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『月に吠えらんねえ』3~5巻の見どころ・読みどころ 第3回


 漫画アプリ「パルシィ」で『月に吠えらんねえ』が5巻まで実質無料で公開されている(毎日最低8枚は供給される”チケット”で一話ずつ読める設定になっている)。10月27日までの予定。
 本記事では5巻の見どころ・読みどころをアピールする。

5巻には見どころしかない

 全体の物語が大きく動く巻なので、ストーリー上の見どころしかないので、どこを取り上げるか悩んでしまう、そんな巻。
 擬人化モノとしては、詩人の作品概念の擬人化に加えて国家を擬人化した人物が登場して、日本の近代について語られるシーンがすごい。国がみんな女性なのは、祖国・母なるもののイメージと重ねてあるんだろうけど、とてもうまい。
 詩の引用とそのヴィジュアル化の魅力という意味では、第21話「蛍狩」。その中でも萩原朔太郎「ありあけ」を引用しながら朔くんの腰から下が所在不明になるシーンがすごい。
 個人の趣味嗜好の話でいえば、朔くんの性別が曖昧になっていく展開は私の嗜好に合致しないが、著作の引用とそこから想起されたヴィジュアルで説明されると、説得されてしまう。ああ、こういう解釈もあり得る、と受け入れてしまう。

第26話 純正詩論

 朔くんとミヨシくん師弟の対話、というか朔くんによる日本近代詩の歩みについての語り。
 その結論部分の朔くんの語りは、そこまで言い切ってしまうのか、という重さがある。

 突然、□街が戦時の空気に襲われ、戦争を賛美する詩歌が引用される時、「見たくないもの」「あってはならないもの」を見た気分に、私はなった。
 しかし、それが詩にとってある意味、頂点を迎えた時代だった、という言い切り。 

「戦争詩の時代 それは詩集が最も多く発行された時代」

 という朔くんの言葉を初めて目にした時、すーっと寒くなり、同時にこの物語がどんな結末を迎えるのか、見届けずにはおられない心境になった。
 遠かった戦争詩の存在が一気に自分事になる感覚。
 誰だって自分の仕事が役に立つと信じたい。
 社会に認められたいという願望は、大小あれ、誰でももっている。
 抹消された翼賛的な内容の芸術を自分が作り出さないという保証はどこにもない。 

2つの壁と1つのつかみ

 常々、月に吠えらんねえを読むにあたって二つの関門があると思っている。
 まず、1巻で、怪奇幻想的な表現が好みにあうか、あわないか。
 次に3巻で、本格的に戦争を描き始めた時、今までのストーリー路線から逸脱したと感じないかどうか。
 これらを越えた後で、5巻の「純正詩論」を読んだら、もう絶対最終巻まで読まずにはおられなくなる、と私は思っている。
 なので、是非、5巻までが実質無料で読めるこの機会に、より多くの人に5巻まで読んで最後まで読みたい!となってほしいのである。


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