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クモとサルとタンバと

 クラスで目立たないあの子、よく見ればすごくかわいいじゃないか! 好きになっちゃうぜ! なんてことはフィクションでの世界ではよくあることですが、現実ではどうでしょうかね。でも、まったくノーマークだったものがよく見ればとても魅力的な喪に見えたり、想像以上だった、ということは現実でもまれにあることでして。

 丹波祭や機龍祭りでシネ・ヌーヴォに通ってると、あるインパクトのあるポスターに目が行ってしまうのです。それが『クモとサルの家族』でした。

 なんだこれは? 聞けば時代劇とのこと。小豆島でロケをした、35ミリの忍者映画? これは俄然興味がわいてきたよ、そこで仕事のスケジュールと上映時間を見比べて、先日の日曜日、仕事上がりに九条へ。その日はオリックス戦があるとのことで、いつもはガラガラのバイク駐車場も満車状態でした。

 『クモとサルの家族』は山中に住む忍者家族が、いわくありげな老人を助け、無事に送り届けるまでを描いた作品。腕利きの母忍者、主夫の父、そして子供たち、みんながいきいきとしている。野草を採るのも、猪をばらすのも敵をちゅうちょなく殺すのも同じような感覚。とにかく子供が元気いっぱいで頼もしい。劇中歌も子供のコーラスだったりして、どことなく白土三平の漫画、『サスケ』辺りを彷彿とさせる。インディーズ時代劇、という言葉があるのかどうかわからないが、最近小規模な時代劇作品が増えてきたように思う。美術、ロケ等々時代劇を作るのは大変なので、予算もかなりかかると思うので、かなり限定されて場所でのお話が多い、ように思うし、テーマ性の強いものが求められる、と思う。一方『クモ……』は明朗な小規模な作品ながら時代活劇とやろう、という制作陣の気概が見え、それがまた楽しい。徳永りえ、緒川たまき、白石加代子や忍びの少女たちは強く、たくましく、男たちはみんなどこか抜けていて、情ない。特に、徳永さんの凛とした母ちゃんがいい、緒川たまきのクールで妖しい佇まいもいい、宇野祥平とどぶろっく江口直人の区別がつかないけど、劇中歌も担当しているのかどぶろっく、下ネタ抜きで! よれよれの奥田瑛二、そしてシン・仮面ライダーに続き、いつの間にか出ていた仲村トオル、キャストもまたいい。

初めてのヌーヴォXでの鑑賞、小さい劇場ながらゆったり落ち着ける空間でした。

 翌日もヌーヴォへ。おなじみ丹波祭。とにかく『忘八武士道』以外の時代劇は押さえておこうと思ったのです。『忘八』は時間の都合と、今まで何度も見てきたから今回はスルーしよう。以下、ツイッターの呟きを再編集。

 チケットカウンターでスタッフさんに『ひとごろしー!』と言わないと見れない映画『ひとごろし』を。臆病侍が一念発起し、脱藩した豪傑侍を奇想天外な作戦で討つ! タンバさんは絵に描いたような豪傑侍、そして臆病侍に松田優作! あの巨体をくねらせて怯え、逃げ、叫ぶ! 『びっくり武士道』『さらば浪人』のエピソードを経て、ようやくオリジナル?『ひとごろし』。徳間大栄に、旧大映スタッフの職人芸が光る。岸田森を斬り霧雨に立つタンバさんは大魔神のようだ。そして恐らく松田優作史上最弱の松田優作、でも目が怖いし、最後に啖呵を切るシーンは本来の姿が見え隠れしていた。

 思うに、70年代の優作氏はあのモジャモジャ頭でパワーを発揮していたのだ。チョンマゲカツラを被ってしまうとそのパワーは著しく低下するのだ! いや元々原作が臆病者という設定だからその説はなかったことにしよう。でも『さらば浪人』に出てた時も弱虫侍だったよ。でも目が怖い。


 『ひとごろし』は徳間大映作品として、まだ見ぬオカルト映画『妖婆』の二本立てで公開。オープニングはどこか懐かしい、いつも聞いてるような楽曲が流れると思ったら音楽は渡辺宙明。ゴレンジャーとかキカイダーみたいなメロディに乗ってタンバさんが槍をぶん回し、ユーサクさんが走る映画なのです。

 過去何度も映像化されてきた山本周五郎の小説の映画化。旧大映スタッフによる力の入った映像美は流石だが、もしこれが旧大映で作られていたら……キャスティングもまた変わったものになっただろうし、テイストも変わっているか。

 続いて、今度もタンバさんが敵役の『御用金』を。ソフトも出ているが、劇場で見るのは学生時代の今はなき新世界公楽劇場以来。

 見直すと実に骨太な時代活劇であることよ。御用金を強奪する越前鯖井藩の家老と、かつてその企てに加担した浪人が再び相まみえる。タンバさんは手裏剣使いの悪家老。迎え撃つは仲代達矢の浪人と、何かありそうな中村錦之助コンビ。

 学生時代、映画の表現方法として『千葉殺陣』と『五社オチ』がある、という話になった。あくまでも身内の造語ですが。『千葉殺陣』は千葉真一が辺りをぶっ壊しながら走り回って斬りあうチャンバラ、『五社オチ』は五社英雄の映画はとにかく最後は家屋敷が大炎上で終わる、と。実際はそんなことなくて、炎上オチの作品の方が少ないのでは。

 で、『御用金』を見たらやっぱり燃えていた。中盤で小屋が、クライマックスでも小屋と櫓が、雪の中ボウボウと燃えていた。ファイヤー&アイスな時代劇。『三匹の侍』からアウトロー時代劇を作り続けてきた五社監督のターニングポイント、かもしれない。今回もタンバさん『ひとごろしー』と呼ばれていた。中村錦之助の得体のしれない浪人が最初は三船敏郎だったのか。

 序盤で、ヒゲボウボウの仲代達矢に挑むのは西村晃。『十三人の刺客』で立ち回りの実績あり、これが実に強そうに見える。仲代さんは居合の際『あぁぁー』『んンんー』と静かに声を出す。殺陣も見せ場も次々に繰り出される娯楽大作。何かの原作があるではなく、オリジナルでこれまでの作品を作れるのがすごい。公金横領といっても舟一隻沈めるのだからスケールが違う。夜の海を進む御用船にちょっとだけミニチュア特撮。これも五社監督の演出なのか。

 もう黒澤の三十郎シリーズからの呪縛も解け『わしの好きなようにやるんや』という意気込みが見られるが、同じく三十郎ショックを受けたさいとうたかをの劇画っぽくもあるんですよね。

 『ひとごろし』で刀と槍、『御用金』では手裏剣と、タンバさんは何をやらせてもサマになる。そのルックスが達人然として、体が真っ四角だから。ラストの雪中での立ち回りで、両者手にハアハアと息を吐きつけながら斬りあうのがリアル。バックに流れる御尋常太鼓が先日見た『コレラの城』に繋がった雪煙の中歩く仲代さんのバックに流れるテーマ曲が、岡本喜八監督『吶喊』の主題歌『乱世』そのまんまなのが昔から気にはなっていた。作曲家が両方とも佐藤勝氏だから流用ということかね、なんて考えてたら、佐藤氏の著作が届いた。

 と、Twitterでつぶやいてから調べると、『吶喊』の音楽予算が少なかったから『御用金』のメロディーを流用した歌曲『乱世』を用いた、というのが真相らしい。長年の謎が解けてほっとした。

 丹波祭もいよいよ終盤、最後の最後に何を見るのか、ひょっとしてこれが最後のタンバかもしれない……。

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