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【No.3】無料招待の価値は

イベントの価値は動員・集客で決まる

 コロナをはじめとする感染症による混乱が収束を迎え、まさにイベント新時代に突入した今、コロナ前にも劣らない再興を見せている。その成果は3大プロスポーツの野球、サッカー、バスケットボールだけを見ても明らかだ。

3大プロスポーツ 1試合平均入場者数 ※自主調査に基づく

 全体的に見れば、大きな成長にも見えるがその実態は少し異なる一面をもつ。ひとつの団体やスポーツクラブに目を向けてみるとコロナ禍に継続して行われてきた活動や短中期的な戦略によって大きな格差が生じていることは皆さんにも広く伝わっていることだろう。そもそもなぜイベントにおいて集客や動員が大切なのか、当たり前のことではあるが、その基本をおさらいしておきたい。

 イベントにおける収益源は大きく「チケット収入」「スポンサー収入」「物販などの副収入」の3つに分けることができる。ここまでは皆さんもご存知の通りだ。

イベント事業の基本的な収益構造

 売上について「動員・集客」からの視点で細分化してみる。まずチケット収入は言うまでもなく、チケット価格×有料客数という数式が成り立つ。次にスポンサー収入についてだが、一般的にスポンサー(協賛者)はその対価として露出効果を求めることとなる。イベントがエンターテイメントとして成長してきたことにより露出媒体も多様化しているが、原則はその広告物がどれだけ多くの方の目に触れるか、見た方々がどれだけ興味を示してくれるのかというところにスポンサードの意義がある。すなわち観客を集めるリアルイベントにおいてはその費用対効果を計算するうえで客数が最も重要な変数となることは言うまでもない。物販や飲食店などの副収入も同様に、イベントを観たまさにそのタイミングこそが購買意欲を最も促進する機会であり、少なからず客数に比例して増収すると考えても不自然ではない。

 「動員・集客」が売上をあげる最大要因であることの説明はこれで十分であろう。さらに深掘りするとこの客数は支出においても重要なポイントとなる。例えば、客数が増えれば当然それだけの「箱」を用意する必要があり、運営に携わる人員も増えることとなる。視点を変えてみる。今度は客数を増やすために施策が必要となる。コンテンツ力を上げるために原価を増やし、より多くの方に認知していただくために広告費をかけることになる。つまり売上が増えても支出は増える上に、ある一定のレベルを超えると支出を増やさなければ売上が上がらないという循環に陥るのだ。いずれにしても「動員・集客」が全ての面からそのイベントの価値を決めるといっても過言ではない。同時にイベント事業がいかに難易度の高いものであるのかも理解していただけるのではないだろうか。

イベントが成長するために必要なこと

 Bリーグを例に挙げてみる。Bリーグが公式に発表している決算資料によると昨季(2022-23シーズン)の全体の収益構造は以下の通りである。

Bリーグ全体の収益構造とカテゴリー別の割合(2022-23シーズン)

 Bリーグでは全体(B1とB2の合計)の売上の内、約20%がチケット収入、約60%がスポンサー収入となっている。あくまで売上高の話ではあるが、リーグ全体でみるとその多くをスポンサー収入に頼っていることとなるが、このこと自体の良し悪しには今は触れない。しかし、カテゴリーごとに分けてみると興味深い結果が得られた。上図の右側に記載している通り、B1とB2ではスポンサー収入には2倍ほどの差しかないにもかかわらず、チケット収入には約4倍の差があるのだ。当然その比率も大きく異なり、カテゴリーが上がるほどチケット収入の比率が増えている。サンプルが1競技の1シーズンのみであるため、精度は不十分だがここまで顕著に差が出ていることを鑑みるとこれを結論としても大きな問題はないだろう。

 ではなぜこのような差が生まれているのか。B1とB2のどこに差があるのか。答えはとてもシンプルだと僕は考えている。それはチームの強さやリーグの規模、つまりコンテンツ力の差だ。この際、大資本が背景にあるクラブや1人でスポンサーを抱えることができるほどの有名選手がいるクラブ、特殊な環境にあるクラブの存在は無視しよう。より上手な選手がいて、高いレベルの競技が観られる。さらに演出も豪華でより楽しめる空間があるからこそ「有料」でチケットを払ってでも観ようというお客様が増えていると考えるのが最も自然ではないだろうか。そしてその数がさらに増えることで、より好循環が生まれチームの価値が上がっていくことになる。先ほど、僕は「売上が増えても支出は増える上に、ある一定のレベルを超えると支出を増やさなければ売上が上がらないという循環に陥る」とネガティブな書き方をしたが、イベント主催者はこれをポジティブに受けとめ、取り組んでいく必要がある。

売上(スポンサー、増資でも構わない)を増やし、支出(コンテンツ強化の原資)を増やす。コンテンツ力がある一定のレベルを超えたら、支出(広告等)により客数を増やし、さらなる売上に繋げる好循環を生む。

今はスポンサー収入に頼らざるを得ないクラブもとにかくそのコンテンツ力を高めることでいち早くこの好循環に乗る必要がある。クラブに力がない段階でのスポンサードはそのほとんどが寄附であり、応援したいという気持ちをいただいている。しかし、その気持ちに応えるために残された時間は多くないということを正しく認識する必要がある。

無料招待の価値は

 Bリーグを例に収益構造を解説し、イベント主催者のあるべきスタンスを書いてきた。しかし、ここまでしっかりと読んでくださった方々は一つの大きな欠落にお気付きになられていると思う。循環に乗ることを目指す最初の一歩、そもそもコンテンツ力がない段階で、どうやってスポンサー売上をあげていくのかという点だ。繰り返しになるが、スポンサー収入は対価としての広告物の露出量に紐づく。コンテンツ力がなく、動員・集客ができてない状況でどうやって伸ばすのかというところに多くのイベントが行きつくのだと思う。そこで打たれる戦略が「無料招待」である。文字通り、無料であることからチケット収入にはならない。目指すべきは、1度見ていただいてリピートに繋げること。客数が増えることでスポンサー収入や副収入に繋げることだ。

 先日とある方から、僕が応援している鹿児島レブナイズに関して以下のようなコメントをいただいた。

1番の収益はチケットであり、本当に魅力あるチームというなら無料招待はやめるべき。他力本願で大きなものを見せるのは違うのではないか。

 決して間違いではない。多くの方はライセンス獲得のために集客を増やさなければならないからばら撒いているとお考えだろう。これに対して僕は僕自身の経験から2つの意見を述べたいと思う。

① 無料だからと言って集まるほどイベントは簡単ではない

 無料招待というのはあくまで「チケット代がかからない」というだけである。会場までの移動時間や観戦そのものにかかる時間、交通費や宿泊費など少なからずその全員が対価を払っている。人を動かすものに無価値なものは決してない。イベント主催者にとって一番の機会損失は「知られていない」「参加のきっかけを作れない」ということだ。無料招待という言葉でまずは知っていただき、無料でも一度体験をしていただく。そこに大きな価値があるのではないだろうか。付け加えれば、本当の意味でコンテンツ力がない段階では無料招待を企画しても人は集まらない。僕自身の経験においてもそうだが、様々なイベントを見てもそもそも魅力がないものにわざわざ時間を費やすことはないだろう。イベント主催者は今できる範囲で最高のコンテンツを提供する。お客様はその価値を客観的に評価し、次のアクションを決める。価値を感じなければ無視すればよい。無料ならokであれば無料で観てみる。そこに無料を超える価値を感じるのであれば、ぜひ次回はチケットを買っていただきたい。その数が増えれば増えるほど、実績が積み上がっていくほど、イベントは皆様が望む理想の形へと近づいていくのだと思う。

② 無料招待の背景によりその性質は大きく異なる

 同じ無料招待でもその構造には多くの違いがみられる。その対価をイベント主催者しか払わない(チケット収入を手放す)シンプルな無料招待もあるが、そのチケット代金をスポンサーが支払っていたり少なからずどこかに負担が発生しているケースも少なくはない。その場合、観客となる我々はその無料招待を本当に無料と考えるべきなのだろうか。僕は運営と観客という両方を経験していて、さらに今年は少額ながらスポンサーになった。無料招待に関連した全ての立場を経験したからこそ皆さんに問いかけたいことがある。皆さんの手元に届いたその「無料チケット」は本当に「無料」ですか?

 無料招待の在り方はイベントにおいて永遠のテーマなのかもしれない。でももし皆様の貴重な時間を少しでも割くことができるなら、その価値を見出せるならぜひ無料招待に参加してみてほしい。初めてでも何度でも目の前にある「無料」は最大限活用するべきだと思う。あなたが会場に足を運び、無料招待で参加する時初めてそこに価値が生まれる。そしてイベント主催者は「無料招待」であっても、その皆様を満足させるコンテンツ作りに全力を尽くし、その価値に応え続けていってもらいたい。

最後に

 ここまでお読みいただいた皆様には心より感謝申し上げます。色々な立場を経験したからこそ、思うところがあります。この文章を読んで少しでも多くの方にイベントに興味を持っていただき、足を運んでいただけると幸いです。そのアクションが鹿児島だけでなく、日本中をより豊かで魅力的にしていくと僕は信じています。

 最後になりますが、運営側にいた立場からこれから無料招待でイベントに参加される方々にお願いがあります。皆様がご覧になるイベントにはそれを作り上げるために多くの方々の努力と費やしてきた時間があります。演者が積み重ねてきた経験や努力があります。皆様が足を運ばれる価値と目の前の催しの価値の両方を大切にしていただけると幸いです。

 ここで書かせていただいているのは僕個人の意見と見解です。もし内容に誤りや不足があれば、ぜひ教えてください。そこでいろいろなコミュニケーションが生まれることも楽しみにしています。

ご覧いただき、誠にありがとうございました。

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