お腹がすいたらスニッカーズ

カップヌードルの反撃

熱湯を注いで食べるカップヌードルに、氷を入れて、冷たく食べる。

日清食品が、巨額の広告費を投じて提案した、アイスカップヌードルとい食べ方です。

こうした提案を、用途提案といいます。

用途を提案されることで「そうか!そう使えばいいんだ」と気づく。

そう気づけば、そう使う(買う)という仕組み。

人は、意外と、考えるのが苦手というか、考える作業は、けっこう面倒なもの。

だから、売る側が考えて、提案する。その提案が、受け入れられれば、売れるというわけです。

受け入れられるかどうか?

それは、リサーチしてみれば分ります。


しかし、リサーチすれば大体「きっとダメだ」という抵抗が主に返ってきます。

私事ながら、のっけから「これは売れるぞ」と手応えをつかめるリサーチなど経験したことありません。だいたい最初は「可能性ゼロ」が普通。

カップヌードルの場合、リサーチの結果、卸から、

「袋めんが25円で安売りされている時代に100円は高い」

と拒否され、問屋→小売店という正規の販売ルートが閉ざされてしまいました。

メディアからは、

「屋外レジャー向けのキワモノ商品」「立ったまま食べるのはマナーが悪い」

と否定されました。実際、まったく売れなかっそうです。

そこで、新しい販売ルートを開拓すべく、お湯の入ったポットを持って、夜勤の多い職場(警察署、消防署、遊園地、スタジアム)を回ったところ、自衛隊が最初の顧客になったそうです。この時点で、やっと顧客を確保。


深夜の営業活動ですからね、その営業努力たるや、凄まじいものがあったはず(日中の通常業務もありますし)

次に仕掛けたのが、試食販売。銀座の歩行者天国で「立ったまま、カップ入りのラーメンを食べる」というライフスタイルを提案したところ、受け入れられ、1日に2万食をも販売(銀座の露天で、どうやって1日2万食分の熱湯を用意したのか不思議)

次に、カップヌードル専用の自動販売機を開発して、200カ所に設置。これがヒットし、わずか一年後には、コカ・コーラの自動販売機に次ぐ2万台へ増加。

そして、テレビでの露出。浅間山荘事件で、カップヌードルを食べる隊員の姿が何度も映し出され、爆発的に売れ出したという経緯に基づきます。(カップヌードルのホームページより)


マーケティングの現場では、常識的に考えると売れるはずのないものを、売る必要に迫られることが多々あります。

その時、どう考えるかというと、顧客の価値を提案すること。用途提案です。

カップヌードルは、夜食、アウトドア、24時間という、普通の食卓では得られない価値を提案し(筆者分析)、それを必要とする層に受け入れられました。

用途提案がカップヌードルを救ったといって過言ではないでしょう。

カップヌードルの防御

日清食品の余談ですが、日清食品は「真似されれば、すぐ裁判沙汰へ持ち込む」と一部の業界人や競合他社から不評のようですが、真似しづらくて文句をいうなんて、中国人もビックリの暴論。

日清食品とはしては、そりゃ防御するでしょう。

有史以来、世界で初めて、日清食品が作ったインスタントラーメンを、後発のメーカーが真似た影響で、一時は、倒産の危機に追い込まれたくらいです。

競争原理が働き、価格が下がり、選択肢が増えるのは、買う側として、嬉しいもの。

しかし、真似が生き残り、本家本元が淘汰されるのは、如何なものでしょう?

真似には、新しい価値を生み出す創造力がありませんから、創造力のある本家本元が潰れると、もう、新しい価値が市場へ出にくくなります。


事実、もしも日清食品が潰れていたら、カップ麺は誕生したでしょうか?

そのカップヌードルを、日清食品が世界に先駆けて市場導入した時も、次々と後発メーカーが真似ました。

日清食品だって、いつまでもやられっ放しじゃありません、自己防衛のために提訴しました。かれこれ30年くらい前の話です。

その時に敗訴した競合他社が、今回また「夏は氷を入れてアイスで」と堂々と用途提案していましたね。


その競合他社が、今では日清食品の子会社になっているからでしょうか、それとも、食べ方の提案は、レシピ同様、知的所有権を取得しにくいからでしょうか、日清食品は黙して語らず。白紙に絵を画くのは難しいものですが、画いてある絵に手を加えるのは易しいもの。

願わくば、業界内で足を引っ張り合うのではなく、業界が一丸となって新しい価値を創造してもらいたいものです。

インサイトに基づく用途提案

アイスカップヌードルは、食べ方の提案ですが、食べごろ(いつ食べるか)の提案も、用途提案です。

「お腹がすいたらスニッカーズ」のコピーで、そのまんま食べごろを提案しているのが、スナックバーのスニッカーズ。

間食としての菓子を、空腹にフォーカスして、いつ食べるか訴求しています。

食べ頃、飲み頃というと、どうしても「おいしく出来あがる瞬間」に焦点をあてがちですが、それは、作る側・売る側の視点。

それが間違っているということではなく、

「買う側の視点(おいしく食べたい瞬間)も切り口にしてみませんか?」

ということです。


スニッカーズは、空腹という、人間のインサイト※に基づいています。

アイスカップヌードルの「冷たく食べる」もインサイト。暑ければ、冷たいものを欲するのが、人間の根源的な欲求。

翻せば「お腹が空いた。空腹を満たしたい」や「暑い。体温を下げたい」といったインサイトの元では、スニッカーズだろうと、アイスカップヌードルだろうと、何だってイーんです。問題は、

「お腹がすいたら、当社の商品」

「夏は冷たく、当社の商品」

といった切り口を、考えられるかどうか?

その切り口を考えたら、あとはテストしてみるだけ。

用途提案は、巨大メーカーにのみ許されたマーケティングではありません、町の肉屋さんが、

「お腹がすいたら、揚げたてコロッケ」「夏は冷たく、コールドチキン」

と店先に貼り出すだけ。その紙一枚が、用途提案になります。

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