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2020.01.08 鈴虫とサッカー少年

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「ニワトリの声で目覚めたね〜」とみんなで談笑してたけど、正直、昨晩から「コケコッコー」と「ァーッッッッ!」は聞こえ続けていた。眠すぎて、朝食中の会話もままならないし、身体も重い。

そんな具合なので一旦、成順と曲の構成などの確認をすることが決まり、その間にマネージャーと奥田さんが散策に出かけた。一段落して、そろそろやろうかとバルコニーで一服をしていると、「オーイ!」という声が聞こえてきた。

声の方を向くと、アヒル池の向こうの道路に奥田さんとマネージャーがバイクニケツ状態で停止したままこちらを見ていた。こちらも「オーイ」と笑いながら応えたが、なぜか彼らはしばらく微動だにせず、真顔のまま発進し道の彼方に消えた。奥田さんは感情を読みづらい。この意味不明の時間も、最後まで何だったのか分からないままだ。

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11時、レコーディング開始。テラスの窓を開け放し、背後の遠くから聞こえるバイクの音やニワトリの鳴き声、見知らぬ誰かの会話をバックに演奏する。「君に会った日は」から始めるが、1時間やってもいいテイクが録れず、結局次曲へ。「春」を録ってみると、こちらは2テイクで完成した。

休憩がてらテラスで日に当たると、やっと身体が起きてきた。やはり太陽か〜。明日は散歩して朝日をちゃんと浴びよう。

休憩を終えて「空砲」をレコーディングする頃には気温も上がって、アヒルやニワトリがすごく元気になってきた。

ガッガッガッガッガッコケコッコー!!!ァ〜ッッッッ!!!

これをバックに演奏するのはかなり厳しい。メロディより生き物に耳が行ってしまうからだ。数十分間の「アヒル気収まり待ち」があったが、なかなか鳴き止まないので結局その中で録音した。

次に「夏がきたら」を録り終えて、共用のバルコニーでまた休憩。普通のレコーディングスタジオだと気分転換する場所に困るが、ここでは部屋を出るだけで太陽や風を浴びることができるのがいい。たまに話しすぎることもあったが。

それこそまたお話に熱中していると、急に奥田さんが「?!」と向こうを指差した。その先を見ると、30頭近いヒツジの群れ。ノンラーと呼ばれるベトナム伝統の編笠をかぶった女性が、彼らを手懐けつつ追いかける。興奮して、しばらく見つめた。

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ヒツジたちが去った後、「君に会った日は」にトライしたところ、先程よりだいぶムーズに録り終えた。やはり体を起こす重要性を感じた。

遅い昼食として、近くの食堂で初めて食事をとった。英語メニューを渡されたが、通常メニューより品数が少ないし、店員さんも暇そうだったので、互いにGoogle翻訳を駆使して注文した。フォーを頼んだのにカップ焼きそばみたいなのが出てきたが、フォーも調理法で違うものだと知れたし、何より久しぶりのジャンク・フードの味に舌が喜んだ。

「夏のおわり」をとる頃には、鈴虫が鳴き始め、近所の学校帰りの子供たちが空き地でサッカーを始めたので、なんだか感傷的になった。空き地でサッカーする子供の醸す情緒は、世界共通かもしれなかった。皆、目が輝いている。

気候も良かった。昼間は夏みたいなのに、夕方から一気に秋に変わる。そして、梅雨の始めのような湿気も常にある。特に夜の空気感は、胸をしめつけた。秋みたいに涼しくて、鈴虫も鳴いているのに、妙に湿った空気が肌に触れるから。

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「パジャマでハイウェイ」を夜に録る予定だったが、手が疲れてしまって、結局いいテイクがとれずに、夕飯を食べる。揚げ魚のトマトソースがけが出た。素材の川魚は泥臭いが、少しクセになる感じもあって美味しかったが、やはりクセがある感じだった。

食後、明日からの予定を立てていたが、途中で離脱させてもらって、テラスで1人で考え事をしながらギターを弾く。なんだか今日は、たくさんの人に会ったな。食堂のおっちゃん、サッカー少年、ヒツジの群れ。すごく充実した気がする。

夜のニンビンの音を聞きながらも、ハノイのことも思い出していた。なんか、ひいばあちゃんちにどうしても似てるんだよな、どこに行っても。

とりあえず、一曲できた。現地で作ってみたかった。まだ完成しきってないけど、多分明日にはできるだろう。

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インストの曲も一曲入れる予定だったが、成順がいいのを持っていたので、ハノイで買った笛とギターを合わせるというのだけ決めて、あとは明日考えることにした。明日は、宿の近くを散策しつつ、フィールドレコーディング、インスト曲の録音、そのあと帰ってきて「舟」と「パレード」を録る予定だ。

今日も成順のベッドから聞こえる斉木楠雄を子守唄に眠る。本当に会話の内容が把握できないギリギリの音量で悶える。でも今日はちゃんと疲れたし、眠れそうだ。

コケコッコも静かだし。おやすみ。

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