2021.5.10

友人に連れられて、久々に銭湯に行った。男湯と女湯が分かれていて、サウナと水風呂があった。

僕は銭湯が少し苦手である。かつては友達の家の風呂に入れてもらうとき妙な不安に襲われて、カカトに全体重をかけて立ってピングーのように移動していたことから分かるように、プチ潔癖があるかも知れない。

しかし、その潔癖はすでに卒業しており、現在では足の裏の小指側のほうに体重をかけて歩いている。では何が苦手なのかと言うと、更衣室である。

男湯の暖簾をくぐった瞬間に広がるあのモワンッとした何か、それに目と鼻を慣らしながら探し始めなければならない空きロッカー、見つけたとしてもその前に立ちはだかる全身濡れてる知らない男性、やっとロッカーを確保して服を脱いでいると背後に立ちはだかる全身濡れてる知らない男性。

この、周囲の動向を把握しながら自分の居場所をすぐに確保しなければならない状況が、テトリスに似ているのだ。

僕はテトリスがそこまで得意ではない。パズルは好きだが長考タイプだから、刻々と落ちてくる変な形のブロックを回転させながら何処にはめ込むか考えなければならないあの状況に、緊張して汗が出る。

例えば知恵の輪はゆっくり取り組めるが、テトリスは一回はめ込む場所を間違えたらほぼゲーム終了である。あの緊張感と「ミスった終わった」みたいな感覚を、大衆浴場の更衣室に感じる。

料金も手ごろだし回転も早いからその緊張感は必然で、「飲み屋のカウンターで隣の人が後ろを通るときはちょっとカウンター側に体を寄せて道を作る」とか、「食べ終わった丼をカウンターの上に乗せる」とか、お客さんがお店の回転速度に馴染んで気を遣う行為と似ているのかも知れない。

飲み屋ではそれができていたのだから、銭湯でもできるようになりたい。その決意を胸に更衣室に入るが、毎度あの空気に慣れるのに30秒、ロッカーを見つけるのにまた30秒ほどかかる。意味もなく「あー!やっぱお風呂っていいなー!」とか言いながら伸びをする時間が許されるなら、もう少し更衣室で落ち着いて行動できる気がするのだが。

だから友人に誘われたときにしか、銭湯には行かない。緊張感をはぐらかせるからである。なんとも情けないが、自分でも分かるレベルで安心している。

それでいて、シャワーを浴びながら緊張がほぐれ出したら存分にお湯に浸かるし、少し濡れた身体でロッカーの前まで戻るときは、風呂の達人のような顔つきになってしまう。トイレめちゃノックしてたくせに、自分が入る番になったらノック気にならなくなるやつくらい恥ずかしいことである。

しかし、これも序盤の緊張感から解放されることによって生まれる躁状態であり、ある程度余裕をもって最初から過ごしていれば、もう少し冷静にお湯を楽しめるのではないかと考えている。

現在そういう意味で行ってみたい銭湯があるので、初めて自分から誰かを誘って行ってみようと思う。

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