溢れる part1と2《短編小説》
俺の名前はライアン。アフレル国の王子だ。歳は15になる。俺の周りにはなんでもある。何か望めばなんでも手に入る。物も地位も。だけど何かが足りない。とても窮屈なのだ。もっと自由になりたい。
自由になりたいと感じた時、俺は海に潜る。
海は自由だ。魚やカメたちがいつも楽しそうに泳いでいる。それに海に潜っていると、綺麗な歌声が聞こえてくるのだ。人魚の歌声だ。アフレル国では海の深いところには人魚の国があると信じられている。人魚は魚たちとこの海を自在に泳ぎ回ることができる。俺は密かにそんな人魚になってみたいと夢みている。
*
私の名前はエリイ。アフレル国の学生よ。歳は15になる。私の周りには何も無い。何かを望んでも何も手に入らない。物も地位も。いつも生きるだけで精一杯。とっても窮屈。もっと自由になりたい。
自由になりたいと感じた時、私は海に潜る。海は唯一の味方。海ではどんな高価な物や地位を持っていても関係ない。海の中では皆平等に息ができない。平等を与えてくれる海は私の支えなの。それに海に潜っていると、綺麗な歌声が聞こえてくるの。人魚の歌声。アフレル国では人魚は死の神だと言われている。人魚の姿を目撃したものは全員死ぬと言われている。だから実際に人魚を見たことがある人はいない。私は密かにそんな人魚にあってみたいと夢みている。
◇
冬だというのに春のような温かさが日常を包んだ。
ライアンとエリイはその日たまたま同じ時間に同じ砂浜に訪れていた。二人ともいつものように海に潜ろうとしていたのだ。ライアンの右足、エリイの左足が海と触れた時、海からこちらを眺めている人の存在に気がついた。そしてその人は人魚なのではないかと疑った。
Part2
アフレル国の本に載っている人魚の髪は綺麗な青色で、その人の髪も綺麗な青だったからだ。
ライアンが先に話かけた。
「もしかしてお前は人魚なのか?」
人魚と思わしき人は、
「うん、そうよ」
とすんなり自分のことを人魚だと認めた。
人魚が目の前にいるとわかったエリイは急に焦りだした。
「えっ、えっ、じゃあ私はあなたを見てしまったから、もうすぐ死ぬってことだよね。嫌だ、まだ死にたくない」
人魚は一瞬固まり、笑った。
「私に人を殺す力なんかないわよ。そんな力があるなら、私はずっと海の底に閉じこもってるわ」
エリイはなおも問う。
「だけど私のママも、ジジも、漁師の人たちだって、人魚を見たら死ぬって言ってたよ」
「ないない、皆噂話に騙されちゃったのね、海の中でも嘘の噂話はよく広まるけれど、人間界も同じなのね」
人魚は少し困惑した表情になった。
「ちょっと待って、じゃあ人間の男とキスしたら人間になれるのって、もしかして、嘘?」
ライアンが話す。
「は?そんな話は聞いたことないぞ、試しに俺がキスしてやろうか」
そう言って人魚に近づいた。
続く
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