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特集:PFASと多摩川(多摩川旬報221201号)

報道等では、PFAS(有機フッ素化合物)関連の記事が増えています。
多摩川周辺でも、長い間PFASが上水道に含まれていたようで、この辺りの報道や市民運動が活発になってきました。
今回は「PFASとは何か」「多摩地域とPFAS」といった事柄について、まとめていきたいと思います。

PFAS(有機フッ素化合物)って?

PFASとは有機フッ素化合物の総称です。
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタンスルホン酸)という名前もよく出てきますが、これら有機フッ素化合物全部をひっくるめてPFASと呼んでいます。
PFASは撥水/防水性が高いという特徴を持っていて、フライパンのテフロンや、ハンバーガーの包み紙のつるつるしてるところ、ウォータープルーフの化粧品、泡消火剤などに使われてきました。
炭素(C)が多ければ多いほど原子の結びつきが強くなって壊れにくいんだそうで、例えばPFOSなどは化学式で表すとCが8つもつくことから、「C8」などとも呼ばれるそうです。

原子同士の結びつきが強くて壊れにくい=撥水性が高い、というのは感覚的にもなんとなく理解できる話ですが、困ったことに、自然界で分解できる物質がないんだそうです。
残留性が高く、半減期も長く設けられることから「永遠の化学物質」とも呼ばれており、例えば川や海に放たれてしまうと、巡り巡って再び飲用水として体に取り込まれる可能性を孕みますし、また、一度体内に入り込めば、長く残って蓄積されてしまいます。

半減期は具体的に何年くらい?

PFASのなかでも、PFOSとPFOAでは半減期が異なるでしょうし、またそれぞれ半減期がどれぐらいなのかについても議論はあるようです。
例えば日本薬学会のサイトによれば、人の体内では「4.4年」ほどが半減期だということですし、あるいはPFASについては、その危険性を指摘する医学博士、団体などは半減期が90年以上あると主張していたりもします。
いずれにせよ年単位で体内に残る化学物質であり、蓄積されていく特徴があります。その期間が長ければ長いほど、人体への影響も大きいというところは一致しています。

PFASによる健康被害は? 規制は?

評価がどの程度定まっているのかは微妙なところですが、報道等においては「発がん性が疑われる」という表現が散見されます。
1950年代から使われてきましたが、具体的に規制の動きが始まったのは主に2000年代。21世紀に入ってから始まった動きと言ってもいいかもしれません。
アメリカでは、3M社が2000年にPFOAの製造を中止しましたが、それから4年後の2004年には、テフロン加工で知られるデュポン社が訴訟を受けています。工場周辺7万人の血液検査を実施した結果、腎臓がんや甲状腺疾患など6つの疾患とPFASの関わりが指摘されることになりました。

ちなみにこのデュポンへの訴訟は映画にもなっています。

ここから規制の動きがバタバタと進み、2006年にはEPA(アメリカ環境保護庁)がPFOA管理計画を策定。2009年には国連ストックホルム条約において、PFOSの製造・使用を原則禁止と決定しました。

日本のPFAS規制は始まったばかり?

アメリカやヨーロッパでは2000年から規制を進めてきたPFASですが、日本においては、最近ようやく動きが大きくなってきた印象です。
具体的に日本でPFASの値が大きく観測されるのは、主に米軍基地周辺です。米軍が使用する泡消火剤に含まれているらしく、例えばNHKの記事にあるように、横須賀においては米軍基地はすでに関与を認め、謝罪を行う事態に発展しました。

厚生労働省がPFASの暫定目標値を定めたのは2020年。同時に、環境省も河川や地下水の暫定指針値を設けました。
ただし、上記NHKの記事にもある通り、沖縄の嘉手納基地周辺で行われた住民の血液検査の結果、すでに「健康リスクあり」と指摘されるほどの影響が出ているのが現状です。

ちなみに、沖縄は日本においてはかなり早くからPFAS問題に取り組んでいて、2016年に嘉手納基地周辺のPFAS汚染を指摘する記者会見を行っています。

多摩地域でもPFASの健康被害調査の動きが始まる

さて、多摩地域にも横田基地という米軍基地があります。多摩川などのPFAS調査というのはどの程度進んでいるものなのでしょうか?
諸永裕司『消された水汚染』(平凡社新書)によれば、実は2003年の段階で、東京都環境科学研究所が調査を始めており、多摩地域の下水処理場でPFOSの濃度を測定。処理場の上流と下流で濃度が異なることから、多摩地域のどこかに汚染源がある可能性を指摘しています。
それから数年、都環境科学研究所は多摩地域の井戸・地下水をモニタリング対象に広げると、高濃度のPFOSが測定され、多摩地域の広範囲の地下水が汚染されていることがわかりました。

この事実があまり表立って指摘されてこなかった事情については上述の『消された水汚染』に譲りますが、結果的にこの地下水自体は、実は多摩の一部地域では引用に供されていたことがわかります。

私たちはダムの水だけを飲用にしているのではなくて、途中、浄水場においては水を補給し、ダムから水路を辿ってきた水(原水)と付近の水を混ぜてから浄水処理を行います。
その補給水として、高濃度のPFASを含む多摩地域の地下水が使われています。

<水源から安全な水が届くまで>

(1)ダム:水をいつでも供給できるように、水を貯めておく施設。大雨のときには洪水を防ぎ、渇水のときにも水を使えるように水の量を調節しています。
(2)取水場:川の水やダムの水(原水)を取り入れて、浄水場へ送る施設です。
(3)水路:取水した原水を別の川や浄水場などの必要な場所に運びます。
(4)浄水場:取水した原水に浄水処理を行って、安心して飲める安全でおいしい水道水をつくる施設です。
(5)配水場:浄水場できれいになった水道水をいったん貯めておく施設です。
(6)配水管:配水場から各家庭の蛇口につながる給水管へ水道水を運びます。

政府広報オンライン「飲み水はどこから?使った水はどこへ?暮らしを支える「水の循環」」

汚染の実態、および汚染基準値の変化に伴い、現在は地下水は取水停止となっているようですが、それまで、地域住民が飲用していた事実は変わりません。
どの程度PFAS汚染が広がっているのか、2022年11月から、市民団体中心に調査が始まっているようです。

編集後記

恥ずかしながら、PFAS問題について私が知ったのは、今年の6月くらいだったでしょうか。朝日新聞ポッドキャストでした。

このポッドキャストにも出ている諸永記者の著書『消された水汚染』を読む限りにおいては、都はこの問題についてかなり腰が引けている印象を受けます。
のらりくらりとはぐらかす行政を相手に取材を進める大変さが伝わると同時に、ここまで逃げ腰ならば、住民主導でないと事態は動かないだろうと思わざるを得ない内容でした。
一方で、報道状況を見ても、特に沖縄などは県の独自調査を基地に求めるなど、歴史的な経緯もあるだけに、はっきりと前向きに取り組んでおり、すでに住民を対象にした検査も行われています。

都が逃げ腰であっても、基礎自治体と住民の間でがっつり歩調を合わせるとか、なんとかそういう方向に行ってくれないかなあと思ったりしています。(編集:安藤)

※多摩川旬報の次号は、少し空きますが2023年1月11日号からになります。少し早い年内最終号になりましたが、2023年もよろしくお願いいたします。

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