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この頂は何県?

山に登ると富士山を探してしまいます。
遠くの山からでも、登山道の途中で山の向こうから富士山が顔を出せばすぐにわかります。
端麗な山です。

ところで、この富士山の登山地図をみますと、東と西の山麓から伸びてきている山梨県と静岡県(ここでは、原則として北から南、次いで東から西に所在する県・市町村から順に記載しています。記載順は、特定の見解を示すものではありません。)の2つの県境がお鉢巡りの周回登山道の外側で途切れています。
これは、ご存知のように富士山山頂付近が県境未定地域となっているからです。

専門家ではないので正確なところは分かりませんが、古くは地形による通行の困難性もあり、山を挟んでの人の行き来は制限され、自然に山を挟んで別の文化・経済圏が形成されていったのではないかと思われます。
これにより、山、特に連山の稜線が行政区域(昔は豪族などの領地だったのでしょうが)の境界とされていったのだと思われます。
また、境界として分かりやすい、管理しやすいということも理由としてあったのかも知れません。

最も分かりやすいのが、北アルプスです。
北は日本海の親不知から朝日岳を経て白馬岳手前の三国境までの稜線は、新潟県と富山県の県境、三国境~白馬~鹿島槍~針ノ木~烏帽子~野口五郎~鷲羽~三俣蓮華の稜線は、長野県と富山県の県境、三俣蓮華~槍~奥穂~西穂~焼岳(~三国山)の稜線は長野県と岐阜県の県境となっています。

しかし、登山地図を見ていると、山頂付近の県境線が山頂・稜線と一致していない山があることに気付きます。
鳥海山、飯豊山などはその代表例といえます。
この2つの山は、共に古くから山岳信仰の対象とされていた山であり、この点は富士山と共通しています。
しかし、多くの山が信仰の対象とされてきており、それらの大多数では山頂・稜線が境界とされてきているのですから、必ずしも山岳信仰の対象の山では山頂付近の境界線が不自然な形(?)に引かれているというわけではありません。

それでは、このような山頂付近における県、市町村の境界を法的に定める場合、どのような要素が重視されるのでしょうか。

県境ではないのですが、山頂付近の市町村の境界紛争が裁判にまで発展したケースとしては、筑波山の山頂の帰属に関する茨城県の真壁町(現桜川市)と筑波町(現つくば市)の間の訴訟をあげることができます。

この裁判は最高裁まで争われたのですが、最高裁は、昔の行政の区分線を調べ、一応の区分線が分かれば、その区分線を基準とし、江戸時代まで遡っても分からなときは、「当該係争地域の歴史的沿革に加え、明治以降における関係町村の行政権行使の実状、国又は都道府県の行政機関の管轄、住民の社会・経済生活上の便益、地勢上の特性等の自然的条件、地積などを考慮の上、最も衡平妥当な線を見いだしてこれを境界と定めるのが相当である。」
としています。
稜線などの地形は境界を定めるにあたり考慮される一要素に過ぎず、事情によっては、歴史的沿革、住民の社会・経済生活上の便益の方が重視されるものと考えているようです。

この判決からしますと、鳥海山、飯豊山の山頂付近の不自然な(?)県境線も十分に説明が付くとも言えそうです。

この判例とその他山と県、市町村の境界線に関する考察を記した下記のブログ記事を事務所のホームページでも紹介しておりますので、ご興味をお持ちの方はご覧ください。


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