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LOG ENTRY: SOL 250

 ご、合格。。妻が二度目の挑戦でついにカリフォルニア州の正ドライバーとなった。初回の路上試験では、縦列駐車に失敗して不合格。その前に筆記試験でも一度落ちている。だが、妻の良いところは何でも必ず一度落ちること。そう、落ちるのは一度だけなのだ。

 どこから情報を集めてきたのか、そもそもバックでの縦列駐車をせず「頭から突っ込んで停める」と意気込んで試験に臨んだ妻。僕は個人的にバックでの縦列の方が簡単なのだが、妻がそう言うなら好きにすればいい。

 路上試験は車持参。試験開始直前までカリフォルニア州の免許を持った僕が助手席にいる必要がある。ということは必然的に子どもたちも一緒。試験官が来て、僕ら3人は車を降り、妻の出発を見守った。子どもたちは車の背中に向かって大声で「がんばれ〜」と叫んだ。二女は意味もわからず叫んでいるが、長女は試験や合否の意味がだいたいわかっているようだった。

 ところが、ものの数メートル進んで、車は試験場の駐車場に引き返していった。歩行者がいるのに一旦停止せず即落ちした人の話を聞いていたので、まさかの即落ち!?と思って、長女に「もしかして、もう落ちたのかなw」と言うと、長女が「すぐ落ちてんぢゃねーよ!もうちょっと前に進んで、見えないとこで落ちろよ!」と叫んだ笑。

 すると、車から降りた妻が駆け寄ってきて「キー持ってる?」。あ、渡すの忘れてた。。我が家のキーは、スマートキーなので、車がキーから離れて行こうとすると車内警報ブザーがなるのだ。妻はそんな経験は初めてだったので、さぞ動揺しただろう。原因がわかって「一度戻って夫からキーをもらってきてもいいですか?」と言って試験を仕切り直させてもらったようだ。

 ま、なんにせよ試験は合格したので良かった。なんなら、試験前は緊張していた妻も、キーの一件があって肝が座ったかも。

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写真はJPL本部のとある部屋。飾られているのは歴代所長。一番左が初代所長のセオドア・フォン・カルマン。カルマン渦でおなじみの。
JPLの新人向けセミナーで「所長になるなら博士は必須」と言われて初めて、歴代所長は9人とも皆PhDだと気付いた。トップが博士である必要は全くないと思うけど、JPLはあくまで「研究所」だからかな。ちなみに歴代NASA長官はPhDと非PhDは半々。

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査定の季節

 「ACC/ASRの季節がやってまいりました!」と、上司J.H.からテンション高めのメールがグループ全体に届いた。ACC?ASR?何のことだかさっぱりわからない。「各自、"顧客リスト"を私まで送るように」とのことだが、全く意味がわからない。上司に聞くと、

ACC: Annual Contribution Conversation
ASR: Annual Salary Review

とのこと。この1年、どんな貢献をしたか、聞き取りを開始し、次年度の給与の査定をする季節、というわけだ。"顧客リスト"というのは、言い換えると"プロジェクトであなたに仕事を発注した人"、つまりあなたの成果物や働きぶりを知っていて評価できる人、ということだ。

 JPLは"matrix organization"と呼ばれる組織形態を採用している。どういうことかというと、各職員は、あるセクションのあるグループというように、いわゆる"ライン"の組織(縦糸)に所属すると同時に、1つもしくは複数のプロジェクト(横糸)に配属される。この縦糸と横糸の属性を同時に持つので、マトリックス(行列)型の組織形態と呼ばれているわけだ。

 そしてほとんどの場合、縦糸の組織と横糸の組織は一致しない。給与査定の責任は縦糸の上司にあるが、成果の評価は横糸の上司や同僚にしかできないわけだ。そこで縦糸の上司は、部下たちに「各自、この1年の間に配属されたプロジェクト(横糸)の上司や同僚のリストを送るように」と言うわけだ。

 実際僕もプロジェクトの同僚のラインの上司にあたる人から、聞き取り調査のメールが2件来ている。どんな仕事を一緒にしたか、どんな成果を出したか、優れた点、改善すべき点、などなど。また、同僚に対して、これらの回答を開示してよいか、その際に名前を伏せてほしいか、などの選択権もある。

 1年目の僕はこの仕組みを全く知らなかったので、上司J.H.との面談のときに、いろいろと教えてもらった。給与は主に次の3つの要素から査定される。①Performance、②Internal Equity、③External Equity。①は本人や"顧客"からの聞き取りによる仕事ぶりの評価。②はJPL内での公平性、③は他の会社や研究所との公平性。②と③は、他の同職歴・同職種の人の給料と比較して、あまり大きな違いがでないようにする仕組み。

 同職種というと、僕の肩書きはSystems Engineer。よく日本でシステムエンジニアやSEと呼ばれる職種とは実は異なる。日本のSEとは主に、情報システムの構築に携わるITエンジニアのことだ。こちらでいうSystems Engineerは、システム工学にかかわる技術者を指す。なので、区別のためのささやかな抵抗として、システム「ズ」エンジニアと表記するようにしている。

 僕の所属セクションは、Project Systems Engineering & Formulation(というようだ、正式名称をいつもそらで言えない。。)。職員は全部で120〜30人くらいだろうか。プロジェクトを立案・策定し、概念設計などシステムレベルの分析をする部署で、たとえばロボティクスや熱設計のような具体的なサブシステムのエンジニアではなく、もっとミッション全体を広く浅く見て、ハイレベルな決定に関わる仕事だ。

 ハイレベルな決定、といえば聞こえは良いかもしれないが、正直、守備範囲が茫洋としていて、定義や説明が難しい。日本人が苦手とする分野かもしれない。実際、日本ではシステムズエンジニアリングがまだ体系として浸透していないし、うちのセクションに過去に日本人がいた形跡もない。

 それに、自分が本当に必要なのか、いまいちよくわからない笑。いまやJPLと同じ6000人規模にまで大きくなったSpaceX社では、Project Formulationなんてやっているのは、イーロン・マスク含む5人程度しかいないようだ笑。なぜJPLには120〜30人もいるのか。。JPLはたくさんのミッションを抱えているから、ということにしておこう。。

 話は戻って、③のExternal Equityは、Market Valueとも言うかもしれない。JPLではよくSpaceXやGoogleやAppleからの引き抜きの話を耳にする。③は、他社の給料と比較してできるだけ遜色のないものにするという人材流出対策でもあるわけだ。

 実際には、GoogleやAppleは家賃の高騰甚だしいシリコンバレーにあるので別格すぎて比較対象ではない。これらの企業に転職するなら、給料が相当上がらない限り、生活は逆に苦しくなる。比較対象となるのは、他のNASAのセンター、Aerospace CorporationなどのFFRDC(連邦政府資金による研究開発センター)、Northrop Grumman、Microsoftなどだそう。

 査定プロセスはまだまだこれから。とにかく1年を通してひととおり経験してみないことにはわからない。SpaceXで僕と同職種なのはイーロン・マスクなので、彼の給料と比べてもらえないだろうか。無理ならせめて、インフレに合わせて、3%くらいは昇給してくれないと実質減給なので、そこんとこどうぞよろしく( *• ̀ω•́ )b グッ☆

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僕をNASAに引き入れた恩人(こちら参照)の引退パーティー。セクションマネジャーの立場もあって業務時間中にもかかわらず多くの人が集まった。挨拶したら「君を雇うのに3〜4年も時間を投資したんだ。目の回るようなブレイクスルーを起こして、大大大成功してもらわにゃ困るよ!わはは」とのお言葉を頂戴。精進します<(_ _)>
それにしてもこのケーキ、どうやって作ったの??
※銀色の部分も食べられます

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宇宙史に残る新たな一歩

 去る3月30日、またひとつ宇宙史が動いた。SpaceXがファルコン9ロケットの第一段の再使用に成功したのだ

 宇宙に二度行って二度帰ってきたロケット。これは2015年12月の第一段着陸成功に続く、宇宙業界にとっても大きな意味を持つ成功で、完全再使用型への大きな一歩となる。

 ツイッターで思わず「うおおおおおおおおおお」ってずーっとタイプしてたら「お」が何個目かを超えたところでなぜか「う」が勝手に「宇」に変換されていた笑。着陸の瞬間は、上の動画の27:50あたり。残念ながらこの動画は、映像のトラブルで着陸の瞬間はとらえられていないが、30秒後にまるで手品のように第一弾がそびえたっていてウケた笑。

 2015年12月に初めて着陸に成功したロケットはSpaceX本社の前に展示されてるので、今回のロケットは昨年4月に洋上着陸に成功したもの。当時イーロン・マスクは「早くて2, 3ヵ月で再利用可能」と豪語して、社員たちが内心「まじかよ~」と思ったとか。結果的には昨年9月の爆発などでいろいろ延びてしまっていた。

 ところで今回の打ち上げ費用は、とりあえず30%ディスカウントという話に落ち着いているようだ。確かに"used (中古)"と考えれば納得だが、むしろ一度飛んで戻ってきたロケットは"flight-proven (飛行実績あり)"だから高く売れるとイーロンは言っているそう笑。半分冗談だろうが、彼なら本気かも。

 イーロンは、ロケット再使用成功直後に、こう述べている。「次は24時間以内の再打ち上げだ」。に、にじゅうよじかん・・・またまたSpaceXの社員たちの悲鳴が聞こえてくるようだ。しかしまぁ、これが実現すれば、火星に向けて出発する宇宙船をたったの数日で軌道上で組み立てることが可能になるな・・・まったく、なんつー男だイーロン・マスク。

再使用成功に乗じて、SpaceXのウェブサイトでアパレル3点ほどポチった。支払いはPayPal一択だった笑。さすがマスク帝国。最近はこれを着て職場に行っている。はじめは恐る恐るインナーだけ着ていったが、最近はもう思いっきりパーカー着てる。利益相反上等だぜヽ(`Д´メ☆ガッ

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服つながりでもうひとつ。日本で買ったシャツなのだが、これを着ていくとなぜかアメリカ人の同僚にウケがいい。歩いていると、背後から笑い声が聞こえてきて、話しかけられた。

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【小噺】
昨年1年間でJPLのネットワークに侵入を試みたサイバーアタックは1億2300万回以上あったそうだ。1秒あたり4回。JPLではパスワードを頻繁に変更することが義務付けられている。そういえば、自分のラップトップ使ってたらセキュリティが発動して、ロックアウトされたこともある。
将来、何光年も離れた地球外知的生命体との戦いはサイバー戦争だったりするのかな。結果がわかるの何年も後やけど。

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トリプルディスプレイ、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
同僚がトリプルで仕事してるのが羨ましくて、僕も上司J.H.におねだりしてみたら二つ返事で快諾。これがもう快適で快適で、もはやデュアルでは仕事ができない体になってしまったかもしれん。。

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僕がミーティングでよく行く建物の廊下には、映画『The Martian(邦題:オデッセイ)』のポスターが貼ってあったり。映画に登場するJPLは、現実とはかけ離れためちゃカッコいいJPLだけど、この建物だけは映画に出てもおかしくないレベル。

その建物の6階にはミーティングでしょっちゅう行くのだが、ミーティングルームからバルコニーに出ると、こんな感じで清々しい。早くここの6階にオフィスがほしい。。

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The Japan News

SOL 188で紹介した、同僚小野と一緒に取材された読売新聞の記事の英語版が出た。The Japan Newsというのは読売新聞の英語版メディアのようだ。英語になっても、名前の後に年齢が記してあるのは、やはり日本らしい。読売新聞の記者さんからは、ご丁寧に、日本語版も英語版も印刷物を郵送していただいた。

 ところで、SOL 249で紹介した、NewsPicksに取材していただいた記事への小野のコメントが面白い。10年以上の付き合いになる彼が僕を評して「無茶振り耐性が強い」と。む、無茶振り耐性・・・?こんな風に評されたことは初めてだし、そもそもこんな言葉聞いたのも初めてだ。しかしよく考えてみると、言い得て妙かもしれない。確かに僕は、無茶振りに対する耐性は強い方かもしれない。本人は、耐えてる意識など全くないのだが。

 そういえば、8年お世話になったMIT時代の恩師も、最後のランチをするとき、僕を評して"Patient"と言っていた。忍耐強い、という意味だ。よく愚痴を言っていたラボの同僚を思い起こすと、確かに僕は忍耐強く映るのかもしれない。もちろん本人は、耐えてる意識など全くないのだが。

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 今日はこのへんでギブアップ。エンセラダスの話は、次回書きます。あと、有人火星探査とか、トランプの米予算教書とか、天動説と地動説の話とか、Family Days at JPLの話とかも。ま、別にたいした話じゃないんですがね。

 アメリカ生活も長くなると、よく妻との会話で英単語が先に浮かんで、訳すの面倒でそのまま言っちゃうんだけど、時々妻はその英語を知らない&僕はそれに相当する日本語がすぐ浮かばなくて、二人で辞書を引くわけですwまさか日本人同士、しかも同郷の人と結婚して、辞書を引き引き会話するとはね・・・国際結婚かよ。

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