2021.5.8

友人Hと家で七輪をした。いろんな〆切が立て続けにあった直後で、相当ゆっくりしたかったので、かなり七輪に集中させてもらった。

炭を買いに行ったついでに、その近くのスーパーで食材も買った。ハマグリ、ホンビノス、アワビ、イカ、エビ、マグロのサク、牛肉、キングシイタケ、そら豆。

帰ってすぐにHがアワビを捌き始めた。アワビはまだ生きていて、艶めかしく動いていたが、「ウワー!ごめんなー!」と言いながら捌いていく。僕は貝の人生に興味がないので、隣でYoutubeを開いてアワビの正しい捌き方を見ていた。

しかしさっきまで動いていたアワビが、貝柱をカットした途端に動かなくなるのが不思議だった。貝柱が心臓なのだろうか。

するとアワビ刺しを完成させたHが、突然まな板に乗ったキモを手に取って口に入れた。「うまいよ、食う?」と言われ、黒板爪よだれが一瞬で分泌され言葉に詰まった。彼は、音楽家というより漁師といった方が相応しく見えた。

その勢いで彼はイカを捌き出した。イカはもう息絶えていたが、Hは己の勘でイカを捌くことを宣言していたので、隣でYoutubeを開いてイカの正しい捌き方を見た。

イカの中から透明のソードが出てきたときに、以前バイトしていたお店を思い出した。日本酒と和食を出し常連で賑わう居酒屋である。

当時の料理長やバイトの先輩に、イカやアンコウ、スッポンを捌くところを見せてもらって、潮風を浴びて育ったわりに海の幸がどうやって刺身の形になるのか知らなかった僕は、前のめりにそれを覗いた。

日本酒もおっさんが飲むものだと思って何となく避けていたからその多彩さに驚きつつ、日々ラインナップの変わる酒を試飲しながら味の違いを知った。

そして社長がデリカシーがなく優しい人で、バイト初日に挨拶の電話をかけた時「音楽では食えないだろうからその時はうちで働け」と言われた。

社長がカウンターに立つ仙台の店には、Hも一緒に行ったことがある。Hが今度打ち上げここにしようかなと言ったとき、我がことのように嬉しかった。

その店も現在は営業自粛中だが、いまだに当時お世話になった先輩から連絡が来ると嬉しいし、社長からも「ビートルズを見習って1年に2枚アルバムを出せ」と乱暴なアドバイスをいただくので助かっている。

七輪を囲んでいると、同居人が日本酒を持ってきた。ハマグリとホンビノスを酒蒸しにしようとしていたが、お店の板前さんに「日本酒はどれだけ時間経っても調理酒に使うくらいなら飲んだ方がいい」と言われたことを思い出した。

うーん、確かにもったいないけど普段日本酒あまり飲まないしなあ、と足踏みしていたら、Hがハマグリの貝殻に酒を注いで、焼きキングシイタケの欠片を入れて出汁割りを作り出した。

「オッオ〜」

都会の外れ、小さな一軒家の縁側に、男たちの歓声が静かに響いた。

七輪でお燗、これはバイト先でも習わなかった高等テクニックである。唇が焼ける覚悟で貝殻のおちょこを煽りながら、またお店に行きたいなと染み染み思った。

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