生活へ還る(小沢健二ライブレポ)

※前回の「まえがき」からになりますhttps://note.mu/takutalk/n/n6601d655ef59

暗闇の中から続々とミュージシャンが登場する。
目視で確認できるぐらい近い砂被り席。
不安なんかもうその場にはない。
溢れんばかりの期待しかない。

会場のざわめきが少し落ち着いたところで、オルガンの音が会場を包み込む。

新曲「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」のイントロで流れるオルガンだ。
これから始まる非日常へ誘うかのように優しく、温かく、国際フォーラムに鳴り響くオルガン。
そのオルガンの音に負けないぐらいの"声"が響いた。

小沢健二がラップを披露している。
「アルペジオ」でも印象的なラップフレーズ。
しかも、相当力強く、ファンクさを感じさせながら。

そして、会場に明りが点く。
その明りの中に立つ小沢健二。

あぁ、オザケンだ。
8年ぶりのオザケンだ。
ようやく、見ることができた。
この時の僕は幼い少年のように、思考せず、ただただ感情のままに驚きと喜びを表現していた。まるで無脊椎動物のように、反射的に。
まさに、恍惚。

そしてふとステージを見ると、ビックリ。

満島ひかりがいる。

いや、予測はしていたのだよ。
Apple Musicの企画で共演し、「アルペジオ」でのカップリングには満島ひかりと共に「ラブリー」を披露していたし、なんならMステで「アルペジオ」を披露したから。
ただ、予測はしていたとはいえ、いざ実現となると驚きを隠せない。
前から6列目だからしっかりと見える。
可愛い。そして、顔が小さい!!
Mステでも披露した、電子パッドを叩きながらボーカル参加。
あぁ、テレビで見た姿、そのまんまだよ。

初めて聴いた時、あまりのすごさに呆然とし、何度も聴き返す中で言葉にできない感情が生まれ、涙を流した「アルペジオ」だが、改めてライブで聴くと実に美しくも力強い曲であることを体感。
盟友・岡崎京子のことを思って作った曲(オザケン曰く「友情だけでできている曲」)なのだが、他者が介入できないほどの深く強い関係性は他者にも歌となって、伝わる。
あまりにストレートすぎる歌詞が二人の関係性に介入するような、少し生々しさすら感じる曲なのに、こんなにも美しく、温かいのは音楽の奇跡と言えよう。
僕は今、奇跡を体験しているのだ。

耳で、肌で、目で奇跡を感じながら「アルペジオ」が終わり、2曲目は「シナモン(都市と家庭)」へ。
4thアルバム「Eclectic」を彷彿とさせる、ブラックミュージックやR&Bの要素を含んだ、大人チックな楽曲。ベースラインがカッコいい。
小沢健二のことをぼんやりと認識した小学生の頃は「ラブリー」のイメージが強く、すごく甘い歌詞を口にする王子様、というイメージしかなかったのだが、多少音楽を聴くようになってから聴き返すと歌詞もとても文学的で深いことを理解し、音楽的観点でも一言で「ポップ」という一言では表現できないような、様々な音楽の要素の複合体であることを知る。
うねるようなベースラインが自然と体が乗ってしまう。
これもまた、すごい曲。

「シナモン」が終わった後、小沢健二がMC。
ひふみよツアーの時からMCと言えば朗読、となっていたのだが、今回は朗読なし!!ちょっとビックリ。
初MCで触れたのは満島ひかりのこと。
なんと、ゲストでなく「メンバー」として参加している、とのこと!!
つまり、最後まで出演する、ということ!!!
何これ。奇跡なの?
もう、これだけでも有給とって来た甲斐があった。

MCの後、「シナモン」のラストを披露し、そのまま3曲目へ。

それがまさかの「ラブリー」だとは思わなかった!!
不意打ちすぎやしませんか。。

そしてぞろぞろと入ってくるバンドメンバー。
ここで総勢36名へ。
ファンク集団の誕生。
ただでさえ豪華絢爛な「ラブリー」を36人の大所帯で演奏される贅沢。
オーケストラや吹奏楽など、様々な楽器から成る「ラブリー」は最高の一言だ。
序盤から飛ばしすぎじゃないっすか、小沢さん。

その飛ばしっぷりは留まることもなく、次に披露したのが「ぼくらが旅に出る理由」!!!
オザケンの曲でベスト5を挙げろ、と言われたら確実に入るぐらい、この曲が大好きな自分としてはもう、テンションがあげっぱなしなわけです。
しかも、満島ひかりがいる、ということは満島ひかりも歌うわけです。
基本的にこの曲は男性視点で描かれている歌詞なのだが、一部、女性視点がある。
「そして君は摩天楼で 僕にあてハガキを書いた こんなに遠く離れていると 愛はまた深まってく と」
というフレーズ。
ここを満島ひかりが歌う、という演出にぐっとくるわけです。
しかも、なんといっても今回の最大の見せ場は満島ひかりがMVを再現していた、ということ。
巨大な歯ブラシをもって歯を磨いたり、寝癖を直したり、と実際のMVを再現しているのが実によかった。
※MVはこちら
やはりこの曲でもオーケストラの存在は大きい。

小沢健二のライブの特徴として挙げられるのが「お客さんに歌わせる」ということ。
ネットでは「ファン度合いを試されている」という表現もあるのだが、ここでは「女子~」「男子~」とコールをしていた。
女子がやはり多い印象を受けた。

ちなみにオザケンらしいエピソードにはなるが、そのあとのMCで
「男子の気分の人は男子を、女子の気分の人は女子を」
とセクシャルマイノリティーを考慮したMCをしていた。
ジェンダー的観点もしっかり考えているのがオザケンらしい。

圧巻のオーケストラサウンドを堪能したところで次は「いちょう並木のセレナーデ」へ。
ここからは少しスローダウン。
ニュースサイトに掲載されていた小沢健二と満島ひかりのツーショット写真はこの時の写真。
幻想的なモノクロ写真。
※写真が掲載されているサイトはこちら
曲もアコースティックに近いサウンドとなっており、落ち着いた雰囲気で楽しめる時間へ。
穏やかに時間が流れていくイメージ。
この時間を今、この場にいるみんなで共有している。
オンラインとは異なる共有は温かい。

次の演奏が始まる前に「次の曲のギター、難しいんですよ」という一言があり、始まったのが「神秘的」。
19年ぶりのシングル「流動体について」のカップリング曲。
「流動体について」が”動”であれば、「神秘的」は"静"な曲。
アコースティックギターがメインな編成に。ドラムではなく、カホンだった。
この曲、実に計算された曲だと思う。
シンプルな音数の中でここまで深い世界を築き上げている。
この曲に関してはくるりの岸田繁もツイッターで絶賛していた。
これ、去年のフジロックで聴いたらより最高だったのかもなぁ。

「流動体について」が19年ぶりのシングル、ということもあり、世間では2017年から再始動、というイメージが強いが、冒頭に触れた8年前の「ひふみよツアー」はやっていたし、なんなら活動休止をしてNYへ渡ってからもオリジナルアルバムを2枚リリースしているのはあまり知られていない(さらに言うとエッセイとして「うさぎ!」を発表していたし、ブログ的なことをやっていたり、上映会をやったり。このあたりは宇野維正の「小沢健二の帰還」を読むことを勧めます)。
そのひふみよツアーで披露した新曲が「いちごが染まる」だったのだが、今回も披露。
この曲、音源化されていないのがもったいない(厳密に言うとひふみよツアーのライブCD「我ら、時」に収録)ぐらい、良い曲。
大人な小沢健二、満載。
今回のライブにおいて、この曲はちょっと不思議な演出が用いられた。
小沢健二を四点で囲むように4つの細い支柱があり、その支柱を満島ひかりが蛍光機能をもったヒモで巻く、という演出だ。
何とも不思議な演出。
ただ、曲の持つビターな雰囲気と合っていた。
力強い小沢健二のボーカルの後に入ってきたホーンの音がまた良い。
2017年にポッと復活したわけではない。
小沢健二はNYに旅立ってからもしっかりと活動していたんだなぁ、と実感。

しっとりとした雰囲気の中で披露された次の曲が4thアルバム「Eclectic」から「あらし」。これには驚いた。
Eclecticからもやるんだ、という純粋な驚き。ひふみよツアーでは「麝香」はやったけど、それ以外もやるんだなぁ、と。
※もしかしたら僕は不参加だった「東京の街が奏でる」や「魔法的」で披露されているのかも。
にしても、アルバムを聴いても感じるベースサウンドの凄み。
ビートに乗っかるのではなく、チルアウトのようにビートに委ねる感覚。
自然と体を揺らしてしまう。
そして、官能的。
まさに、大人が踊る曲。
この曲を初めて聴いたのは小学生か中学生ぐらいの時。
全然良さが分からなかったけど、今聴くとこの曲の心地良さが半端ない。
このまま音に委ね、遠くへ流されていってしまいそう。

心地良い時間が過ぎていく中、「36人のファンク交響楽団」という紹介をした後に披露したのが「フクロウの声が聞こえる」。
この曲はSEKAI NO OWARIとコラボしたことで話題になった一曲。
コラボ曲ではオーケストラがしっかりと入り込んでおり、セカオワっぽさも感じられる一曲なのだが、もともとはかなりファンクな曲調だったらしく、今回披露されたのもファンクアレンジ。
いや、これ、カッコよすぎるぞ!!
セカオワコラボの時はファンタジー感溢れる一曲だったのに、ここまでカッコ良くなるのか!!と驚いた。
ただ、根底にある楽曲の力強さ(コラボ版でも終わりにかけての盛り上がりは実に力強い!!)にテンションが上がる。
このファンクアレンジのほうが力強さは増していたけど。
「もう、これで終わっても良い」という一言がオザケンが出るほど、至高な空間が生み出されていた。

もちろん、ここで終わるわけはなく、次はメドレーへ。

メドレー1曲目が「戦場のボーイズ・ライフ」!!!
実はこれ、すごく好きな曲。
アルバムに収録されていないのだが、実家に奇跡的にシングルがあり、よく聴いている曲。
イントロで「まさか?!」と思っていたけど、まさかここで聞けるとは。
ひふみよツアーでも聴けたけど、この曲はやはり何度聴いても良い。
ファンクっぽさが十二分に溢れているこの曲は先ほどの「フクロウの声が聞こえる」と相まって会場のテンションがマックスに!!!!

次に披露したのがこれまた名曲「愛し愛され生きるのさ」。
歴史的名盤である2ndアルバム「LIFE」の1曲目を飾るこの曲。
この曲はNHKの「SONGS」でも披露されており、耳馴染みがある曲(といってもこの会場にいる人たちはみな全曲耳馴染みがあると思う)。

その次に披露されたのが「東京恋愛専科」。
ここでは振付をみんなで覚えて歌いながら踊る、という時間へ。
その振付がまた実に可愛らしく、素敵だった。
これ、子供たちも楽しく踊れるやつ。
記憶が正しければこの曲もファンク交響楽、みたいなイメージで作っていたとMCで話していた(このあたりになるとテンションあがりすぎてMC、うろ覚え)。
この曲での会場の一体感、半端なかった。

そして、また「愛し愛され生きるのさ」に戻り、「戦場のボーイズ・ライフ」へ。
この時の「戦場のボーイズ・ライフ」の歌詞に聞き覚えがなかった、
調べてみたところ、過去のライブで披露したバージョンとのこと。
まさに絶頂期だったころのライブだった。
その時の歌詞を使う、ということは今回のこのツアーは小沢健二にとって一つの区切りとも言えるツアーなのかもしれない、とぼんやりと感じた。

これでもか、と盛り上げた後に流れる
「Stand up,ダンスをしたいのは誰?」という歌詞に会場がさらにヒートアップ!!
ここで「強い気持ち・強い愛」という最高級に多幸感溢れる楽曲を演奏するとはとんでもないな、小沢健二!!!
36人編成のファンク交響楽団から繰り広げられるサウンド一つ一つがもう幸せ!!!!
この絶頂が永久に続けば良いのに!!!!!

そんな中、満島ひかりがエレキギターを携え、そのまま次の曲へ。

え、このリフ。
聴き覚えがあるぞ。

ま、まさか、、、

ここで披露されたのが「ある光」だ。

僕の中で1,2位を争う楽曲だ。

小沢健二ファンにおいて、この曲はとてもとても大事な一曲になっている。
ひふみよツアーではワンフレーズしか披露していない。
それがついに、ここで聴けるとは。

そして、ラストナンバーに完全復活を遂げた「流動体について」へ。
「ある光」と共に1,2位を争う楽曲だ。

の割に実にあっさりと書いているのだが、この2曲だけでものすごい文量になると思うので、この2曲に関してはまた後日、しっかりと書きたいと思う。

「アンコール呼んでください」という一言の残し、ステージを去るメンバー。

その後、アンコールへ。

アンコール1曲目は「流星ビバップ」!!
これもまた名曲。
僕が小沢健二を初めて生で聴いたのもこの曲だった(ひふみよツアーの1曲目がこれ)。
原曲もそこまで楽器の数が多くはないので、36人全員ステージにいたが演奏しているメンバーは数名であとはみんなでカホンやタンバリンを叩いている、まさに「音を楽しんでいる」空間へ。

2曲目は「春にして君を想う」へ。
NYへ旅立つ前の最後の1曲。
ゆったりとしたリズムで優しく曲が展開されていく。
これもまた音に身を委ね、遠くへ行ってしまいそうになる。
心地良さを感じつつも、この非日常の世界が終わりに近づいていることも感じさせる。

終わりたくない。
終わってほしくない。

終わる間際、こんなことをずっと、考えていた。

その意を汲んだかのように、オザケンはMCでこういった。

「また生活に帰ろう」

と。

最後に披露されたのが1曲目に披露した「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」。

イントロのオルガンの音が永遠に鳴り響いてほしい。

そう思った。
確かに思った。
ただ、一瞬だけだった。
この非日常が永遠に続けば、この空間が日常となる。
そうなると人間は恐ろしいもので非日常にありがたみを感じなくなる。
極端な話になるが、今、圧倒的な早さでテクノロジーが発達し、つい数年前までには「魔法」と呼ばれていたようなことが「現実」として氾濫している。

日常を心地よく生きていくには非日常が必要なのだ。
それも、超ド級の。

それが、今回のライブ「春の空気に虹をかけ」だった。

最後のサビの前の転調でもう、涙が出そうになった。
まるで奇跡の様な楽曲が生み出す非日常に最大級の光が灯る。
そんな感覚に襲われた。
うまく言葉に表せないのだが、絶好調な最中、呆然ともしていた。

あぁ、音楽って良い。

曲が終わり、最後に小沢健二によるカウントダウン。
「0」の前に小沢健二は言う。

「生活へ、還ろう」

多分、「帰ろう」だと思うのだが、僕は「還ろう」と表したい。

良いことも、悪いことも、普通のことが起きる日常生活。
そんな日常生活を過ごしていく中で「悪いこと」も多々起きてくる。
そんな時、救ってくれるのが日常から少し逸脱した「非日常」なのだ。
非日常があるから、日常を生きることができる。
だが、非日常は劇薬のようでもあり、頼りすぎると依存してしまう。
だからこそ、非日常は刹那的なのだ。
非日常を楽しんだ後、また生活に還るのだ。

まさに、生還。

LIFE IS COMIN' BACK!!

「ラブリー」でもこのように歌っている。

あまりにも多幸感溢れる、非日常の世界。
生活へ還った僕は今、こうして日常を過ごしている。
またいつか訪れる非日常を楽しみにしながら、生活を過ごしている。

※「ある光」と「流動体について」はまた近々。

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