携帯ショップでキレる老人ができるまで
バンドをしていると『年齢』の意味合い、影響を多岐にわたって考える。体力的な話もだけれど、業界自体の消費サイクルが速いからだろうか。
CDから配信、サブスク、コロナ対策にNFT。べらぼうに速い。音楽ジャンルのトレンドも信じられないほどに速い。
こういった変化は他業種でも同じかもしれないが、音楽はそもそもの生命線やメインキャッシュポイントが平気で変わったりする。前提からひっくり返ることが数年単位で発生するのだ。
そして自分自身はそんな時代と足並みをそろえ、年をとる。年齢を重ねていくことの恐ろしさの一つに「意識しないと新しいものに触れない」というものがある。
アラサーを過ぎて無意識に過ごしていると、従来の生き方のみになる。
慣れ親しんだ音楽、慣れ親しんだ仕事、慣れ親しんだエンタメ、慣れ親しんだ遊び方だけで日々が回ってしまい、数年が経過してしまう。
これが存外恐ろしい。とんでもないことになる。デメリットは大きく分けると2つ。
①初心者に冷たくなる
②進歩が早すぎて自分も新サービスの初心者にならないと無理な時代
「できないひとの気持ち」というのがビビるぐらい分からなくなるのだ。マジで気を抜くと「は?なんでこんなこともできねーんだよ」という気持ちになる。
こうなると、自分の身の回りの初心者に冷たくなってくるのだ。
「なんでこんな簡単なこともできねーんだよ!」という気持ちのせいで、自らが偉大だと勘違いしだす。性格が悪くなるとロクなことがない。
冷静に考えると「始めたばかりのことができない」なんて当然なのだけれど、年をとると分からなくなる。
この対策は一つだ。とにかく年をとっても初心者になるのだ。
自分自身が定期的に「初心者」をやっていると、この肌感は驚くほど初心者に温かくなる。趣味でも仕事でもいいのだけど、自分が初心者になったり、教わったりするような立場になることを生活に取り入れたほうがいい。
特に年をとってベテランになると、意識しないとこの「生徒っぽい立場」は失われる一方だ。
ほっとくと本当に新しいことにチャレンジしなくなる。若い頃はすべてが挑戦だから無理やりやらなくてはいけないが、年をとると挑戦しなくても生きられてしまう。
チャレンジ精神がないのは、極めてダサいことだとは思うけれど、意識しないと、どんどん自分が大事になっていくし、痛い思いをすることから逃げるようになってしまう。
これは「過去の自分」に向かって逃げているのだろうけれど、時代もシチュエーションも変わっていくし、かつての仲間たちは今を生きている。その過去は幻想であって、残念ながらもう避難所としては機能していないのだ。
このようにして「経験と時間で少しずつできるようになっていく」なんて当然の摂理にも気付かない老害が誕生していく。
もうひとつの
②進歩が早すぎて自分も新サービスの初心者にならないと無理な時代
だけど、ちょっと分かりづらい。
つまり【テクノロジー進歩早すぎ→対応必要→新サービスだから初心者にならなきゃ→初心者になる耐性がすっかり衰えている→携帯ショップでキレる老人みたいになる】というロジックに当てはまってくる危険性が高まるということだ。
たまに携帯ショップにいくと、原則老人がキレている。
分からないことに対して耐性がなく、その哀しさと寂しさの織り混ざる一次感情の果て、お姉さんにキレている。老人自身も言語化できないのでわめくしかない。そして、この世の不幸が詰まった空間が誕生する。
しかしあのブチギレアングリー老人はいきなり生まれるわけではない。あくまで段階を踏んでモンスター化していくのだ。
彼らはまず20代からその素養が見られる。
「若年性老害」と呼ばれる20代なのに、新しいところに飛び込めなくなるという症状から始まるのだ。
つまり「新しいところに飛び込まないで生きていく」という道を選んでいる。この自覚なく歩いていくのだけれど、時代がこれを許さなくなってきた。
「新しいことをしないで生きていく」というのが本当に難しい時代がきている。言い換えるならば「アップデートせずに働いていく」という選択肢が少なくなっている。
「知らないことを学習する筋肉」がなかったり、知らない場所に過剰に怯える人格だと、自分のやりたいことすら、できなくなっていく。
もうこうなると携帯ショップでキレざるを得ない。何がなんだか分からないが、疎外感だけが増幅して孤独になっていく。あのキレた怪物らは皆孤独なのだ。やさしくはしなくていい。
さきほど「アップデートせずに働くことがムズくなる」と書いたけれど、たとえば生成AIなんてまさしくそれだ。
こんなもん誰だって初めてだ。つい最近まで、ChatGPTの話をしていたのにすっかりClaudeの話題ばかりだ。とにかく触らないと分からないし、先月リリースされたAIなのだから全世界のひとが初心者だ。
時代がどこに向かうかは分からない。
だけど、「初心者状態」の耐性がないとけっこう詰んでしまう。
だからこそ「俺Lv.1」に慣れるのだ。
Lv.1に慣れていないひとというのはすぐに分かる。これはずっと経営をしているおかげかもしれない。「あ、こいつLv1と思われないように必死だな」と透けて見える人間は少々ブキミだ。
このブキミくんたちが30代、40代、50代になると「こいつ初めてのことに耐性が消えた老害だ」と若者から思われるようになる。つらい。
僕は日曜はボクシングの試合がある。初めてである。ビビっている。
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