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キズついた桃のように


見た目はアレだけどね、おいしいから買ってきたよと、ゴロゴロ桃が入った茶色い果物袋を抱えて成人息子が帰ってきた。

「さちあかね」だったと思う、かたい桃だけど、おいしんだ。ヘルプで一日桃を売ってきた彼は、5つ買ってきた桃のヘタあたりをクンクン嗅ぎながら、いま食べるならコレと言う。なんだなんだ、即席くだもの販売員。



いいことなんかしていない

流通にのらない(のれない)農水産物をもっと手軽に積極的に食したい。野菜に果物に、米や豆、魚や海苔、生花だって。

「いいことをしている」という気持ちに決してなってはならない。これがはじまると、ただのブームになって本末転倒。言葉だけの持続可能な○○というのも、おそろしい。



夏のおわりと、秋のはじまりに食べるから

皮ごと桃を食べる。
キズがあるくらいのほうが、一層それをしたくなる。

ガブっとすると、桃のかわいい産毛とちょっとした苦味と、そのあと甘味の汁がじゅぅっと混ざる。桃は甘いだけでない。色気があってこそだし、それがいい感じの切なさに変わる。皮と実のあいだの汁を一滴でも逃すまい。

子どものころ、桃の種のあたりから虫が出てきたりして、ギョッとした。一昨年も去年も、イタリアで黄桃をかじっていたら、なつかしき虫が出てきて、ひさしぶりに、ひゃっ!と言ってしまったが、その桃はどれよりもおいしかった。

確かに、その桃には食べる前、小さな穴やキズがついていた。


キズついた桃のように

農家の収益(安定性)や搾取のない産業について、子どものころから、見て聞いて体験して考えれば、きっと良い方向に変われると思うし、そう願う。それなのに、社会を考える教育のマスが足りない。

我が子はそういうことばかり勉強するユニークな小中高校に行ったが、ヘンな学校と言われたり、実際、受験競争なんて知らないから、こぼれていく。キズついた桃のように。しかしキズついた桃たちに、自己肯定感を与えてくれる人がいた。ちょっと苦くて、すごく甘い。彼らから出てくる虫すらにも、誇りを持っている。

キズついた桃には、確かな命が宿っている。



あとがきコッチョリーノ

▶︎日本の桃にはいろいろな名前がありますね。梨にも蜜柑にも。▶︎蟠桃(ばんとう)という平べったい桃を知っていますか?中国原産の桃で、西遊記の中にも出てくる「食べると仙人になれる」という桃。イタリアでは嗅ぎタバコケースという名で数多く売られていて、大好きな桃です。▶︎皮ごと食すことを好むと、たまらなく無農薬(あるいは減農薬)な果物を追いかけたくなります。野菜もしかり。これは自然の流れであって「いいこと」をしたいのではなく、自然に耳をすますだけなのでしょう。

個性ゆたかな福島 国見町産の桃のはなし
週末の桃市 TOBICHI → こちら🍑








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