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マッカーリ・サイモン 上巻 レビュー

これは独学者のマッカーリ・サイモン上巻(以下サイマ)のレビューです。サイマは独学に最適な一方、読む際の注意点があるので、それを述べました。専門家でないので至らない点が多々あるとは思いますが、参考になれば幸いです。

Abstract

物理化学のうち、特に量子化学を学ぶ上では最適の独学用の教科書。読む際の注意点として以下が挙げられる。2~7章,13~15章(読むかは任意)は詳しいものの、8~12章はある程度の曖昧さが残る。その為、前者はマスターした方が良いが、後者は結果を覚える程度で十分になっている。また、章末問題を行う必要はなく解答も買わなくてよい。理解しつつ早めに終わらせることで、高度な専門書への橋渡しになる。

Introduction

現在、学部生向け物理化学の教科書においてアトキンスと双対を成すのがマッカーリ・サイマという教科書。アトキンスは”百科事典”的であるのに対して、マッカーリ・サイモンは”物語”的。通読すれば概要を理解でき、初学者の独学には最適である。特に、量子化学における説明の詳しさに定評があることがサイマの特徴だ。しかし、筆者が通読し気付いたことは「詳しさに山谷がある」という事である。各章ごとに読み方を変えることでサイマを最大限に生かす方法を紹介する。また、
①章末問題の解答は必要なのか
②アトキンスとどっちが良いのか
という典型的な議論についても一つの結論を述べる。

[注意]

サイマは上巻で量子化学を説明した後に、下巻で気体分子運動論、熱力学、反応速度論を説明する構成になっている。物理化学とは言っても後者に興味がある場合はこのレビューは参考にならない。

Body

サイマは大きく以下4つのパートに分けられる。
この4パートごとに適した読み方を行うことを推奨する。

  1. 1章:超長いコラム <読まなくていい>

  2. 2~7章:サイマ上の心技体 <腰を据えて読む>

  3. 8~12章:展望 <読むべきだが、結果を覚える程度でok>

  4. 13~15章:サイマのおまけパート <興味があれば腰を据えて読んでもok>


①1章:超長いコラム

この1章は2章へのイントロの為だけに存在している。その上、この章はこれ以降の内容に一切関係がない。題名の通り、一章を丸々使ったコラムといったところである。にも拘らず、妙に詳しいので、まじめに読もうとしてしまう。ここで躓いてしまう初学者には目も当てられないので、とりあえず飛ばしておくことを勧める。

②2~7章:サイマの全て

こちらの章については腰を据えて読んだ方が良い。すなわち、数式を追い、手元で導出できるかを確認しながら進めるということである。
この2~7章では、波動方程式の解き方から変分法に至るまで、以降の章や量子化学の本で何回も出てくる基本的な内容が丁寧に解説されている。サイマのレビューはこの部分の丁寧さについて言及しているといってもいい。白紙で再現できるレベルで熟読しよう。

③8~12章:こっからが量子化学

ここまでの内容は量子化学というより量子力学である。従って、量子化学を本格的に説明し始める8~12章は必ず読む必要がある。また同様に白紙再現もした方が良い。しかし、完全なる演繹を行うのではなく話の流れを思い出すだけでいい。内容についても、完全に説明できる必要はなく、結果を暗記するだけでいい。

特に12章とか、流石に説明不足では…?と思う。L-S結合のところとかも正直結果の説明をしているだけだ。しかし、これらは数学的な能力によって説明できることに限度があるから仕方がないと思う。今できるベストは、これらの結果を覚えることで後々出会うであろう証明を待ち受けることだと思う。

④13~15章:読む価値あり。だが興味の分野次第

この章は量子化学の応用分野に当たる分光学の内容になっている。
分光学を学びたいという方や次の点に当てはまる方は読んだ方が良い。

  • NMRってナニ?!

  • IR、何か聞いたことある・・・!

私も分光学に興味は無かったが、上に当てはまって読んだ一人である。内容もかなり詳しくなっており、この章においても”腰を据えて”読む価値がある。
しかし一方で、読まないという選択肢も当然ある。もし更に深い量子化学に興味があるだけであれば、不必要になるであろう。

Clash Point 1-解答は不要

サイマのレビューを調べてみると”解答は買うべきか”という議論が散見される。これについて筆者なりの結論を述べたい。

サイマの章末問題はやらなくていいし、解答は枕

サイマの長所は、量子化学の初歩を詳しく説明して基礎固めをしつつ、その先の展望までも詳しく紹介している点だと思う。つまり、サイマを読むことで次の段階へと素早く移行できる。

そして、章末問題を解くという行為はこのサイマの長所を生かしきれないのではと思う。問題点は主に次の二つ。

  • 問題量が多すぎる

  • 問題の取捨選択が諸学者には困難

教員によるレビューを見ると上質な問題がそろっている”らしい"ので、試験対策などには使えるのだろうか・・・?

Clash point 2

アトキンス VS マッカーリ・サイモン

物理化学の教科書として挙げられる代表的な教科書は

  • アトキンス物理化学

  • マッカーリ・サイモン物理化学

の2つである。他にもバーロー(なんやて工藤…?)といった教科書があるのだが、この二つに人気を奪われたといった理由で余り耳にすることがない。従って、教科書を選ぶ時は多くの場合この二つの間で悩むことになるだろう。
ここで著者なりの意見を述べる。

独学であればマッカーリ・サイモンに軍配

  • 独学で物理化学を勉強する人

  • 授業と並行して自分で物理化学を勉強する人

  • 勉強するときの主軸となる教科書が欲しい人

等のタイプの人にはアトキンスよりサイマを勧めたい。
introductionにて述べた通りサイマは”物語的”、即ち前から順番に通読すれば内容の全体を理解できるように書かれている。更に数学を説明する章も存在するので、高校数学程度の知識で全てを読み習得する事が出来るだろう。
逆に、授業などで既に勉強の主軸がある人にはアトキンスがおすすめされる。

Conclusion

重要度は
1章<<<<[13~15章]<[8~12章]<<[2~7章]
読むときの本気度は
1章<<<<[8~12章]<<<<[13~15章]<<[2~7章]
章末問題はやらんでok
サイマをやるなら通読一択。さっさと終えて次のステップへ。

あとがき

学問を学ぼうと志を立てた独学者が直面する最初の問題、それは「何の教科書を勉強すればいいか分からん!!」だと思う。サイモンマッカーリは独学には一番良い教科書だと思うのだが、如何せんレビューが少ない。そうした状況下で、教科書選びを失敗してしまう初学者を減らすべく、僭越ながら少々思うところを述べさせて頂いた。

clash pointの言い訳

本を手に取った方ならお分かりだと思うが、Clash Point1はかなり過激な立場をとっている。というのも、本教科書の序文に章末問題にも十分注意を払うようにと明記されているからだ。確かに、授業で取り扱う等の理由で、サイモンマッカーリに一定期間を割り当てて理解を深める場合は章末問題を取り組んでも良いかもしれない。しかし、独学の場合は常に機会費用がつきものである。即ち、マッカーリ・サイモンを選択するという事は他の教科書での勉強を犠牲にしているという事なのだ。現在の私の視点からでは、幾多の教科書・問題集がある中でサイマの演習問題を取り組むことが最適解とは思えなかった。


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