発表原稿例

前回、「プレゼンの技術」と題して人を引き付けるプレゼン、自分も相手も満足がいくプレゼンをするにはどうすればよいかを考えた。

私はそこで最初に必ず原稿をかくことを述べたと思うが、直近の天文学会で発表したボイドに関する研究(次回の天文学会、締切近いけど、進捗なくて発表できない、、、現実逃避、とほほ)の原稿がせっかくあるので、そのままのせてみることにしよう。

「プレゼンの技術」でも述べた通り、とにかく大事なのは「起承転結」である。そして大事なことはくり返し言うことである。そこを意識して原稿を読んでみてほしい。


原稿

背景(起)

発表始めたいとおもいます。

まず、ボイドはご存知でしょうか?

宇宙の大規模構造があるとすると、銀河やダークマターがほとんど存在しない領域をボイドと呼びます。銀河がたくさんあるクラスターは統計が取りやすい反面、銀河形成の物理の影響を正しく評価できない問題がある一方、ボイドはそもそも銀河やダークマターがない空間なので、そういった物理の影響を受けず、重力のみによって形成されるため、標準宇宙論や重力理論の検証に有用と考えられています。

ただし、統計が得にくいという問題があります。というのも、従来、ボイドを探索しようと思うと、分光サーベイによる銀河数密度分布に基づいていました。けれども、ダークマター分布と銀河数密度分布は違うので、不確定性や系統誤差がどうしても発生してしまい、銀河サーベイからは正確なボイド統計が得られないという問題がありました。

そこで、別の方法が必要になりますが、それこそ重力レンズです。

弱い重力レンズ、1つしか像ができない僅かな歪みのものですが、多数の銀河を観測することで途中の質量分布を反映した、組織的な歪みが見え、ここから直接的にダークマターの質量分布が再現されるという寸法です。つまり、バイアスなしに直接、質量密度分布がわかるという強みがあるわけです。けれども、一個懸念点があります。

予想(起)

というのも、弱い重力レンズでボイドを見つける場合、そもそもシグナルがボイドは弱いので、high S/Nで見つかるようなトラフ領域は複数のボイドがならんだものがほとんどで、single voidはほとんど見つからないのではないかという予想が昔からありました。もし、見つけようとしても、当時の観測技術の話なのですごく大げさな値ですが、100Mpcを超えるようなボイドじゃないと単一のものは見つからないというのです。だからこそ、弱い重力レンズでは複数のボイドを重ねて大きなシグナルにするstacked voidの議論が一般的なわけです。

目的(起)

では、本当に単一のボイドをhigh S/Nで見つけられないのか?この疑問を解消すべく、せっかく最新の重力レンズデータがあるので、これを用いて質量密度分布を再構築し、ボイド探索を行いました。

手法(承)


さて、手法にはいっていきますが、まず質量マップをつくらないといけません。oberved shearから昔ながらの方法、KS inversionによって諸々のバイアスを差っ引き、大きな値だけをみたいのでスムージングをかけてシアを求めます。

ここでは、fwhmを40arcminに設定しました。

シアが得られれば、球面調和展開によって、質量密度ゆらぎに相当するコンバージェンスを求めます。さて、コンバージェンマップできたので終わりというとそうではない。

このままでは系統誤差が正しく評価できないので、S/Nマップを作ります。

作り方その1、銀河の向きをランダムにかえることでノイズ成分だけを拾い出したノイズマップを100枚作ります。

その2,100枚のノイズマップから各ピクセルごとの標準偏差を計算し、ノイズの期待値マップを作ります。

その3,元々のコンバージェンスマップをノイズの期待値マップで割ります。結果、S/Nマップの完成です。

黄色いところは質量がたくさんあるところで、暗いところは質量スカスカのところです。6つの図はHSCの観測している6つの領域に対応しています。

ここから極大、極小値を見つけていきます。

HEALPixに基づくあるピクセルに注目し、それと周囲8箇所の値を比較し、それより大きければ、ピーク、それより小さければトラフとしておきます。私たちが知りたいのはボイドなので、極小値が知りたいというわけです。

さて、トラフ見つかって、はい、終わり、というとまだだめですね。

コンバージェンスは視線方向にそって密度ゆらぎを積分した値になっているので、これだけだと視線方向の情報がわかりません。たとえ、トラフ見つかったとなっても、視線方向みてみたら1箇所へこんでるのか、複数へこんでいるのか、区別できないわけです。

見つけたいと思っているのは1この凹みなので、この2つを区別しなきゃいけない。そこで使うのが銀河カタログです。

使ったのは2つです。1つはHSCのphotometric LRG カタログ、もう1つはSDSSのCMASS/LOWZカタログです。さてこれを用いて視線分布をつくるわけですが、トラフ中心から適当なスケール(HSCでは10arcmin、SDSSでは50arcmin)で銀河を拾い出し、その数分布を観測領域全体の数分布でわることで作ります。これが1箇所でへこんでいれば、其のトラフ領域は単一のボイド由来だろうと考えるわけです。

結果(転)


長々と手法を説明しましたが、結果、見つかったのか、気になるところだと思います。

気になりません?

さて、S/Nの高い順に23個取ってきた表がこんな感じ。やっぱり、多くは複数のボイド由来のものだったのですが、2つ、単一のボイド由来っぽいものを見つけることができました。うれしい。

詳しくこの2つについてみてきます。まず、マップ上ではこんな感じ。2つ、比較的近いところにありました。次にradial profile。中心から適当なスケールごとに区切って平均化したプロファイルはこんな感じ。中心の値がもっとも小さく、徐々に大きな値になっていきます。ちょこっと境界でもりあがって、なだらかになる感じです。なだらかになる場所で読み取ってみると、スケールがだいたい60arcmin、physical scaleでだいたい10Mpcぐらいになりました。

銀河分布はHSC,SDSSともにT7では0.2のところで、T23では0.3のところで凹んでおります。1箇所だけ凹んでいるので、単一のボイドと考えているわけです。

議論(結)


さて、議論に入っていきますが、従来の予想だと単一のボイドを高いS/Nで見つけられないだろうと思われていました。

さていざ探してみると復数のボイド由来のものが多数を占めていましたが、単一のボイド由来の候補が2つみつかった。しかも、規格外だったとはいえ、予想の1/10である10Mpc。どのように解釈したら良いのでしょうか?

そこでトイモデルを考えてみます。

見つかったボイドを球対称一様ボイドとします。密度ゆらぎを-1、source redshiftを1,スケールを観測から得た値、10Mpcを用いることにします。さて、得られるモデル値は-0.001ぐらい。観測値は-0.008ぐらい。観測のほうがより深いボイドということになる。これはどういうことか?
球対称と仮定したが、球対称でなければいい。視線方向に長いボイドを考えればよいでないか?

球対称だと、スケールが大きくても、奥行きが稼げないので、コンバージェンスの値が小さいまま。一方、細長いボイドならスケールが小さくても、奥行きがあるので、コンバージェンの値が大きくなる。当然、selection biasや系統誤差がのっている可能性もあるが、このボイドがphysicalか否かは将来的な分光サーベイが明らかにするでしょう。発表終わります。


まとめ(結)

まとめです。従来の予想だと弱い重力レンズでは高いS/Nで単一のボイドを見つけられないと思われていました。

それが本当か確かめるために質量マップをつくり、トラフ探索し、銀河カタログを参照して視線方向の情報を調べました。従来の予想通り、S/Nが高いところでは復数のボイド由来が主だったが、単一のボイドも発見されたわけです。

これらは視線方向に長いボイドと考えることで説明がつくと考えます。



おわり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?