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ドラマ「Q10」は大人たちのための物語かもしれない

いま、Tverでドラマ「Q10」の配信をやっていて、毎週更新を楽しみにしている(Tverだと数話ずつ更新されて、前の話は観れなくなってしまうのだけどこれを機にぜひに観て語り合いたい)

2010年に放映されていた時には社会人1年目で忙しかったことに加え、「人気絶頂アイドルがロボット役の青春恋愛ドラマ」という触れ込みにどうも抵抗があり観れていなかったのだけど。木皿泉脚本だし、出演者も魅力的なのでずっと観たいなと思っていて。でも、10年以上経って30代になった今、観れてよかったな。

めちゃくちゃワクワクしてソワソワしてドキドキするメインテーマ。

佐藤健演じる主人公の平太は幼い頃に心臓病を患った経験があり、高校生になった現在も日常生活に小さな支障がある。そのことが彼をどこか達観した、悪く言えば諦めのようなものを抱えた高校生にしていた。そんな平太の元にある日突然、前田敦子演じるロボットのQ10(キュート)が現れ、平太の心が次第に開き、動き出していく物語。

平太と同じく幼い頃に心臓病を患い、そして現在も闘病を続ける友人を池松壮亮が演じる。病気が治った平太に対し、いまだ入院生活を続け留年し社会と距離を置く久保はいわば「平太の治らなかったかもしれない人生=パラレルワールド」を生きるような存在で、「達観できる」ことさえ実は幸せなことなのかもしれないと、パジャマ姿で病院のベッドに横たわる久保を見ていると感じたりする。

柄本時生演じる、荒んだ家庭環境で進学もままならない藤丘の抱える怒りは、諦めの中、漫然と学生生活を送りながらも、なんだかんだ平凡であたたかい家族と暮らす平太とは対照的で、抗えない環境への無情さがこれまた苦しい。

周りの目を気にして優等生として生きる、高畑充希演じる河合、他者が求める「らしさ」の基盤から外れないように明るくふるまう賀来賢人演じる影山など、クラスメイト一人ひとりのキャラクターは「学生ならでは」では到底片付けられない、普遍的な「社会の中のにいる個人の生き方への葛藤」を描いている。

物語の端々で、平太の心の内がモノローグとして語られる。佐藤健がモノローグがうまいんですよまたこれが!うんでもやっぱり、木皿泉のセリフのつむぎが本当に素敵なのだな。

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個人的なこと。

春が来るけれど、今年の私はなぜかどこかで諦めている。若い頃は、冬に嫌なことがたくさんあっても「暖かくなれば」「春が来れば」と期待して生きてきたように思う。だけど、歳を重ねたり、コロナが来たり、戦争にまでなってしまったり。季節が廻っても良い方向に変わらないことばかりで、それなのに無力でしかない自分を受け止めたくないから、はじめから何にも期待していないように、世の中のことは自分とは関係のないことなんだって振る舞っている節がある。そんな自分が、妙に平太と重なって。

平太の元に現れたQ10は、見るからにロボットで、突拍子のない行動や不可解な言動ばかりで周囲を混乱に巻き込む。それでも「喋り方が変だ」と言われれば、落語のCDを聴いて言葉を練習し、落ち込んだ人間を励ますために彼女なりに奮闘する。そんなQ10に平太は

「焦った。Q10にも目標みたいなものがあって、そしてそのために努力している。俺は次、なにをしたらいいんだろう」

と心を揺らす。

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平太の抱える悩みは、平和の上に成り立っている。要は、「贅沢な悩み」にすぎない。要領良く、俯瞰しているように見えて、実は彼を取り巻く人たちの抱えるものに気付いていない。でも、だから稚拙で、だから悩むこと自体がダメで、しゃんとすべき……といかないのが、やっぱり人生なんだよな。

そしてそんな「少し甘えた平太の姿勢」が、今、こんな時世になってしまったこの期に及んで、自分の半径数メートルのことでしか悩めない自分に重なり、ドラマの中のセリフが心に刺さっていく。

そんなわけで「懐かしの学園ドラマを観る」のとは全く違う感情で、ドラマQ10を噛み締める日々です。物語の最終回はどうなっていくのかしら。

桜が咲いて散って、新緑が芽吹く頃、自分の気持ちはどこにいるのかしら。

最後に、3話で高畑充希ちゃんが劇中で歌う、はしだのりひことシューベルツ『風』のカバーが素敵で涙が出そうになるので貼っておきます。(itunesにあるみつきちゃんのカバーアルバムにも収録されていたので買ってしまった)


人は誰もただ一人 旅に出て 人は誰もふるさとを 振りかえる
ちょっぴりさみしくて 振りかえっても
そこにはただ風が 吹いているだけ
人は誰も人生に つまずいて 人は誰も夢破れ 振りかえる 
何かを求めて 振りかえっても
そこにはただ風が 吹いているだけ
振りかえらずただ一人 一歩づつ
振りかえらず泣かないで 歩くんだ



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