2021.5.9

Dos MonosのタイタンとのPodcast「奇奇怪怪明解事典」は、日々に漂っている絶妙な心の動きを、言葉というものにフォーカスして深掘りしてみる、みたいな番組である。

昨年の6月ごろから配信が始まったのでそろそろ1年経つが、当初からシコースキーとか井川慶とか、野球の話が頻繁に漏れ出ていたことには気がついていた。

野球の話ってそんなに誰にでも通用するものではないんだ、というのは大学に入って以降分かってはいたが、小中高と野球部だった身としては会話から取り除くことがなかなかできない。

井川慶という音とともにマイクが拾う自分の鼻息が悲しく、何度も野球の話はやめようと心に決めたが、自然体で話すことができるという番組の特性上、プチ野球談義は絶えることがなかった。

ついには本人たちが回収しきれないレベルの野球あるあるが続いた回があり、それを受けて最新回では野球の魅力を存分に語り合うことになった。念願の野球回である。

ところが、少なくとも僕個人としては、かなり話しづらい回になった。タイタンが番組用になかなかの値段するプロ野球チップス10袋入セットを購入していて、このチップスに同封されているプロ野球選手カードが少年たちの目当てなのだが、開封してみると色々あって盛り上がらなかったのだ。

ちょうど空腹だったので落ち込むタイタンを見ながらチップスを食べ出したら「そっち目当てのやつはいねえんだよ」と言われた。そして、そのとき僕はプロ野球チップスを購入した経験が一度もないことに気づいた。

井川慶マイナー降格ばりのショック。もしかして、別に野球好きじゃないのか?

野球部時代も、プロ野球速報を追い続けたり、グローブやバットを磨くことに命を懸けるチームメイトもいたが、僕はそこそこだったし、野球部を卒業して以降プロ野球の試合結果を見ることさえ少なくなった。

そのブランクを経て、野球の魅力とは何か?と問われると、調子外れの言葉しか出てこない。いつものように楽しく話しながらも、その先に到達できないもどかしさを感じたまま収録が終わった。

配信から数日経って、タイタンがある聴取者の方からのメッセージを一部共有してくれた。その中に『弱くても勝てます』という書籍の紹介があり、それは進学校である開成高校の野球部にインタビューすることで炙り出される弱小校としての哲学にフォーカスするような内容であったが、僕はそれに強く惹きつけられた。

「弱くても勝てる」というのは野球に限らず、その競技を面白く感じさせる大きなポイントなのではないか。そして、中でもおそらく野球はその成分を多く含んでいるのではないか。

さて、ここから勢いで何かを書き連ねようとしていたのだが、読んでもない書籍を後ろ盾にして情熱エッセイ完成させたところで非礼と虚無が残ると思い、一旦筆を置くことにする。

イメージとしては、「弱くても勝てる」は紆余曲折して僕がPodcastを続けていられる理由の一部に接続するが、それはまた機会があれば。

ちなみに『弱くても勝てます』の著者である高橋秀実氏は『不明解日本語辞典』という書籍も出していて、こちらは読んだ記憶があるが、言葉という面においてかなり「奇奇怪怪明解事典」と近い嗜好を感じたのでよかったらどうぞ。

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