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送れない手紙


ムー、元気ですか、今どうしてるの?

これを書いても、どこに居るのか分からないし送れないし。

もしかして、もうこの世に居ないのかも。

そんな気がしてもおかしくない、すこしエキセントリックで

とんがった、今で言う不思議ちゃんだから。

それに自由人だった。ヨーロッパに行ってきた。とか沖縄にボーイフレンドと暮していたとか。


あなたと連絡が取れなくなってからも、折に触れて思い出すよ。

高校に入学して3年間同じクラスで初めましての時、今まで会ったことのない子だなと思ったこと。

なんとなく気があって、グダグダつるんでおしゃべりしたこと。

何喋ったか覚えてないけど。

お互いに両親が不仲で別居していたこと。

大学で別々に分かれても、暇になると新宿でお茶をしたり映画や演劇を見に行ったこと。

輪島で買ってきたお土産の小箱今でも持ってるよ。

西武百貨店の本屋で着物を着てバイトしたり、寺田修司が大学講義に来て、面白くなかったからハイヒールをコツコツ言わせて講堂から出てきたとか。大学生を謳歌してるのかなと思ってたら退学してきた。とかなんだか危うい行動が気になっていて、何となくだけど、ムーの心の中に小さな闇を感じていたのよ。

お母さんとお父さんが離婚して、お父さんは新しい家族と子供と暮らしていることもあるのかなと思っていた。


運転免許を取るために戸籍謄本を取ったら自分が養子だと分かって、親に聞いたら実の母は今のお母さんの妹で精神病院で亡くなって、赤ちゃんの時に引き取られていた。

と私に話したとき思ったよ。その小さな闇は漠然とした不安だったのかもって。

大学を卒業してからしばらく疎遠になって、私も結婚して子育てに一生懸命だったから、若松町の備後屋さんでバッタリ会ったときは驚いたよね。ふたりとも結婚していてまた行き来したけど若いときより心の起伏が増していたね。

お兄さんが亡くなった心労でお母さんも亡くなったそうで、寂しかったけど結婚して楽しくなったよと話していたのに。


夫が、ムーから電話で離婚したよ~と掛かってきたよ。なんだかアッケラカンとしてた。そんな大変なこと電話でいってくるの?

ムーらしいといえばそうかもしれないね。

それから中々連絡が取れなくなってどうしたろうね。と夫と二人で気にしていたら、しばらくして再婚するので大阪に引っ越すことにしたと電話で知らせてきた。

落ち着いたら連絡先教えるね。と言ってたけど音沙汰なしで

何年も過ぎて、また電話で離婚したよ〜と言ってきた。

裸にひん剥かれてさ、家から追い出されたなんて恐ろしいこと言うから東京に戻ってきたの?どこに住んでるの?て聞いたら長岡京に居るとか言って。

その頃はまだ、携帯電話の普及が今ほどじゃなかったのでこっちからかけ直すよ。番号教えてと言っても変なテンションで喋っていたね。ムー、大丈夫?


それから、もう何十年だったろう。

私、あれから夫も数年前に亡くなり、今では二人の孫のおばあちゃんになったよ。

ムーどうしてますか?逢いたいな、昔みたいにとりとめのない話をしたいよ。

この手紙を読んだら連絡してちょうだい。

梶原メリより








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