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猫の胃袋の宇宙

猫のトロロと暮らし始めて以来、繰り返し思い出す、ドラマのセリフがある。
昔、「フードファイト」というドラマで、SMAPの草彅くんが、フードファイター役をやっていたのだが、その決め台詞。「俺の胃袋は宇宙だ」である。

夫が仕事を辞めたとき、猫を招聘することにした。
うちは子どもがいない。一日中、夫と二人では気づまりだし、夫は猫が好きなので、認知症にも良いのではないかと思った。

想定外だったのが、譲渡会で出会い、引き取った猫のトロロに異食癖があったこと。トロロがうちに来た数日後、外出から帰った私の鞄に、トロロが頭を突っ込んだので、すぐ引き離した。そして、再び出かけようとして鞄の中のマスクを出したら、マスクの紐がなかったのだ。私は膝から崩れ落ちた。

大きな動物病院に連れて行った。
「紐が腸にからまると命に関わるが、全身麻酔じゃないと胃カメラを使えない。」
とのことだった。
トロロは当時、生後半年の子猫である。苦渋の決断。ずいぶんと気を揉んだが、無事、マスク紐が摘出された。でも、摘出された紐は、消えた紐よりも短かった。

その後、猫用おもちゃの紐を食べたので、家中の紐に、ネットで購入した「噛むと変な味がするスプレー」を掛けた。(安全な成分!)
そのスプレーを掛けた紐を噛んでみたトロロの顔を見ていると、苦いというより、微妙な味らしい。

その後のトロロは、玄関の脱走防止ゲートを突破して玄関の靴紐を食べ、カーテンのタッセルの紐を食べ、セーターの首の部分を齧り、バンダナを食べた。夜中か明け方の行動らしい。食べるものが奇想天外なので、スプレーも追いつかない。

何度も動物病院に連れて行った。しかし、いつ異物を食べたのか分からなかったり、ある程度時間が経ってしまうと、動物病院でできることがないらしい。(直後なら、吐かせる、ということもできるようだ)。
レントゲンも何回か撮ってもらった。幸い、異常なし。
食べた異物は、数日でうんちと一緒に出てくるはず………。しかし、出てこないままなのだ。どこに消えているのだろう。

動物病院の先生によると、
「実は、どこかに隠している子もいます」
とのこと。しかし、我が家にそんな隠し場所はない。
「あとは、ものすごく細かく噛み砕いているか、ですかね」
と、先生。その線が濃厚かもしれない。
それにしても、こんなに、見つからないものなのか?

この頃は、かなり異食も減った。
そう油断していたら、レースのカーテンを食べられていた。
「俺の胃袋は宇宙だ」
という声が、また聞こえる。
トロロの胃袋には宇宙があって、マスク紐やバンダナやセーターの毛糸、レースのカーテンの切れ端などが、宇宙空間に放出されているのだろう。

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