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111年目の中原淳一展

中原淳一(1913~1983)の生誕111年を記念した展覧会が、現在、横浜そごう6階のそごう美術館にて開催中。

そごう西武公式サイトより

私が訪れたのは平日の夕方だったが、やはり、女性が圧倒的に多く(同時代を生きたシニア世代だけでなく、アートに関心が高そうな若い方の姿も)、1時間半の鑑賞時間の間に、男性客は、私の他に2人だけ。まあ、充分に予想できたことではあるが。

青年期から晩年までの仕事内容をほぼすべて網羅した、かなり見ごたえのある展覧会。多数の原画に加え、刊行雑誌、デザイン画とそれを基に制作されたドレスや浴衣、人形、初期のイラスト(スケッチブック)など、丁寧に見ていけばたっぷり半日はかかるボリュームであった。

私はごく最近まで、中原淳一は完全にノーマークだったのだが、2021年に「緑はるかに」という映画とその原作についてブログに記事を書いた際、いろいろ資料に当たるうち、中原の繊細なタッチの絵の虜になっていったのである。

「緑はるかに」DVDジャケット

「緑はるかに」は、1954年に読売新聞に連載された絵物語を原作にして1955年に製作・公開された日活映画。浅丘ルリ子のデビュー作であり、日活初のカラー作品でもある。中原淳一が原作の挿絵映画の衣裳考証(デザイン)を担当。オーディションで浅丘ルリ子に白羽の矢を立て、後日、原作のヒロインのイメージに合わせてヘアカットを行ったのも中原淳一だった。

「緑はるかに」連載第1回(「読売新聞」より)
「緑はるかに」連載第6回(「読売新聞」より)
浅丘ルリ子のヘアカットを行う中原(「ジュニアそれいゆ」より)
原作イラストとの比較。かなりイメージに近い仕上がり
中原デザインによる衣裳を着用した浅丘ルリ子(「ジュニアそれいゆ」より)

※このあたりの記事をお読みになりたい方は、以下のリンクをご覧ください。コロナ禍で自粛が続く中、かなりがんばって書きました。原作や中原をメインに据えた記事を3つ貼っておきますが、全部で10回分あります。

残念ながら、今回の展示では「緑はるかに」関連のものは、原画もデザイン画も一切展示されておらず、また、図録の年譜を見ても、「緑はるかに」に関する記述は一切見当たらなかった。中原淳一が映画の衣裳デザインを担当した唯一の作品であるし、もう少し顧みられてもいいような気はするのだが……(以前の展覧会では「緑はるかに」の原画が展示されたという記録もあるので、現存はしているらしい)。

「緑はるかに」とほぼ同時期と思われる、極細の線で描かれた女性の顔。「ゆるぎない美」という印象。

雑誌掲載のカットの数々。

こういうオムニバス的な展示もありだとは思うが、一点一点を、もっとしっかり見せてもらいたい気も……

長期療養から復帰し、57歳の時に新たに創刊した雑誌「女の部屋」(1970)の表紙絵。個人的に、この時期のものは、なんとも痛々しくて正視するのが辛い。わずか1年で廃刊という哀しい歴史を知っているせいかも知れないが…

ともあれ、遺された作品は永遠である。大変眼福な年の瀬のひとときであった。横浜での開催は来年1月10日までなので、ご覧になりたい関東の方はどうぞお早めに!(その後、各地を巡回の予定)

■2023年11月18日(土)~2024年1月10日(水)[会期中無休]
■開館時間:午前10時~午後8時(入館は閉館30分前まで)
 12月31日(日)・1月1日(月・祝)は午後6時閉館。

※展覧会の画像はすべて撮影OKコーナーのものです

https://note.com/takurama/

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