2021.5.12

Tempalayのライブを見た。会場であるZEPP HANEDAがあまりに遠く、なんだか孤島という感じがしてよかったし、ライブも素晴らしかった。まず演奏している誰かを見ることが久しぶりで、次にあれだけデカイ音自体が久しぶりで、席を埋めるお客さんの姿も久々だから不思議な気持ちになった。

不思議さで言えば、バックドロップに投影された映像演出がそうさせたのかも知れない。margtの手腕はもちろんのこと、照明のOさんの存在も大きかったろう。ライブでありながら、同時にひとつの作品を見ているような感覚になった。

このままいくとライブレポになりそうなので、この話は置いておくとして。Tempalayの曲を漫画化したことは我ながら記憶に新しいが、それらがひとつの冊子になった。表紙だけカラーにしてみたが、結構よかった。

なぜ漫画を描き始めたのか覚えていないが、確かきっかけは林静一さんの『赤色エレジー』だったと思う。アニメーターの青年とその恋人の同棲生活を描いた素晴らしい作品で、何がいいかと言えば、青年も恋人も、つらそうにしているシーンですら「無」であるように見えるところである。

登場人物の感情が無であるというよりは、絵がひんやりしているからそう見えるという感覚に近い。1970年当時の情勢が反映されているのか、林静一という人が飄々としているからそうなったのかは分からないが、その空気感が好きだった。

これを読んでいると、いくつかのコマにセリフでもナレーションでもない文字が書いてあった。それは何かの歌詞だ。歌が、独特の文字デザインで描かれている。調べてみると、あがた森魚というフォークシンガーが同名の楽曲を発表しており、歌を漫画化したのか!と驚いた。

実は、それは大きな勘違いで、あがた森魚がこの漫画に影響を受けて曲を作ったわけだが、それに気づかず僕は音楽を漫画にすること、そのアイデア自体というより、これだけ素晴らしい作品ができ得るということに興奮していた。

Tempalayの楽曲はもともと好きではあったが、「大東京万博」を聴いた時に初めてバチーンと『赤色エレジー』が想起された。歌詞の雰囲気が似ているような気がしたことも大きいが、何よりかの漫画に漂うひんやりとした柔らかさを、曲全体から感じたのである。

描き始めたら、あっという間に2日が過ぎた。月明かりの差し込む部屋で、僕はそのたった2ページの漫画を眺めながら、この街に行ってみたいなと思った。

ゴーストアルバム全ての楽曲を漫画化することになったときも、曲毎に世界観やタッチを変えてみようなどと考えたが、やはり最終的にあの妙な歓楽街を歩く焦燥の男が魅力的であり、そのひんやりとした熱量をどうにか全体通して描けないものかというところに落ち着いた。

綾斗が何かのインタビューで「生きた心地がしなかったからゴーストアルバムという名前にした」というようなことを言っていて、それこそが漫画に出したかった何かである。

熱くてひんやり、狂気的で虚無、バカらしい淋しさ、そういうのを漫画に描いて、多くの人に見てもらえる機会をくれたTempalayに感謝している。

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