2023.1.1

3時半ごろ寝つくが、7時には目が醒める。初夢は、朧げではあるが、何らかのポーズを取って勝敗を競う夢だった。結果は悪くなかった。

眠さをこらえて久々に2048を始めると、面白くって3時間ほどやってしまった。その間に風呂を貯めてひとのくれた柚子をやっと浮かべる。こすらなくては香りが立たず、こすりすぎて最終的には握りつぶしてしまい、浴槽をオレンジピールが舞った。

正午にはベランダに出て洗濯を干したが、隣の住人が昼間は冬でも窓を開け放していることに、食器が擦れるような生活音で気がついた。もうベランダで昼にタバコを吸うのは控えよう。

洗濯を干し終えたのでひとまずここ数週間の習慣に従ってバッティングセンターへ向かった。落合のモノマネをし始めたからと言うものの110km/hくらいは平気でいい当たりが出るようになったので嬉しい。流し打ちはできない。

スーパーに寄ろうと入り口まで向かうと、歩道のあちらから赤いダウンのお爺さんがエコバックを提げてやってきた。二人してスーパーの店内の異様な暗さに気づき、二人して貼り紙に書かれた「三が日休業中」の文字に気づいた。二人してトボトボと歩き始めたが、気まずいので用もないのにコンビニへ向かう。

コンビニでセブンの餅とマルちゃん正麺辛味噌カップラーメン、どん兵衛きつねを買って出た。正月というのに車通りが少ない以外にはほとんど昨日と変わらず、やはり独り暮らしには年末年始の空気感を味わうのがまだ早いように思えた。ムードは人と作るものである。

家に帰って餅を二つ焼くが、金網に餅がひっついて困る。やっとの思いで餅を剥がして皿に移し、よせばいいのに金網に残った残骸を箸で刮いでいるうちに餅が硬くなる。昔から大好物の磯辺餅も、ほとんど人生初めての一人で過ごす正月には味気ない。

なんとなく物足りないので、アルミホイルを敷いてまた二つ餅を焼く。金網には引っつかないが、今度は焦げが足りないので嫌になる。あの焦げた香りが好きなのに、とまた餅を箸でつまむとアルミホイルにびっちり癒着している。それを剥がす間にも餅は硬くなっていくが、火の具合を見ていたらすっかり腹が落ち着いて、もう硬かろうが構わなくなっていた。

ヒットパレードを見る。岡野と相席スタートの山添が芸人の楽屋から私物を視聴者プレゼントするコーナーの真っ最中で、めちゃイケのノリを久々に思い出した。天井を貫く江頭の胴上げ。

ハライチがいいとも枠の番組を始めるそうで、ぽかぽかと言うらしい。番組終わりぎわの視聴者応募コーナーで、山添がフリップに書いて出したキーワードが「ぽかぽか終了」で笑った。ハライチやスタッフの反応は絶妙で、岡村が「笑ってる人と笑ってない人がいます」とフォローするのを見て、すっかりナインティナインは司会業だなと思った。

飽きて2048をまた始めると、大ちゃんからキャッチボールをしようと連絡が来る。嬉しい誘いだが、昨日もひかるくんとやっているので、一旦明日にしてもらおうとした。しかし、混み具合を聞かれて元旦の方が公園は空いている旨を伝えると、「まあ今日にするか!たまちゃんも明日フルに自由に使えた方がいいもんな」とまるで俺を慮るかのような形で強行された。

2048をやっていると、遅刻していることに気づき、公園まで走った。走って走ってやっと公園に着くと、大ちゃんがいない。電話をしてみるとセブンまでトイレに行っていると言う。トイレは公園内にあるじゃん、と突っ込みながらセブン帰りの大ちゃんと歩道で合流した。

大ちゃんはフォームが安定していて運動神経のありそうな動きをしていた。さすが強豪サッカー部の出身なだけある。体重移動やスナップの話をしながら100球近くは投げた。ひかるくんと同じでスナップに気を遣いすぎて球が抜けることがあったが、大人は暴投を恐れて慎重なスナップになりがちなのだろうか。時おり小さな子どもが状況を知らずに俺たちの間を駆け回るのが可愛い。父親はそのたびに「そこ通っちゃダメ」と喝を入れるがあまり効果がないので、途中から子が通るたびグローブを構えて「しゃあ来い!」と大ちゃんに投球を促すようにした。大ちゃんは笑っていたが、父親はクスリともしなかった。

大ちゃんが汗をかいて疲れたというので中断した。みるとカリマーのウインドブレーカーの下に三枚も重ね着して、一番下には「南極でも使えるサーマル」を着ていた。サーマルって汗で濡れて大丈夫なのかな、という疑問を投げかけようと大ちゃんの顔を見ると、餅のような丸顔を桃色に火照らせてちいかわのような目をしていたのでやめた。

ちいかわがバッティングも楽しそうと呟くので、バッティングセンターに連れて行った。まさか1日に二度も行くとは思わないが仕方がない。道すがら先のワールドカップの話になり、日本代表は堅守速攻の戦い方を変えるべきだとの意見が見られたがどうかと尋ねると、ボールポゼッションの優位を保ったパスサッカーも美しいが、相手の戦術によって堅守速攻にも切り替えられる戦力が望ましいとのことだった。友人が監督を務めるチームに戦術アドバイザーとして関わるほどのサッカー狂なので、確かだろうと思う。

バッティングセンターは朝よりも混んでいて、80km/hのボックスしか空いていなかったので仕方なくそこで打ってみせたが、やはり110km/hに目が慣れているためか、当たるしよく飛ぶ。後ろで大ちゃんが喜ぶので得意になって打ち続けた。

大ちゃんに変わって、基本のフォームと立ち位置を伝えると、やはりセンスがあるようで簡単なライナーはすぐ打つようになった。小さな歓声を上げながら打ち続ける大ちゃんが愛しかった。センター方向のアタリマークをめがけて順番に打球を飛ばす。

結局10km/hずつ球速をあげながら4セット打った。途中隣のボックスのお兄さんが見事アタリのマークに打球を当てて、俺と大ちゃんも称賛の声を上げたが、あれに当てるとなんか貰えるんですかと男性に聞いても「いやあ、でも音鳴んないすね」と苦笑いするので、二人して当ててやろうと躍起になっていたアレがハリボテだということが分かった。

ネット越しに見上げると月が出ていた。妻が生ハムと春菊を買ってくるよう言っているというので、大ちゃんと一緒に駅まで向かう。バッティングセンターを出た直後に「トイレ行きたいな」と言い出すので、バッセンにあったじゃん、と突っ込みながら夜道を急ぎ、駅までの途中の公園で用を足した。

大ちゃんは駅のスーパーで買い物を済ませたのち、タクシーで帰ると言い出した。駅前でタクシーを待つが10分経っても来ないので、少し道を歩きながらどこかで拾おうことになった。買い物も済ませて後は帰るだけ、となると妙に会話が盛り上がらなくなる。

駅の反対側の夜道を歩きながら、本当はこっち側の物件にいいのがあったんだよなあと弱音を漏らすと、ますます雰囲気が悪くなった。元旦なのにまずい、と馬鹿みたいに元気に振舞っていると突然大ちゃんが足を止めて「やばい腹痛くなってきたわあ」と顔をしかめた。案の定、南極で使えるサーマルが湿っている。

「もう悪いからここでいいよ」と言われたが、名残惜しいので排便を見届けるべく近くのコンビニを探して歩いた。ちょっと体温であったまってしまった生ハムと春菊を預かって駐車場で待つ。すぐに出てきた彼は全てを諦めたような顔で「貸し出してねえわあ」とうなだれた。

彼はもう口に出してしまっていた。路上で「俺このままだとウンチ漏らしちゃうわあ」としっかり元旦の夜に響かせてしまっていた。それを聞きつけた妙齢の女性が、車に乗り込もうとドアにかけた手を止めて「あそこのコンビニにはあるわよ!」と教えてくれた。

神にもすがる思いで尻を締め、二つ先の信号にあるという別のコンビニの位置を車道に身を乗り出しながら真剣に確認する二人は、ほとんど戦略ミーティング中の監督とエースだった。

お礼を言って、もう小走りと言ってよいスピードで歩道を駆け出す。エースの顔は真剣そのものだった。必ず、決めなければいけない。そのプレッシャーを誰に推し量ることができようか。

俺は生ハムと春菊を持ったまま一歩半後ろをついて行き、そしてやっとコンビニに着いた。もう彼はたどり着いたことへの喜びすらなく、仕事人としての顔でコンビニに消えた。俺は生ハムと春菊を持ったまま駐車場に待機し、タクシーを止めた。

タクシーに「今に連れがトイレから出てくるんで」と説明して、すぐさま後悔した。まるでウンチくんがこれから登場しますよ、と小学生大喜びの花道を用意してしまったようなものだ。

運転手さんは顔色一つ変えなかったが、きっとどんな奴がトイレから出てくるのかと気が気でなかったろう。すぐに大ちゃんに連絡して早く出てくるよう促した。時間がかかればかかるほど、運転手に強敵として認識されかねないからである。

やっと出てきた大ちゃんに生ハムと春菊を渡し、「ありがとう!」と朗らかに乗り込んで行ったが、目は一度も合わずじまいであった。後輩としてタクシーを用意したところまでは完璧であったと思う。

タクシーを見送った帰り、こっちにしようかと迷っていた物件に通りがかり、思わず内見した部屋を外から眺めた。電気はついていないが、ベランダにお洒落でたいへん大きな観葉植物が置いてある。独特の胸が疼く感覚が生まれる。

しかし俺は無い物ねだりが過ぎる。決定的な優良物件だったにかかわらず、もっと広い方がいいと我儘を言って今の家の方に決めたのだった。エントランスまで覗こうとして関係者以外立ち入り禁止の札が目に止まる。いつまでもこんなことしてる場合ではないな、と思い直して、俺も生ハムか何かを買って帰ろうとまたスーパーの方まで歩いた。


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