2021.5.11

理由があってプールに入った。そして写真を撮ってもらった。カメラマンであるマスダレンゾという男の、友人の家のバルコニーでのことだった。

そこはBREIMENの祥太なども出入りしているという謎多き邸宅で、素晴らしいロケーションを堪能できる立地であった。初めて会う女性もモデルとして参加していて、人見知りとしての僕は大いに緊張していた。

しかし撮影が始まってしまえば意外と馴染んでしまうもので、相手はどうか分からないが僕はもう自然体に振る舞える段階に来ていたから、気楽に撮影に臨んでいたし、いい顔つきになっていた。

屋内での撮影が終わり、いざバルコニーでプールに入ろうというタームがやってきた。空気入れを踏みまくっても30分かかるということで有名なビニールプールも、前日にレンゾと家主の方がある程度準備をしていてくれたらしい。

だからビニールプールに空気を入れる作業は10分ほどで済まされた。問題は、そこに注ぐ水であった。

今日は最近にしては珍しいくらい肌寒く、冷水を注いでしまっては水泳の授業が中止になるくらいの気温と水温しかなかった。そこで温水を注入することになる。

バルコニーと風呂場を繋ぐ小窓からホースが出ており、風呂場の蛇口をひねってバルコニーまで温水を送るプロジェクトが始まろうとしていた。

スタッフもそこまでいない撮影だったから僕が蛇口をひねるポストに任命され、これから温水プールに入る予定の僕はその期待値に胸を躍らせながら風呂場に入って思い切り蛇口をひねった。

悲しいことにホースのことをシャワーノズルと勘違いしていた僕はシャワー側にひねったのだが、実のところホースはカラン側に繋がれていたので、目の前に設置されていたシャワーノズルから顔面に放水されてしまった。

「うわあああああ!」

文字通り面食らった僕は、貧しい悲鳴を上げながら咄嗟に風呂場の扉を閉めた。状況を整理して、自分が何を間違えていたのかを理解する頃には、風呂場の扉のすりガラス越しにベチベチ当たるのっぴきならない水量が見えた。

「うわあああああ!」

こんどは心の中で、誰かがこの扉を開けてシャワーを止めない限り撮影が進まないことに気づいて悲鳴を上げた。誰かが絶対に濡れなければならないのだ。

マスダレンゾという男は立派な人間で、「僕が行きますよ」とガラスにベチベチ当たる温水を見ながら言った。マジでごめんと思った。

その先の話は語るべくもないが、こうして作品は出来上がるのだな、と性懲りも無く思った。

MONO NO AWAREのアーティストビジュアルを撮影した際も、本命はある旅館でのカットだったが、撮影前に彼から送られてきた香盤には「20時:星を見る会」という不思議イベントが明記されており、困惑した。

強風に吹かれながら登った小高い山の上で、オフショットくらいの気持ちで星空をバックに撮影したが、現像が上がってみれば結局それがアーティストビジュアルになった。

同じように突然提案された、暗めの公園で鬼ごっこしているところを撮影するという案は、竹田と豊が暗闇で衝突したことによって強制終了となったが、謝るレンゾに竹田も豊も大丈夫だよと返すところを見るに、レンゾがまとう柔らかな雰囲気とそれによって育まれた関係性があるのだなあと思った。

レンゾはそういう謎提案をするとき、決まって「フラッシュアイデアなんですが」という枕詞を置く。何でもそう言えばいいわけじゃないぞと意地悪な心も抱える僕だが、だいたいそれがいい方向に転がるので、最近気がついたが自分も「フラッシュアイデアなんですが」を使うようになってしまった。

僕の場合は、80%の確率で悪い方向に転がっていく。

レンゾのカメラマンとしての魅力はさることながら、人柄やキャラクター性によって、MIZもMONO NO AWAREも支えられていることを実感した初夏であった。

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