しました。

得たものは自信、笑顔、そして石窯調達の資金

最後に、東大ピザ部を運営してみて思った所感をまとめたいと思います。私自身、ここまでピザに本気になれると思っていませんでいた。愛するピザがテーマであっても、学園祭にコミットできるかは未知数でした。

しかし、実際に初めてみると何層にも面白さを見出すことができ、本気になればなるほどハマっていきました。それは上流工程から0→1で作ることができたからであり、様々な仮説を立てて、自分たちで稼ぐというビジネスを経験できたからです。デザイン、マーケティングなどのインプットした知識を活用できたことも大きいです。今回の実績を持ってして、「私たちはデザインができる」「私たちは稼ぐことができる」「私たちはピザマスターになれる」といった自信をそれぞれが得ることができた。それが財産なのではないでしょうか。

また、生み出した笑顔の数も忘れられません。写真を見返すと今でもエモい気持ちになります。

「サークルとかしてキラキラ大学生になりたい!」

僕の夢は叶ったんですかね(笑)

それだけではありません。赤字を出さず、十分な利益を得たことで、ピザ窯購入資金に充てようと思っています。打ち上げなどでパーッと使うのも1つの手ではありますが、もっと面白いことをしたい。「プロフェッショナル」で「社会にインパクトを与える」使い道は何だろう。今回の石窯はレンタルで調達しましたが、持続性の観点から言うと自分達のピザ窯を持ち、ピザを極めることが最適解としか考えられません。大きな買い物、大きな決断になりますが運営していく自信だけは確かにあります。

駒場祭を通じてこれだけ多くの人と関われたこと、多くの意思決定を重ね成長できたこと、笑顔を生み出せたことを嬉しく思います。これが、Pizzaの魔法ですね。

私たちのピザを味わってくださったお客様、応援に駆けつけてくれた人達、そして一緒に戦ってくれたBizjapanの皆、ありがとうございました!

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