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20240318 紫色の風

 前日の夜から、台風を思い出させる強風が窓を叩き続けていた。朝になっても風の音は鳴り止まなかった。窓の外を見ると台風のときのように天気が悪いわけではなく、むしろ風が雲をすべて吹き飛ばしてしまったのかもしれない晴天が広がっていた。街路樹が大きくしなって乾いた音を立てていた。
 外に出ると、見えないけれど風は塊になって身体にぶつかってくる感じがした。たとえば、僕の頭の右上のほうにある風が僕を見つけ、周りの風を集めてきて塊を作り、腰のあたりを狙ってものすごいスピードで攻撃してきたようだった。駅のそばにある駐輪場を覗くと、そこに停まっているほとんどと言っていい数の自転車がなぎ倒されていた。その光景は台風が通り過ぎたあとのススキに似ていた。
 日が沈んで紫色になった池袋に到着した。階段を上って地上に出ると、ふたたび風に打ち付けられた。風はなおも強く、冷たくなって形を変えているように見えた。

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