"Session"

一見すると、3曲のコンサートのドラムソロからの素晴らしいエンディング!! お、良さそうだなと期待しながら本編を最初から観ていくと、、、名門音楽院に念願叶って入学した1年生ドラマーのアンドリューは、鬼のように厳しい指導をする教授のフレッチャーの厳格な指導についていけず退学する。しかし、その原因になったコンサートからわずか半年足らずで、街中で偶然フレッチャーがピアノでゲスト出演しているライヴを観に行く。終演後、その張本人のフレッチャーが指揮するプロのバンドのバックで2曲だけ叩けと、出演を命じられる。依頼から2週間後、本番のJVCフェスティバルのステージに立つアンドリュー。いざ本番がスタートすると、コンサートの最初の曲は、全く事前に知らされていない曲!しかし、自分以外は全員知っていた。当然ミスを連発し、一旦はステージを降り、観に来ていた父親に「帰ろう」と慰められる。しかしアンドリューはステージに戻り、逆に、かつて教授に散々しごかれながらマスターし、今回も演奏すると予告され、準備してきていたスタンダード曲"キャラバン"を、フレッチャーの指揮を無視し、いきなりスタートさせる。そしてラストは、怒涛のドラムソロ!激怒していたフレッチャーも、最後には彼のリズムに説き伏せられたように曲を締めくくる。お互い、求めていたものをやっと見つけたような、晴れやかなアイコンタクトを瞬時に交わし、終演!

バンドをやったことがある人は、もしくは何かに本気で取り組んだ経験がある人は、より気持ちの深いところで、スタジオでのアンドリューへのフレッチャーの壮絶な仕打ちと、それに屈しなかったアンドリューの音楽に向かう気持ちに、まず心を打たれるだろう。はっきり言うとフレッチャー教授、正直言って、アンドリューに目をかけてるんだか、生徒を罵倒することを自身のストレスの捌け口にしてるのか、「どSな気分屋」としか言えないような指導ぶり。確かに上手くなるかもしれない。彼の音楽的な地図を全て理解している生徒にとっては。しかし、気軽に音楽を趣味程度に勉強して、度胸試しにコンサートに出てみようか?というサークル活動感覚で入学した生徒は、メンタルに酷くダメージを受けて挫折するだろうし、彼についていけるのは、彼自身が全パートをこなしたバンドか(つまり、無理!)彼が理想とするジャズの偉人たちだけだと感じた。そんな彼から「目をかけられた」と有頂天になり、折角出来たばかりの彼女に「音楽に集中したい」とサヨナラを告げ、日常を全て、手のひらの血豆がさらに潰れるほどリハーサルに注ぎ込み、コンテスト会場に向かう途中で交通事故に遭っても、血まみれでコンテストの会場に辿り着き、死にそうになりながらも本番に臨んで、見かねて演奏をストップさせたフレッチャーに殴りかかった、鬼気迫るアンドリューの姿には、自分自身の、まさか思い出すとは思っていなかった、さまざまな人生の色々な場面が、瞬時に脳裏に浮かび、凄まじく気持ちを揺さぶられた。音楽がなっていない時は、まさに「水と油」で全く相入れないアンドリューとフレッチャーが、再び一緒に演奏したコンサートの最後の曲の中で、ようやく自分たちが夢見た以上の演奏をその場で披露できた、というところが、最大の救いになっていると感じたし、この瞬間を永遠に残したくて監督は、この映画を作ったんだろうな、というのが強烈に感じられた。このテーマは音楽の本質を、つまり人生の本質をも掴むことに見事にやってのけている。ブラボー!

監督のディミアン・チャゼルは 、「セッション」が 自身が一から書き上げた脚本で作った、最初の映画だった。何とか映画化に こぎつけようと いくつかの映画の脚本を書きながら、チャンスを探していた。2012年に、未映画化の脚本の中で、特に優れた脚本のリスト、通称ブラックリストに掲載され、ようやく映画化にこぎつけた。ディミアン自身も、高校でジャズドラマーを志し、その時、厳格な音楽教師から、猛烈なシゴキを受けた経験が、この「セッション」を制作する最大の動機になった、と後に語っている。ミュージシャンを辞めた後、ハーバード大学で映画を学び、「セッション」での成功を ようやく手にした。この成功を受けて、彼は、2016年、「ラ・ラ ・ランド」の製作で注目を集め、アカデミー、ゴールデングローブ賞レースを総なめにする成功を手にした。2018年現在の最新作は、再びライアン・ゴズリングとタッグを組んだ、ニール・アームストロングの伝記映画「ファーストマン」。今後も
幾つかの新作が予定されている。

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