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ポケモン元年に参加してた話

1996年。ポケモンは寂しくて、少し勇敢な気持ちが奮い立つ昆虫採集みたいだった。

通称「ポケモン」ことポケットモンスター。発売された1996年から20年もの年月が経ったにもかかわらず、その人気はいっこうに衰えない。さまざまなメディアミックスがなされ、続編もたくさん出ているゲーム界の金字塔だ。

どんな金字塔にも始まりはある。ポケモンほどのビッグタイトルも同様だ。僕は8歳の時、その始まりの渦の中にいた。この「ポケモン」というゲーム、どういうゲームかご存知だろうか。

『ポケットモンスター』シリーズは、「ポケットモンスター(以下「ポケモン」)」という不思議な生き物が生息する世界において、ポケモンを自らのパートナーとし、「ポケモン同士のバトル」を行う「ポケモントレーナー」たちの冒険を描くロールプレイングゲーム(RPG)である
※Wikipediaより

そして、このゲーム本来の目的は「収集」にあった。「151匹ものポケモンをすべて集め、ポケモン図鑑を完成させること」これがこのゲームの設定したゴールだった。そして、自分一人では決して151匹すべてを集めることができないのが、このゲームのキモだった。

赤と緑。任天堂は対となるバージョンを同時に発売した。ストーリーはほぼ同じなのだが、出現するポケモンが微妙に違うのだ。つまり赤にしか、緑にしかいないポケモンがいる。友達と通信ケーブルでポケモンを交換をしないと図鑑は完成しないというしくみだ。

しかし僕はこのゲーム本来の目的である「収集」の外にいた。「集める」以外の遊び方にハマりまくっていた。まったくポケモンを集めずに、好きなポケモンを育てることや、広大なゲームフィールドをかけずり回ることに楽しみを見いだしていた。延々とやっていた。一日5時間ぐらいやっていた。やりすぎでよく怒られた。

2016年夏に久しぶりの社会現象クラスのポケモンブームがやってきた。海外発信の「Pokémon GO」が国内に上陸したとたんに猛威を振るったのだ。そしてあのブームは、僕が一つのことを考えるきっかけとなった。

それは「20年前、何故僕はゲーム本来の目的と違う遊び方を選んだのだろう」ということだった。ポケットモンスターは前述の通り、ロールプレイングゲームと呼ばれるゲームだ。ジャンルで言えばドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどが同じものにあたる。

上記のビッグタイトルと同様に、ゲームを進めていく高揚感や、謎解きの面白さはポケモンもしっかりと兼ね備えていた。しかし、ポケモンには他のゲームには無い特色があった。それは何だろうとずっと思っていた。心では感じていたのだが、適切な言葉が見つからなかった。

そしてこの文章を書き、思考が整理されることで、ようやく自分を納得させる言葉が見つかった。

それは「ほんの少しの、ちょうどいい分量のノスタルジー」だ。冒険RPGなのでベースは勇敢なゲームなのだが、そこに含まれるわずかなさびしさや懐かしさ。8歳の僕はそのほんのりしたノスタルジーが大好きだったんだと思う。

一人で旅立つ少年の孤独に自分を投影し、いなかの夏休みの昆虫採集を思わせる少し不思議で、ちょっとした冒険みたいな心細さ。

この独特の感傷と高揚が絶妙に配合された世界観に、僕の心はおもいきりシンクロした。グラフィックの鮮明さや、壮大なBGMなんかでは出せないさびしげなリアリティがそこにあった。

大人になった今、ようやくポケモンの魅力はそこだったんじゃないかと言葉にできた。

少なくとも僕はそれを強く感じるために、ポケモン図鑑の完成よりも、ああいう遊び方を選んだ。

あのずっとそこにいたくなるような、でもいつか失くなることが肌でわかっているような、そんな時の流れそのものが愛おしくなる気持ち。それがじんわりと優しく溶けていって、気付かないぐらいのほんの少しのさびしさを加えた冒険心。

それらを感じると心地よかった。僕はそんな感覚が大好きだった。子どものときはこんなふうに整頓したり、言葉にしたりはできなかったけど。

ゲームを彩る質素な音楽や、白黒の画面。広げすぎない世界観。あらゆる演出が最小限だった。最小限で完璧だった。すべてはあの感覚を演出するためのものだったように思える。

部屋の隅にいてもゲームボーイのスイッチを入れるだけで、感覚の中を泳ぐことができた。いや、部屋の隅でやるからこそ、より鮮明に感覚の海の中に潜れた。

それを存分に味わうために、「友達とポケモンを交換する」するという遊び方を選ばなかった。

僕はポケモンが大好きだったのだけど、深く考えればポケモンそのものではなく、ポケモンの世界観に触れることで、味わえるあの感覚に価値を見いだしていた。

大人になって音楽をつくる人になった僕だけども、作るものには「勇敢でユニークだけど、少しさびしい」という要素が入っていることが多い。それが誰かに感動を与えることを、喜んでくれることをポケモンは教えてくれたからだ。

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