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心臓が疲れる?「マラソン誘発性心臓疲労」~マラソンの時に疲れるのは脚だけではなくて~

マラソンの30km地点あたりで、脚はまだ大丈夫そうなのに心臓がバクバク!そして息も上がってきて歩き出してしまう・・・
「今回もダメだった~!でも脚はまだ大丈夫そうなのに何でだろう?」
そんな事、そんな人はいないでしょうか。

低血糖か、気持ちの問題なのか・・・
それはまだまだ広くは知られていませんが、実は心臓疲労かもしれません。

日本語で「心臓疲労」とググっても全くヒットしません(「Cardiac fatigue」で検索するとヒットします)。
そんなに広く研究されていないので、まだまだ心臓疲労については、
・実際にどういう症状なの?
・どうすればいいの?
ということに一致した見解はありません。
ですが分かる範囲で、予測を含めて書いてみます。

1.運動誘発性心臓疲労とは

根本的なメカニズムは解明されていませんが、以前から持久系運動のあと心臓の働きが低下するという報告があがっていました。これを心臓の疲れ~心臓疲労と呼んでいます。

具体的には運動前と運動後の心臓超音波検査、心臓MRI検査などを用いて証明されています。そしてこれはおそらく、持久系運動の終盤にみられる心臓の働きの低下のことで、パフォーマンスの低下につながると推測されています。

まずは文献をみてみます。

1-1.マラソン誘発性心臓疲労のレビュー論文より

2021年に公開された、2010年から2021までのフルマラソンにおける心臓疲労・心臓ストレスの論文を集めたレビュー論文です。

集めたなかの7つの文献では、心臓超音波検査を用いてフルマラソンの前後で心臓の動き・働きを評価しています。それによるとランニングによるアドレナリンの上昇もあって、マラソンの前後で心臓の収縮力が低下した様子は観察できないそうです。ですが多くの文献でE/A比の低下、つまり左心室の拡張機能の低下がみられ、また一部文献では右心室の拡張機能障害も報告されています。

さらに心筋損傷のマーカーのCPK・高感度トロポニンI、心筋のストレスマーカーのNT-proBNP、炎症のマーカーのIL-6 と TNF-αはともにフルマラソンのあとで上昇しました。よってマラソンは心筋の炎症・損傷も引き起こすと考えられます。そんなことが、心筋疲労の背景にあるのではないかとここでは推察されています。

1-2.ウルトラマラソンにおける心臓疲労について

2022年の文献で、19人の男性市民ランナーの標高2000mの高地での55kmのウルトラマラソンにおける心臓疲労を調べたものです。

左室・右室の両方の測定値のデータが利用可能な参加者における、ベースラインからレース後までの左室収縮機能 (LVGLS) と右室収縮機能 (RVFWS) の相対変化を示す散布図 (n = 14 )

ここでは5%以上の低下を心臓疲労と定義していますが、面白いことに2/3以上のランナーで心臓疲労がみられました。そして43%の参加者は、一方の心室のみ心臓疲労の状態であったとのことでした。

要は心臓のつかれる場所は人によって異なるようです。おそらく症状の出かた(動悸がしたり、息苦しくなったり、脚がだるくなったり)にも、個人差があるんではないかと思います。

さらに文献では、心臓疲労の予測因子は唯一年齢(高齢)であったとしています。

2.実際にレースへの影響は?

とはいっても、いずれの文献もレースへの影響は記されていません。
果たして心臓疲労になった時の症状は?パフォーマンスは?どうなのでしょうか。

分かる範囲で書いてみます。

2-1.鍋倉先生が「ドリフト現象」と呼んでいる現象が心臓疲労?

あまり知られていませんが、マラソンには「ドリフト現象」と呼ばれる事象があります。
それはレースの終盤、一定のペースで走っているにも関わらず徐々に心拍数が速くなる現象のことです。

このドリフトの原因は、発汗などによる循環血漿量の減少が原因とされています。ですが筑波大学の鍋倉先生は著書の「続・マラソンランナーへの道」のなかで「原因の一つに、心臓(心筋)の疲労によるポンプ機能の低下がある」と書いています。

興味のある方は、鍋倉先生の本を是非読んで下さい。

自分も心臓疲労によっておこるのは、ドリフト現象だと思っています。その結果、ペースが上がらないのに脈が速く打ち、息苦しくなってくるといった症状がでるのではないかと考えています。

ですが同書籍では、ドリフトはペースの見極めや(25kmまでにドリフトがおこったら後半失速する可能性が高い)、レース後の評価に用いることが書いてあり、実際にドリフトが起こったらどうするか、ドリフトが起こらないためにどうするかまでは書いていません。

2-2.実際にWebで見られる論文から、心血管のドリフトについて

さらに筑波大学から、一般大学生を対象としたつくばマラソンでの研究「フルマラソンレースにおける Cardiovascular drift と パフォーマンスとの関係」をみてみます。

結論は、絶対的パフォーマンスは変らないものの(大きくはタイムは変らない)、相対的パフォーマンスは低下する(区間ごとの最大パフォーマンスは低下した)との結果だったようです。ここでは相対的パフォーマンスを維持するために、25km以降もドリフトが起こらないようにすることが大事とされています。

おそらくドリフトは心臓疲労だけではなく、脱水も一因となるため単一的な見解が得られないんだと思います。

3.自分の見解

3-1.自分の経験から

自分はマラソンで、脚が残っているのに頑張れなかった経験があります。当時は心の弱さと思っていましたが、今思い返すと心臓疲労かもしれません。

その時はたしか口喝もなく、しっかり水分塩分は摂取しているはずなのに(自分は脚が攣りやすいのでしっかり摂取しています)、それでも終盤にドリフトしてきて、ゴールまで頑張れなくなることがあります。

皆さんもペースと脈拍数に目を配ってみて下さい。脚が残っているのに脈拍が上がってきたら、心臓疲労かもしれませんよ!

3-2.もしかしたらマラソン中の心停止も!?

今回こんなに中途半端な勉強の進捗状況で心臓疲労を書いたのは、心筋の拡張障害!?というワードを見たからです。

心臓の拡張期は、心臓の筋肉を栄養する冠動脈に血液が流れる大事な時間です。それが障害されるということは心筋の血流が低下して、マラソン中の心停止にも繋がるのかも?と疑ったからです。

マラソンは下手すると命に関わる競技です。
もしかしたら、ドリフト現象は心臓死の危険信号かもしれません。
ペースが変わらないのに心拍数が上昇してきたら、前述のようにおそらくタイムも出ません。くれぐれも無理をしないようにして下さい。

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