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新しい土 「春がくるまでお待ちください」

昨日は「春がくるまでお待ちください」の手紙に、たくさんのお返事、記事の拡散、読んだよマークをありがとうございました。


微光がさす道

実は、今回の展覧会は、新しい土のデビュを待っていて。ちょうど一年前くらいから土のプロに相談していたもので、希望を伝え、ブレンドをお願いして、サンプルをいくつか焼いてもらっていた。

学生時代は、研究もかねて土づくりもしたが、いま自身の立場としてやるべきことは何か。その道のプロを、今まで以上に、信じたくなるのだ。

経験をかさね、年齢をかさね、真っ暗だった道に、よい意味で微光がさしてくる。「成功」とか「人気」というスポットではない。まだまだ稼働力はあるものの、体力勝負なこの仕事において、よい意味でさしこむ光。やさしい光が話しかけてきて、だんだん近づいてくる、そんな感じ。

件の光のスポットはまったく気にならなくなって。むしろ、だれかの誘導灯になれば、なんて思いはじめる。真っ暗な道を歩いていたときを思い出そう。仄かな灯が魅力的だった。憧れの光だ。まぶしすぎず、しっかり目をあけて近づけたなあと。


新しい土

不思議なもので、いったん滞った展覧会のフタが取れると、きゅるるるるると水が流れ、2021年あたりまで、ちょっと滲みながらも展覧会のスケジュールが並び、ありがたいなあと目を細める。そこにも、件のスポットの光ではない、あの微光がさしている。ふにゃあとした時間軸を舞う蜻蛉がみえる。

最高温でチカラ尽きた窯の中で生まれた新作。
なかなか落ち着いた色に仕上がった。土のにおいがうれしい春。2月の展覧会にて、新しい土の誕生が祝えればなあと思っている。

大好きなシングルモルトのしずくを注ぐ。窯よりひとつだけ若いけど、ここにも微光がさしている。目をつむり黄金色の液体が生まれた里の話をする。ちいさな祝いごと。新しい土の板の上で滲むチョコレートが美しかった。

春までもうすこしお待ちください。


あとがきコッチョリーノ 

▶︎窯の寿命は10年くらいと言われており、現在19年ということは長寿をまっとうしたというわけです。イタリアから帰国した20年前、窯を設置したとき自身の年齢を加味して「10年経ったころその先に進むか考えよう」と思っていましたが、そこには同じくまだ二足歩行もできない人間も横にいて、もうどちらも考えないふりしてがむしゃらに過ごしました。▶︎窯が故障して、考える時がやってきたのです。体力はあるか、陶芸人生をつづけるかどうか。▶︎先週は予定外の毎日で、窯の故障から急展開したスケジュールをギャラリーやクライアントと組み直したり、窯職人と相談を重ねたり。みなさんとても真剣に向き合ってくださいました。▶︎そして、焼きを待つ作品が目の前にたくさんあり、みなさんが待っていてくださる展覧会があったからこそ。水は流れ、次にゆく。そこには、あの仄かな灯がみえました。▶︎18年物のシングルモルトもいい味でした。(たま)

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