飲みたい女、飲めない男 (とらばーゆ 1986)

 これも、ずいぶん前のことだ。

 酒を一滴も飲まない男とつきあったことがある。ある晩、その男と、ほかのひとたちといっしょに酒を飲んだ。といっても、もちろん、その男はコーラしか飲まなかった。キリッとおいしい焼酎があり、すすめられて、わたしはけっこう飲んだ。

 その翌日、わたしは上機嫌で、男にいった。「きのうの晩の焼酎、おいしかったなあ。スイスイはいっちゃったけど、今日、ぜんぜん二日酔いしてないわ。いいお酒だったな」

 すると、男は、とつぜん怒りだしたのである。

「オレが酒飲めないの知ってるだろ。いい酒だったの、二日酔いしなかっただのって、オレにわからないこと、わざわざいわなくても、いいだろ」

 もちろん、わたしは、男を不機嫌にするつもりはなかった。きのうの晩はたのしかったわねと、いいたかっただけなのだ。でも、その男は、たのしんでいるようすではあったが、じつは、ほかの男たちに、「いい飲みっぷりだ」といわれながら酒を飲んでいるわたしを見て、いい気分ではなかったのだろう。

 その男は、いわゆる男らしいタイプであった。こまかいことをガタガタいわないし、頼りにすれば、いっしょうけんめいにがんばってくれる。女が一歩ゆずってさえいれば、良き父、良き夫となるタイプだ。

 彼は、自分が男らしくなければいけないと考えていたから、自分は酒を飲めず、反対に、女であるわたしが、男の領域であるはずの酒の世界にドカドカと踏みこんで、たのしんでいることが気にいらなかったのだろう。

 男のなかには、自分は飲まなくても、彼女が飲んでいるのをニコニコと見守っているひともいる。しかし、自分が飲まないからという理由で、日常生活に支障をきたすほどでもないのに、相手が酒を飲むことが気にいらなくて怒るのは、男だけだ。女だったら、自分は飲まなくても、まあ、ちょっとぐらいなら気にしない。

 わたしだって、そんなにたくさん飲むわけじゃない。もちろん、酒は好きだ。毎晩、ビールの小瓶を一本飲みたい。ふだんは、それでじゅうぶんだ。ウイスキーのボトル三分の一ぐらいが、最高限度だ。

 男だったら強いともいわれないぐらいの量しか飲まないのに、それでも、わたしは、友だちから「酒豪」といわれている。いくら飲んでも、顔色がまったく変わらず、酔ってフラフラになるということもないからかもしれない。もちろん、これは限度内のことで、飲みすぎたら、青くなる。

 最近の女のコは、よく飲むようになったとはいっても、やっぱり、ビールコップ一杯でまっかになり、もうけっこうというコがまだ多いので、わたしぐらいでも目立つのだろう。さて、お酒を飲みたい女が、自分は飲めず、さらに、自分の彼女にも飲んでほしくないタイプの男とつきあう場合、どうしたらうまくいくのだろう。わたしには、まったくわからない。酒の世界は男の領域だと考える男の気持を理解することができないし、自分の飲めない酒をほかの男とくみかわすことに対して、ジェラシーなんかがからんでいるとしたら、そんな男の相手、どうしていいのかわからない。

 酒なんて、無理に飲む必要はないんだから、各自が、自分のペースでたのしめばいいものだと思う。どうせ、男と女がいっしょにいても、すべてのたのしみを共有することはできないのだ。もし、わたしの相手が釣が好きなら、わたしはぜったいに釣をする気はないが、どうぞ行ってらっしゃいといってあげたい。それと同じように、わたしがお酒を飲むことをたのしんだって、いいでしょといいたい。

 こんなことばっかりいっているから、お酒を飲まなかった男とは、自然消滅。けっこういい男だったけどね。


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飲みたい女、飲めない男 (とらばーゆ 1986)

たなか かい <田中りえ>

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