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3月26日 船場トンデモ人物伝


 いろいろ考えているうちに「あれ、結構やらなければいけないことが多いぞ」という気持ちになって無暗に焦る。いつだってそうだ。無暗に焦る。書かなければならない新作講談と、稽古しなければならない新作講談と、覚えなければならない古典講談にまみれている。幸せなことではあるのだが。
しっかり休みを作って旅にでも行かねばならぬ。一週間くらいのバカンスに。リセットをするとすっきりするやうに思う。旅行先を決めよう。あんまり高いところはダメだ。壱岐か、隠岐か、対馬がいいように思う。たぶん一人だろう。でも一人でそんな素晴らしいところに訪れてしまったら、5日目くらいにテンション上がって、あるいは下がって自死しそうでもある。公演の日程がまっさらならそれでもいいのだけれど。ありがたいことにそんなことは無いし、リフレッシュして仕事を含めた人生に立ち向かうための旅なのだから、自死していては元も子もない。旅のありようを考え、まとまってから向かうようにしよう。遮二無二旅立つと混乱しそうな感じがする。慎重に。

 家を出て喫茶で諸々の作業を行うが、どうにも拡散してうまくいかない。一つ一つに集中しなければならないのに、それが上手くいかない印象だ。この日やる講談すらできていない。なんとか書こうとするが、どうにもうまくいかない。なんとか一つ一つタスクをクリアしていき、16時に会場入り。会場に入ってから設営を行う。巨大な構造物を一人で運ぶ。僕も年老いてきている。週刊少年ジャンプのように「うぉぉぉおお」などと言いながらなんとかかんとか構造物を運んでいく。声が出るのだ。声を出さないと持ち上げられないくらい重たいのだ。前々日に包丁で怪我をした左手人差し指、傷口がふさがりかけていたが血が噴きだす。もう本当にジャンプの世界観である。作業しているのが不細工な貧乏講談師でさえなければ。

 1時間ほどかけて汗だくで準備を終え、そこから稽古に移る。翌日師匠にお稽古をお願いしている古典講談をやってみる。何度やっても難しい。30分ほどやった後に、チラシの印刷と会場のしつらえの仕上げを行い開場時間になる。

 開場時間までこの日の演目が全くできていないことに気が付く。やばい、と思う。開場中受付の合間になんとか面白い講談ができないか、と必死に考える。19時開演で出番は20時頃。開演してからも暫く考えているとなんとかまとまって、出番。
『玉田玉山物語~耳をふさぐおばあさん』をぶっつけでやる。当然初演である。これが存外にウケる。手痛い失敗をしたほうがよかったのかもしれない。こんなその場しのぎの成功体験を積み重ねてはいけない。しかしその場しのぎだからこそ、己の能力をずるしてでも活用して成果を最大化しようとするところがあるので、あながち悪いだけとも言えない気もする。

 終演後、師匠、出演の陸奥賢さん、劇場主の青山さん親子と会食。インド料理店へ行く。すごくたくさんのナンを食べる。チーズナンも食べる。糖質を少な目に過ごしている僕には大変刺激的な夜。期せずしてチートデイ。

 自宅へ帰ったころには23時を大きく回っている。諸々の事務連絡を済ましてから古典講談とゲンロン総会でやる講談の稽古を、眠っている妻を起こさぬように小さい声で少しだけするが、猫は飛びついてきて邪魔をするし、頭がぼうっとして文言を憶えられない。そのうちに糖質の魔の手が脳に回って気を失うように眠る。

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