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【百線一抄】020■海陸の交わりを見守る道標ー総武本線

割と東京から近い。それなのに、端まで行くと遠くに来たように旅
人が感じてしまう路線がある。東京から銚子まで特急で約2時間、
ぬれ煎餅で有名な銚子電鉄に接続する、総武本線である。東京にい
れば2種類の通勤電車が多く行き交う都会の電車、片や千葉を発て
ばほどなく1時間に1本のローカル線となる変化はまさに顕著だ。

今の路線形態は早くも明治期にほぼ原型が完成している。終戦後の
まちの復興と人口増加は、通勤電車が走る御茶ノ水ー千葉間と房総
半島の各地を結ぶ各線の利用客を一気に押し上げ、快速線の追加と
他線の電化を進めていくことになる。長編成の快速電車が地下線へ
下りて東京駅に直結したのは昭和47年、銚子へ電車が来るように
なったのが昭和49年。ここから特急「しおさい」が他の各線と同
じように、東京と房総エリアを直結する列車として成長していく。

成田線とからめ手で語られることも多い総武本線だが、実際の歩み
に触れてみると実態が見えてくる。戦後の電化も初期に完成したの
は千葉ー成田間であり、新東京国際空港の開港によりアクセス線と
なる役割も加えられている。さらに奥の香取から鹿島線も延伸され
ると、総武本線の抱える役割は何層にも重なるものとなったのだ。

短い距離の路線のわりには、さまざまな役割を担う列車が総武本線
を走っていることがわかる。本数が多いのは黄帯の緩行線、各線直
通で世代交代が進む青とクリーム色帯の快速線、それに特急成田エ
クスプレスが空港輸送の花形であり、それらの隙間に時々、黄色と
白と青の特急電車が混ざり、県内各都市を結ぶ。朝夕はこれに加え
て東京メトロの東西線直通が顔を出し、中央本線からは特急あずさ
も新宿を介して乗り入れてくる。貨物列車も数本が往来している。

あえて言うならば、房総各線の中で比べると見どころが少なく、華
はないと言ってしまえばそれまでだが、各地への自動車道延伸が進
むとともに内房・外房両線の特急が大きく数を減らしたのに比べる
と、総武本線側は直通列車も数が多く、普通列車の編成も長めだ。
続々と千葉駅の各番線に出入りする電車群の姿は、地域の足として
多くの県内利用客を日夜運んでいることを黙して知らしめている。
もし千葉から東に足を延ばしたことがないならば、近くの未知なる
風景を見に行こう。千葉の路線図が小さな旅の道標になるはずだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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