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ゴルバチョフとナスのムッタバル

ナスの皮が焦げるニオイが好き。
ああ焦げた、いい感じねと、いつものように新聞紙を広げ、焦げたナスを風呂上りのベビーのように寝かせおく。くるりと包むのはタオルでなく新聞紙。ちょっと黄ばんだ新聞紙が、気になった。

新聞紙をくるくるくるとやって、ナスは一列に眠ったが、そこにあらわれたのは、ゴルバチョフだった。なんともいい場所に。目があった。

とんでもない新聞を使ってしまったらしい。注視すると日付は1991年(平成3年)12月22日。民主化(ペレストロイカ政策)を推進したゴルバチョフ大統領の辞任表明3日前、つまりはソ連が国家として崩壊する直前の記事だった。そんな大変な時代のゴルビーでナスを包んでしまったじゃないか。しかも中東料理ムタッバルをつくってしまった。政治的緊張が走る。

なぜ、こんな古い新聞が、我が家の古新聞入れに入っていたのかわからないし、それは問題ではない。



情報源が大きく変わり、伝えかたも受取かたも変わった。

ちょっと黄ばんでパリッとした新聞紙には、漢字の練習がしてあった。それも問題ではない。ソ連が大きく変わろうとしているとき、わたし自身も大きく変わろうとしているときだった。この翌年から、わたしはイタリアの工房をまわる旅に出たのであった。(その後、弟子入りの歴史に突入する)

この新聞で、ナスを包んでナスのペースト「ムッタバル」をつくる日がくるなんて、予想だにしていなかった。

つるつるに光る人生の舞台を考えるより、そこに落ちてるくだらない人生のかけらでポケットがあふれる日々が最高だと思う。


あとがきコッチョリーノ

▶︎ナスのペーストは、パンにのせて食べても、パスタにあえても、サラダに添えておいしい。我が家の人気メニューです。▶︎動画のなかで土鍋を使っていますが、調理ボウルとして使い、そのままうつわとして食卓に出すことができるので一石二鳥です。▶︎材料は、ナス、練りゴマ(タヒニ)、ニンニク、レモン、塩、オリーブオイル。今回は練りゴマのかわりに、「わざわざの生アーモンドバター」を使いました。バターといっても乳製品ではなく、薄皮つき生アーモンドをすりつぶし、菜種油、完全天日海塩と黒糖を加えたもので、我が家のお気に入り。練りゴマは「炒ったゴマ」、中東のタヒニは「生のゴマ」なので、わざわざの「生アーモンド」バターはおすすめです。

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