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必死になると、身体に力が入る

何とかして、離れていこうとするボートを岸辺にとどめなくては! 手の指の先はもう、感覚があるのかどうかもわからなくなってきた。ボートのへりをつかんでいるはずなのに、腕がまるごと、こわばってきてよくわからない。

じゃぼじゃぼと水音は激しく、波が固体になって身体をたたく。ボートもますます揺れている。押さえ込むのが背いっぱいで、腰につけてあるロープをボートに結びつけることもできない。だからといって、ボートに乗り込んでしまったら、この激しい波の中、ボートも私も保っていられる自信もない。

雨風がやんでくれればとは思うけれど、当分、先のこと。連れが車から岸辺に戻ってくる方が早い。

そろそろ、戻ってくるだろうか。連れが戻るのを待ちながら、必死にボートを押さえ続ける。

だんだんと腕がしびれてきた。陸地にぐっとためた下半身も、こわばって動けない。まるで、私がロープにでもなったみたい。陸地とボートを身体でつなぎとめている。

もういいかな、ボートごと、計測機材を流してしまっても……でも、あともう少しだけ押さえ込もう。きっと、連れが戻ってくる。そうしたら、ロープをボートにかけてもらって、一緒にボートを引き上げればいい。

いつまで、もつかな。この腕。わたしも、そろそろ、あきらめたくなってきた。

顎をぐぐっと噛みしめて、腕を必死に伸ばしたまま。意識がぼんやりしてきた。とりあえず、ボートを押さえることだけ考える。

じゃぼじゃぼと触れてくる波の感触。しびれかけている腕の重さ。ぼんやりとした頭。身体はぴんと伸びて、脚全体で陸を抑え込む。

軽く、身体を揺られる。「もう大丈夫だよ」と連れが戻ってきた。安心しても、身体はまだ動かせない。

早く、ボートにロープをかけ終えてくれるといいのだけれど……

と、ここで目が覚めた。

目覚めた私は、ベッドのへりからべろっと身体を伸ばし、並べて置いてあるチェストに身体を半分ひかけていた。

暑い日々になる前に、ほどよく風が通るよう。部屋の中で家具の配置を変えた。ベッドの向きを動かして、壁側に並べてつけてみたばかり。

涼しさを求めて、この姿勢になったのか。手にチェストが触れて、ボートをつなぎとめる気になったのか。

理由は全くわからないけど、
われながら、すごい姿勢で眠っていたなと驚いた。

身体はぎしぎしする。くいしばりも、今朝はいつもより激しかったみたい。口からこぼれたマウスピースが、チェストの前に転がっている。歯ぎしりから歯を守るマウスピースも、作り替え時なのかもしれない。

マウスピースの耐用年数は1年位。そういえば、冬の終わりに作り替えの話が出たままで、世間が騒がしくなって歯科検診日が延期されたな。

歯医者さんへ電話を入れよう。マウスピースも作りなおしたいと、改めてお願いしておこう。……こんな時期だけれど、マウスピース作ってもらえるのかな。どうだろう。

覚えているうちに「歯医者に電話」とメモをして、キーボードに貼りつける。

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本文上の写真は、あらいしんやさんの作品を。雨も光をあてると、こんなにきれいなんだ。きれいな景色をありがとうございます。わたしが夢の中で見ていた激しい雨も、そういえば光っていた。

わたしにとっての雨は灰色で皮膚に痛い固形物。豪雨時の調査のときは、体温を奪う固体でモノクロのイメージが強い。
(雨上がりの水滴は好きだし、家の中から眺める雨も嫌いではない。でも、雨水調査や降雨時の地滑り確認調査に出た時の雨は、もういいやと思ってる)

そして、あらいさんのnoteを読みに行って、みつけた焚火のnote。そろそろ、河原で焚火したいな。どこにいこうか、誰と行こうか。
まだしばらくは妄想のままになる。


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