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雨の廓とサービスデー

 日曜日夜勤仕事上がって、月~水まで休み……ということでもなく、よそでも仕事やっているので、連休という感じはしないのですな。

 火曜日は近所の映画館のサービスデー。用事も早く終わったので、その日終了の『貞子DX』へ。はじめは見るつもりはなかったのですが、どうにも評判が良いらしい。ならば見ておこう。口コミを鵜呑みにするぐらいなら自分の目で見てみる主義なのです。

 

 しかし『リング』シリーズや貞子映画って何本あるの? と調べたら2002年から10年間新作がなかったんですな。その間はハリウッド版があったから多分権利問題で作られてなかったのか、ハリウッド版の評判を受けて『貞子3D』はじめ雨後の筍の如くうようよと増えていったんですかね。すっかり日本のホラー映画のアイコンになっている感のある貞子さん。シリーズ全部は見てませんが、キワモノ感マシマシな『貞子VS伽椰子』以来の貞子さんです。

貞子3D2の立て看板、心臓に悪い

 『リング』から20数年、ビデオデッキはすっかり過去のものになりSNSをはじめとする情報網が発達した令和の現在、貞子さんはどうなったのかといえば、いまだにビデオテープから呪いを発信していたのです。しかも呪いが一週間から一日に短縮。貞子24である。なぜそうなったのか? 今回はIQ200の天才女子大学院生と引きこもりの暇人が探偵役となってその謎を解き明かしていきます。

パンフレットはビデオ型

 ホラーというよりも謎解きのスリルと24時間以内に何とかしないと死ぬ、というタイムサスペンスがメイン。貞子さんがどうのこうのはちょっと脇において呪いのビデオの検証へ。これは、原点である『リング』でも試みられたことで、今回は貞子のキャラよりもそっちの方に主軸を置いて、ある意味原典回帰な面白さがありました。
 チャラい占い師と理知的な女子大生コンビの珍コンビにサポート役の引きこもり、探偵もののフォーマットでぐいぐいと謎に迫っていきつつ、要所要所で迫りくる死の恐怖(中間体から完全体に変異していく貞子)を描く面白さ。貞子を描くとき、貞子を外していくというのは正しい選択だったかもしれない。
 
 このコロナ禍を反映したようなエンディングもある意味ハッピーエンドかもしれない。十代の学生さんがワイワイ言いながら楽しく見る分には申し分なく、元々ホラー映画って小難しいこと考えない、そういったもんだったなぁと思い出させてくれる一本。

 そして翌日の朝、勤労感謝の日は雨だった。珍しく祝日に休みだというのに出かけるのが億劫だな、と思いながらも雨の中シネ・ヌーヴォへ。駐車場は遊郭の近くがとても安かった。

 今回は森田芳光70祭の一本『未来の想い出』を。まだバブルがくすぶる1992年公開の大人のSFファンタジー。

 売れない漫画家とOLがクリスマスに死んだら、なんと10年前の自分に戻っていた。ならヒット漫画のコツも、競馬や株も未来の想い出で好きなように動かせるぞ、と二人は成功者になったのですが、またまた10年目のクリスマスに……。人生何度もやり直し、そういや人生やり直し機って道具がドラえもんにあったっけ。この映画こそ藤子F不二雄が春のドラえもん映画以外で唯一原作と制作にタッチした実写映画だからです。

 森田監督の演出は独特の間と、不穏な構図。史をテーマにしているだけにところどころに不穏な、本来なら不必要なショットが入ってくる。

パンフ

 一種のタイムリープものですが派手な特撮はなく、背景と音楽で時代の変化を描写。そして、主人公の彼氏が乗った航空機が墜落するかもしれない、というシーンで、小規模な大特撮。樋口真嗣演出の下、特撮のエキスパートが参加した実写と見まがうようなシーンがありますが、これもほんの少しだけ。そしてトキワ莊メンバー+αなレジェンド漫画家総出演や小学館旧社屋が堪能できるということで、漫画ファンも必見かも。
 最後の最後まで、ヒロインの一人、工藤静香の彼氏がだれかわかりませんでしたが最後になってB21スペシャルのデビッド伊東だと判明。何そのキャスティング? もう一人の和泉元彌も『えぇ?』となったけど、それは今だから当時は二人とも異分野のイケメンでキャスティングの妙を狙ったのかな。

 

安治川海底トンネル入り口であり出口

映画が終わって九条の商店街をぶらつき、安治川海底トンネルくぐって西九条から九条まで阪神電車乗ったりと時間を潰して再びヌーヴォへ。たぶんおそらくヌーヴォさんが密かに推している映画『やまぶき』を。お化けでもSFでもない、素朴な、地方都市で起こったささやかだけど誰にでもあるようなお話をスケッチのように描いた作品。


 
 戦争反対を訴えサイレントスタンディングする、ジャーナリストの母を戦場で亡くした女子高生。正社員になれるはずが事故でチャンスを奪われる、元乗馬選手の韓国人労働者。大金を掴んだ窃盗団、刑事、それらの描写が無関係に描写され、ところどころで線で繋がれる。戦争、人種問題と扱ってるテーマは思いながらも、それをさらりと日常の中に織り込ませ、自分たちの周辺の出来事のように描いていく。重くも暗くもなく、どことなく可笑しく、ついつい笑ってしまうシーンも多い。ささやかなきっかけが他者に幸運や不幸をもたらす、ポールトーマスアンダーソンの『ブギーナイツ』やタランティーノの『パルプフィクション』を思い出させた。手触りは違うけど。ざらついた16ミリフィルムの画質も物語の雰囲気によくマッチしていた。
 ラスト、砂漠を歩く女子高生やまぶきの姿は見る人によってそれぞれ解釈が違うかもしれない。死んだのか、新たな世界に踏み出したのか。砂漠に刺さった黒いオブジェがモノリスに見えた。

 映画をはしごして満足な休日、雨は上がり、廓のお姉さんたちは手を振って出ていく俺を見送ってくれたのでニヤニヤしてしまう。ありがとう、また映画見にきます。

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