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8月はそんな季節、戦争と怪奇、そしてリボルバー

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 8・10『ひろしま』『野火』(シネ・ヌーヴォX)
 お盆が終戦記念日というのは偶然なのだろうか。それにしても加藤嘉は加藤嘉だった。シネ・ヌーヴォで戦争のことを少しだけでも考えようと『ひろしま』をみた。数年前にNHKで放送されていたものを録画していたが、やはり劇場で見たい。終戦から8年後、なおも重くのしかかる原爆の影、そしてあの日。

 1953年の現代パートから原爆投下のあの日へ。エキストラを総動員した、まるで記録映像のような地獄絵図が展開される。ほとんどの女性の髪の毛がアフロ状態になっているのはピカの圧倒的熱量がもたらしたもの。逃げ場を失った人たちの死の行進、モルグと化す病院。原爆は、いや戦争はよくない、と月並みな言葉しか出ない。未知の攻撃で大惨事になり、その原因を科学者や軍人が議論するのは怪獣映画と逆のパターン。音楽担当の伊福部昭の楽曲は翌年の『ゴジラ』に転用。ほんの少し特撮もあり、高山良策がクレジットされてた。

そして帰り道にはだしのゲンを買う。影響されやすいね。

 『ひろしま』に続き、その少し前、海の向こうでは……を描く『野火』を。ここでも塚本晋也氏は『食べてなかった』のだ。いや食べられなかったのだ。レイト島で敗戦濃厚の日本軍。一人の日本兵の目を通して戦争の、人間のいやらしさ、醜さを描く。前にヌーヴォで見た『軍旗はためく下に』でも似たような描写があったが、戦地で猿とか豚の肉が出た時は、それは……。

 美しい自然、青空の下、深緑の森で行われる人間たちのおぞましい行為、まさにグリーン・インフェルノである。戦争は人間の心を歪めてしまう、あいつはなぜああなっちまったんだ、なぜこうなんだ? 考えてると死ぬ。とにかく歩く、そしてできるだけ食う。それが猿の肉でも食う。

 『野火』は今年で公開9周年。モノクロの『ひろしま』と違い、カラー、デジタルな鮮明な画面にこれでもかと人間の理不尽さと常識を逸した行動が描写される。軍隊の縦社会は嫌だなぁ、でもそうなるように教育されてきたのだな、戦争は何もかも狂わせていく。今平和でのほほんと暮らせることに感謝したい。で、映画の影響ではなく、上映時間の都合で昼飯を『食べてなかった』ことに気付いた。とはいえ、木の根や山芋にかぶりつくほど飢えてはいない。『ひろしま』『野火』と続けて見て、いい年して『戦争はよくない』としか言えない。なるほど、戦争は腹が減るだけと水木先生も言ってたわ。

8・20『ミンナのウタ』(MOVIX堺)



 MOVIXに行くと『ミンナのウタ』の予告と主演のGENERATIONSの主題歌をいやでも見聞きしてしまう。怖そうだ、怖いのかな、見てやろうと仕事上がりに。怖かったよ、何がどう怖いとか種明かしをすると怖くなくなるので書かないけど、タイトル通り『ウタ』や『オト』に重きを置いたホラーというのは新しいのでは? そして日常の不快な音、マイクのボコボコ音、ハウリングが一層怖くなる。

 『ミンナのウタ』これは人気ダンスパフォーマンスグループGENERATIONSのアイドル映画でもあり、ホラー映画でもある。彼らの歌がガンガン流れるからこそ、アレが一層際立ち、怖くなる。アイドルとホラーは昔から相性がいい。そして彼らが謎解き役であり、被害者でもある。予告で見たメンディーのアレどころじゃないメンディー!

 ようやくなんばで見たスタンディの意味が分かった。彼女のあのスタイルは怖い、間抜けに見える一歩手間で怖い。劇中、思わず鳥肌が立つシーンが一カ所だけあったよ。あれは怖い。初手で大の大人をビビらせるには十分すぎるのだ、あれは。でもみんなが言ってるのと違うかもしれない。どうでした? タイトルに「Japan Edition」と出るのが気になる『ミンナのウタ』。海外バージョンでも作るのかね。あと、自分が一番戦慄したシーン、TLを見る限りみんなも同じだったようで何より。何よりじゃねえ、でもあれは怖いねえ。怖いというか……あれに近いのは『イットフォローズ』のあれだ。もうアレとしか書けない。

 失踪したメンバーをコンサート当日までに見つけてほしいと依頼される探偵、そしてマネージャーを軸にして、謎解きの要素もあって面白い。しかし、怪異よりも探偵マキタスポーツ氏の崩壊寸前の家庭の方が心配になってくる。

8・22『東京裁判』(ヌーヴォX)『グロリア』(シネ・ヌーヴォ)

 近頃なぜか戦争映画。『ひろしま』『野火』ときて、先週の東宝戦争映画連続視聴。



 2・26事件からちょうど9年後。天皇陛下に『まだまだいけるで!』と進言する東条英機の姿にカットバックで挿入される死屍累々の映像という皮肉。そして原爆投下でブツンと終わる『激動の昭和史・軍閥』のラストに繋がるし、実際劇映画として用意されていたらしい『東京裁判』を、戦争映画マンスリーの〆として、シネ・ヌーヴォで。小林正樹監督の悲願、4時間30分の超長丁場のドキュメンタリー。上映中雷が鳴り、見終わったら、外は雨だった。

 文字通り極東軍事裁判の記録映像を見せながら、『なぜそうなったか? そこに至ったのか?』を時代を遡って挿入し、日清・日露戦争から日本が軍国主義に走り、そして崩壊していく様子を描く。裁判の様子を延々映しているだけではない、いうなれば映像で見る分厚い昭和史。4kの鮮明な映像はまるで劇映画のようだった。あの東條英機後頭部パッチンも4Kで! 公開40周年、あの若山富三郎先生が入院中に山城新伍氏から借りたLDを見て『これはいい、シンゴしばらく借りておくぞ』といった作品。

 先日の『地球防衛軍』に続き、4Kでジョージ・ファーネスを見るとは思わなった。劇映画的な構成、編集で4時間半が飽きない、そしてナレーター佐藤慶のハリのある声。キーナンがキーマン、ピーマン、パーマン。東條、口上、佐藤慶4K、ナナナナ、ナナナナ……。

 長い長い裁判、すべての判決を終え、戦争の時代から新しい時代へと変わっていく。でも……『ゴジラ対ヘドラ』の『そしてもう一匹?』の如く、映画はその後世界中で起こった数々の紛争を映し出し、最後にベトナムの少女の写真で、締める。今はどうだろうか? そんなことを考える、終戦記念日のある八月。

 『東京裁判』で打ちのめされたら外は雨、少し休憩してからの『グロリア』。ジョン・カサベテスは学生時代、好きな友人がいたなぁ。今度の特集で見て見ようかな。『グロリア』はアート系というか、ガチガチのアクション映画ですよ。家族を殺された少年を匿い逃亡するお隣さんの冥府魔道。

 子供を預けたお隣さんは凄腕ヒットマンだった! ひたすらジーナ・ローランズがかっこいい。オシャレに着こなし銃の構えもサマになってるし、タバコを吸うように軽くパンパン殺ってしまうリバルバーおばさん。子供を子ども扱いしない大人と、大人を大人扱いしない子供の微妙な関係、そしてつかず離れずしながらも絆が生まれる逃避行。

 敵を数多く殺すでもなく、敵組織を壊滅するでもないのがハリウッドらしからぬ、これがカサベテスなのか。でも最後はホッとする。ゴミゴミ、ジメジメした街の様子、ドキュメントっぽい移動撮影に効果的な鏡の使い方、これもカサベテスなのか。世界で最もタクシーを乗り換える映画、かもしれない。映画が終わると、雨は止んでいた。カサベテス、傘ねぇっす。

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