本たちの記憶だけがある
持っていた本の大半を実家に残したまま、20年の歳月が過ぎた。
結婚して家を出るときには、すべての本を新居に運ぶ余裕などとてもなかった。もちろんこれは暫定的な状況であり、近いうちにすべての本が手元に戻ってくると考えていたのだ。
でも、20年たった今も、本たちは段ボール箱に入ったまま、実家の誰も使っていない二階の部屋や物置きに置かれている。
どうしても手元に置いておきたい何冊かは、20年の間に幾度かあった機会に発掘され、今いる部屋の本棚に入っている。何冊かはAmazonで買い直した。
でも残りは、つまりほとんどは、暗くて湿った場所で、誰の手にも取られないまま黴と埃にまみれて朽ち果てようとしている。それを思うと、胸がきゅっと締めつけられるような気がする。
なのに、かつての自分の本棚にどんな本があったのか、今ではほとんど思い出すことができない。
冷房のきいた喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら時間を忘れて読みふけったり、見つけた瞬間に自分のための本だと直感して高鳴る胸を押さえながらレジへと走った記憶だけがある。
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