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街 LAST

道路はきれいになったし、新しいお店もたくさんできた。
田んぼは住宅地になり、畑があったところにはアパートやマンション、老人ホームが次々と建つ。
自分の存在が”無”に感じることがあった。
だから自分の存在を証明するために必死で足掻いた。
”金”があれば自分の存在は証明できる、仮に”金”がなくても生み出すことができれば俺には価値がある。
人よりも一歩でも二歩でも有利に立て。それで自分を誇示できる。
空しく過ぎる日々・・・自分の存在を何かに置き換えないと生きている実感すら沸かない。
「お前の目は死んでる」「腐ってる」よく言われたよ。
でも誰もその状況から救い出してくれる人なんていなかった。
”所詮この世は弱肉強食、強ければ生き弱ければ死ぬ・・・”
俺の中で全てこの四文字で解決できた・・・弱肉強食。
だってそうだろ?金は誰も運んできてはくれないんだ。作るしかない。
高校生にしてはだいぶ腐った思考で生きていた。
簡単にしっかりしてるとか言われたけど、しっかりしてるんじゃなかった。
世の中の原理原則を弱肉強食と決めていれば迷わないし、進むべき道は他者よりも上、誰にも舐められないで生きるってことだけ。
希望なんてキラキラしたものなんてかけらもなかった。
あったのは煙草の火種と千円札の束。
ギャンブルで勝ち越しているときは羽振りもよかったし、人にもやさしくできた・・・でも落ち目になるとトコトン落ちた。
バイトとパチ屋の往復に時々学校があった。
世にいう不良少年や非行少年、ヤンキーと呼ばれるのとも少し違った。
非行でやるパチンコ、スロット、麻雀は楽しい物かもしれないが金策でやるギャンブルほど楽しめないものはない。
コツコツとデータを集めて、やりたくもない台を一日中メシも食わずに回し続ける。
そんな俺もあと二回の補修にでれば卒業できる。
三日後は卒業式、そしてその二日後には・・・。

いつもの朝

ここ最近はいろんな想いで目が覚める。
自分がいままで夢見た状況と現実の気持ちが反比例したりする。
我ながら本当に人間というのは勝手な生き物だと思う。
生活は元に戻り何事もなかったように日々が進む。
そして補習に向かい、バイトに行って今日も終わる。
何もないままその日を迎えた。
友人たちは自動車学校や高校の友人との最後の思い出作りで忙しいようだが、わざわざ思い出を残す気になれない俺はこの日地元を離れる事も昔馴染み数人にしか話していなかった。
本来なら卒業してから2週間から1カ月くらいフリーになるようだが、オレの場合は卒業式の2日後に移動するよう新幹線の片道チケットが就職の決まった企業から送られてきていた。
俺は明日の朝ずっと離れたかった家を出て、無縁だと思っていた会社員になる。
上京金は3万、家具なんてない。
家電は近所のリサイクルショップで3万で揃えた、ついでに入社式で着るスーツも3500円で買えた。
引っ越し代も会社が払ってくれるので建て替えになるんだけど、冷蔵庫と洗濯機だけ宅配で送って服はボストンバックとスポーツバックで事足りた。
絵に書いたような超ビンボー野郎だ。
金がない事に慣れすぎて、金が無くなったらどうしようなんて野暮な事は考えないから幸せ者だ。
いろんなモノの見え方が変わり始めた。
世界は俺の存在を認めてない。
全てが敵になっても構わない・・・俺は東京で成功する。
心の中で誓った。
18年育った家を出るときの前夜・・・俺はいつも通り過ごした。
朝からスロット打ってちょい勝ちしたから手持ちが35000円になった。
布団に入り目を瞑る。
明日の朝8時の新幹線で俺は東京に行く。
知らない土地、知らない人、知らない会社。
全てが新しい。
不安の方が大きかった、不安をかき消すために強がった。

物心ついた時に目の前の田んぼには蛍がいた。
その田んぼは今はアパートになっている。
バイパスとしてメイン道路になっているあの道は小学4年生の時に開通した。
考えてみるとだいぶ変わったな。
街もだが俺自身も。
泣き虫でいじめられっ子だったのに、いつからだろう?傷付けられる前に傷つけるようになったのは、、、、
きっかけは簡単だった。
中学に入っても基本的には何も変わっていなかった。
臆病で、病弱で、、、
そんな中で大きな転機があったんだ。
クラスの女の子に恋をした。
誰でもあるような初恋だ。
気軽に話しかけくれるってそれだけで十分だった。
彼女は大人っぽくて、先輩に憧れていた。
もちろん全然眼中にないのもわかっていたんだ。
だけど変わるきっかけとしてはこれ以上ないタイミングだった。
ある日帰っていると3年生の番長に呼び出された。まぁいじめられっ子の俺は無縁な存在だったんだけれど、ちょっとした共通点があって少し話をしたんだ。
ダボダボの制服に学ランはボタンを全開にして、鞄の代わりにセカンドバックをもってくわえタバコではなしをしていた。
俺は思った、コレだ!って。
本当バカだよな。
クラスの子が憧れているのは爽やか系のちょいやんちゃな感じの先輩だったんだけど、どうやら俺は筋金入りのヤンキーの方がカッコいいと思っちまった。
次の日、オレは河川敷の橋の下でラッキーストライクをくわえた。
何を買ったらいいか分からなくて、昔から馴染みのある親父の吸ってるタバコにした。
100円ライターで火をつける。
吸い方がイマイチ分からないから、思いっきり吸い込んでみた。
肺の中に明らかに体に悪そうな生温い煙がスーっと入った。
そして口をとんがらせて一気にフーっと吐く。
真っ白い煙を吐き出す。
むせたりはしなかったが口の中に残るヤニのアジは気持ち悪かった。
買っていたブラックコーヒーを飲むと苦さもやに感も倍増して感じた。
あの日から服装が変わり、言動が変わり、態度がかわり、身長も伸びて、目つきも悪くなっていった。
今思うと必死に背伸びしている中学生だと思う。
ちなみに当時好きだった子には3回振られたよ。
1回目はタバコを吸い始めた時、2回目は態度がデカくなった時、3回目は中3になった時。
本当潔く完敗したな。
心身共にちゃんとやさぐれてきたのは中3の夏くらいかな。
麻雀やったり、夜中までフラフラしたり、面白くねぇとすぐに喧嘩吹っかけたり、、、本当クソガキだった。
そんなオレも今日この街と別れを告げる。
高校も大して行ってないし、それこそダークヒーロー気取りでだいぶ先生達には迷惑かけていたと思う。
そもそも学校に行かないから話にならないな。
新幹線に乗ると同時に煙草をくわえた。
来月から全車両禁煙になるってポスターやアナウンスで忙しなく伝えるが、そんなもんかと思いながら肘置きに付いている灰皿を開ける。
見覚えのある風景がみるみる遠ざかっていく。

新幹線のなかで、、、

いろんなことを思い返していた。
今考えればそこそこいい感じの波乱万丈な18年だった。
こんな俺でも趣味は音楽。
もちろんROCKやHIPHOPはもちろんだけど、クラシックやオーケストラなんかもよく聞く。
指揮が誰だとか、誰が書いた曲だとかは気にしたことはないんだけどね。
ガラケーにイヤーフォンを繋いで無料でダウンロードした「威風堂々」をかけた。
このころのちにみんながパソコンを持ち歩く時代が来るなんて夢にも思わなかった。
見慣れた景色は過ぎて見たことのない景色が広がる。
社会の事なんて全然わからなかった。
心の中に刃こぼれしてボロボロになった刀が1本だけあるイメージ。
この刀が上京して、少しづつ研がれていく。
後にも先にも本当に不器用な奴だからこの心の刀は打ち直す度に厚さや長さ、切れ味全てが変わるんだけど、不思議なことにどれもしっくりくる。
東京に近づくにつれてだんだんと街が大きくなっていく。
言い忘れてたけど、俺が向かってるのは池袋。
住むのはもう少し離れたとこなんだけどね。
いろんな街でいろんな人と出会い、いろんな事を乗り越えていく。
東京駅に着いた。
そこは迷路に人がゴチャゴチャいるみたいで人が多ければ多いほど自分が1人でいる事を突きつけられるように感じた。
とりあえず喫煙所に入って一服する。
わからないようにしてるけど膝がガタガタ震えている。
何も知らない街、知らない匂い、何語だか分かんないけど外国語が飛び交い、露天商は片言の日本語でアクセサリーを売りつけようとする。
とりあえずアパートの鍵を引き継ぐために向かう。

新たな一歩

天国と地獄が存在するなら東京って街はちょうど中間にあるような気がする。
まともに頑張れれば天国が待ってるし、迷っていればそこに停滞するし、道を踏み外し落始めればトコトンどん底まで落ちることの出来る街。
繁華街はキラキラして、新宿、六本木、渋谷、、、有名な繁華街は至るところにある。
その中でも少し外れにある池袋。
路線のせいもあるけど池袋って離れ小島なイメージがある。
ファミリーとアベックとビジネスマンや学生が多い東口とは真逆に怪しい店とギラギラのネオンが朝までヒカリ続ける西口。
まるで人の表と裏を表しているかのようなこの街はホームレスや外国人もたくさんいて、でも昔ながら匂いも残る不思議な街。
そういえば何年か前に西口公園を舞台にした小説があったな。
ドラマにもなった、あの公園。
、、、見に行ってみよう。
鍵の受け渡しを終えて、小さな商店街を抜けて東武東上線に乗る。
電車を降りてひたすらに西口を目指す。
ようやくでた公園のあのベンチに座ってタバコに火をつける。
ホームレスがおもむろに隣に座り、タバコをくれって言ってきた。
あんたがこの街で俺の最初のダチになってくれるならって言ったら笑顔で頷いた。
マルメンを一本渡し、火をつけた。
「爺さん、美味いだろ?」
「ああ、美味い!若い奴も年寄りもずっとくれなかったんだ」
「ならよかった、俺もこの街に来たばかりで心細かったんだ。ありがとう。」
「人に感謝されたのは随分久しい。困った事があったら言ってきなさい。力になれる事は力になるし、無理なものは無理だから安心していい。」
「そりゃ心強いな。これ半分しか入ってないけど吸っていいよ。火の始末だけはちゃんとな。」
「これ以上人様に迷惑になるようなことはせんよ。」
そういった爺さんの背中からでる哀愁は言葉にならなかった。
苦労の二文字を背中で語る爺さんと真逆に進んでみた。
ラブホテルから一人で出てくる女の子、薄暗い路地で声をかけてくる片言の日本語、最初は居酒屋から段々と金のかかる店を紹介してくるキャッチ。
まだ午後の2時を回ったところなのにすでに夜の街がそこにはあった。
適当にやり過ごして電車に乗り市役所に向かって住所の変更をした。
みんな成人式があるから住所は変えないって言ってたけど、俺は成人式に出る気はなかったからいち早く東京の住所が欲しかった。
今日はまだ一歩踏み出したに過ぎないけど、この一歩は大きい。
なんせ今日は初めて来たこの街でトモダチができたんだから。

この街で沢山の人との出会いと別れ・・・また今度ゆっくり話すよ。
もしあんたが今何かに苦しんだり、苦労しているならきっと大丈夫。
その辛さは時が経つと一が足されて幸せになる日がきっとくる。
もし未来への希望がないと感じているなら、それも大丈夫。
夢や希望ってのは降ってはこない、何処かのタイミングで気づくんだ。
自分で取りに行くものだってね。
俺は確かに不幸なシンデレラ状態だった時もあるし、触るもの全てを傷つけた時もあるんだけど、きっつい経験をして気づいたんだ。
自分が変われば世界は変わるはずだって、だってそうだろ?
腐って何もしなかったらこの街に来ることはなかった。
でも人生ってのは漫画みたいに一瞬で修業を終わらしてくれないし、一晩泣いたくらいじゃ悲しみは癒えないし、ドラマみたいに綺麗に人と別れることなんてない。
でも人との出会いってのは漫画やドラマみたいな奇跡がある。
そんな奇跡が嬉しくて、楽しいから頑張って生きていけるんじゃないかな。
俺はアノ街が心底嫌いになった、そしてこの街が好きになった。
この街を好きになったら、アノ街も悪くない気がしたんだ。
もちろん偉そうなことを言う気はない。
でも約束できるのは今日か明日か、1年後か10年後か・・・いつになるかはわからないけどあなたをどん底から引き揚げ、目の奥に光を灯してくれる人は絶対にいる。
だって俺はそういう人たちに何度も救われてきたのだから。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません

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