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夢を見た、朝のはなし

突然、目が覚めた。まだ外は暗い。部屋の中も暗い。

ぽんぽんと破裂音が、隣から聞こえる。
妻の眠るベッドの中からだ。

これが、もう少し硬い音だったら、川を渡すぽんぽん舟のエンジンの音だ。けれど、隣から聞こえるのは、軽い音。
紙ふうせんをつぶすような音。
なんども聞こえてくる。

眠っている人間が出す音とは思えない音。
けれど、妻はよく不思議な音を出す。夢を見ながら。

今朝は、何の夢を見ているのだろうか。

妻は夜、夢の中に生きている。
彼女に言わせるなら、毎日、夢を見ているから、ふたつの世界を生きているのと同じくらいおもしろいらしい。

ものがたりのネタに使えそうだと、嬉しそうにノートを開いているのが朝の日課だ。鼻唄混じりに夢のことを書きなぐっている時は、いい夢でよかったなと思う。

昨夜は、寝始めたばかりの夢のなかで、妻は誰かに捕まったらしい。逃れようと暴れる、必死なうめき声が聞こえてきた。

地の底から聞こえるような、ぐるぐるという音が混じった声。とても、彼女のものとは思えない。

こんな声を聞くと、本当に夢の中に生きていていいのだろうか、と心配にもなる。手をかけて、揺り起こそうかと迷う。

けれど、迷ううちに、妻は何かから逃げ出すことができたようだ。

隣のベッドで、がばっと起き上がる妻。がさこそと、枕元に置いたお守りを取り出した。それを握りこみ、また眠り始める。

隣のベッドをうかがう。
しばらくして、おだやかな寝息が聞こえはじめた。
静かに眠り始めた妻の寝息に、こちらもほっとした。

ぽんぽんと軽い破裂音が聞こえてくる。
目が覚めた。

妻はまだ、夢の中にいるらしい。

さて。朝ごはんのときに。夢の中身を聞いてみるか。
たのしい夢でありますように。

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霧の灯台の写真は、高見澤清隆さんの作品。本文上にお借りしました。

「ヒースの丘」とよく翻訳小説で見てきたけれど、こんな景色だったのか。とか。モノリス、想像より大きいなとか。スコットランドの風景が、どこか懐かしく素敵でした。行ってみたいな、スコットランド。

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