さまざまな別れを綴った"it's only rock'n roll"

ローリング・ストーンズにグッと深く入りこむ波が、定期的にやってくる。

昔、聴いていても あまりピンとこなかったような曲や、ブルーズやR&Bを理解できるだけの 音楽的素養が自分の中に無い頃に、聴き流してしまったような曲達。

最近よく聴くアルバムは、
"It's only Rock'n roll"。
一聴すると、"It's only Rock'n Roll"やら、
"If You Can't Rock Me"みたいな、いかにもストーンズ的な曲に埋もれがちだが、それぞれの作品の歌詞をよく読むと、意外なほど人生の中の、さまざまな別れを綴った詩が多いことに気付いた。
(テンプテーションズのカヴァーだが、
"Ain't too proud to beg"もそうだ)

昔からこのアルバムの評価はあまり芳しくない。
このアルバムを最後にミック・テイラーが去り、
激動の60年代後半から70年代初頭まで、ストーンズの黄金期を作るべく、長い時間をスタジオでメンバーと過ごしたプロデューサーのジミー・ミラーが抜け、

ミックは、マリアンヌ・フェイスフルと。キースは、ジャンキー道まっしぐらなのに、同時進行で、アニタ・パレンバークとの壮絶な恋路ど真ん中の時期だ。

アルバムとして残されている音と、制作当時のバンドの状況は密接に関係している、と、個人的には確信している。ましてや、実質的に初めての グリマーツインズ=MickとKeith のセルフ・プロデュース作品だとしたら、なおさらだ。

同時期に制作された、ロン・ウッドの1st ソロアルバム"俺と仲間"は、新しい出逢いが満載のアルバムで、60年代のストーンズが持っていた愉しさや明るさが、見事に封じ込められている。

ミックにとっても、キースにとっても、ロンとの交流は、酷く、辛い日常を一瞬忘れられる、ひとときだったのではないかと思う。

とにかく、
このアルバムにおさめられている、
バラッドに耳を傾けてみて欲しい。

「Till The next Goodbye」
「If you really want be my friend」
「Time waits for no one」

ライブでも、滅多にプレイしなくなってしまった曲ばかりなんだけど、ミックとキースが、バンドを始めてから十数年、周囲にいたひとたち全てに向けて捧げたんじゃないかと想うくらい、自分のナイーヴな部分をさらけ出しているのだ。

これらの曲には、聴き手に 自分の日常を、知らず知らずのうちに振り返らせ、自分の中の一番大切な人について、想いを巡らさせる強烈な何かが宿っている。

確かに、刺激的なリフレインや、ビートは聴こえてこないかもしれない。しかし、無言のうちに、饒舌に、聴き手の気持ちの奥に入り込む、静謐なロックンロールが、あってもいいじゃないか。

そんな楽曲を、手のひらに宿しているバンドが今、いったいどれだけいるだろう?

彼らが、これらの作品を次にライブで披露する時、どう鳴らすのか、非常に興味がある。

彼らが、自分たちの当時の想いに何らかの決着をつけた時、これらの曲が披露されるんだと想う。

その瞬間を愉しみに、待っていたい。

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